第6話 だれのせい?
訪れた町で回復ポーション++を開拓村で売ったときの三倍の値段で売りつけると、今度こそ、日が暮れるまでに次の目的地に着くように出発した。カビルンバの提案により、ずいぶんと街道から離れた場所を飛行することになってしまったが。
「これで本当に大丈夫なのか? 何か妙なことが起こったりしないよね?」
「大丈夫ですよ、たぶん。可能な限り面倒なことからは避けているつもりです。道から外れているので人目にはつきにくいですし、さすがにこの辺りまで来る人はいないでしょう」
なるほど、確かにそうかも知れない。だが人が来ないということはモンスターの数が増えるということにもつながる。そしてその懸念はすぐに的中した。
「それなんだが、何だかたくさんのモンスターの反応があるぞ。この感じだと、ゴブリンかオークの集落だな」
「どうしてそんなこと言うんですか」
カビルンバが半月の形をした目をこちらに向けて来た。まるで非難しているかのようである。ちょっと待った。何だか私のせいになってない?
「いや、索敵に反応があったから言っただけで、この位置を飛べって言ったのはカビルンバだよね」
「そうですけど……これは厄介なことになりましたね。このまま放置しておくと、数が増えたモンスターが町を襲うかも知れません」
「それはまずいな。よし、今のうちに潰しておこう。それなら被害が出なくてすむだろう?」
「いや、えっと……そうですね」
少し悩んだのちに賛成してくれた。フハハハハ、復活した我が力を見せてやろうではないか。この位置から魔法を撃ち込めば一網打尽にできるな。スーパーファイアーボールにしようかな? それとも、ウルトラファイアーボール?
「レオ様、まさかこの位置から魔法を撃ち込んで、あの辺り一帯を更地にしようとか思ってませんよね?」
「う……ダメだった?」
「ダメに決まってます! 魔王にでもなるつもりですか」
「いや、私は錬金術師になって、スローライフを満喫したい。そしてたくさんの人を笑顔にするんだ」
「それなら目立たないようにしなければなりませんよね」
カビルンバが「笑っているのに笑っていない」という器用な表情をした。目の上の菌糸がピクピクと脈動している。どうやら広範囲殲滅魔法で地形ごとまとめて吹き飛ばす方法はダメなようだ。
「近くに降りて、もっと弱い魔法で倒しましょう。この間使ったドリルランスとかはどうですか?」
「ちょっと地味じゃ……そうさせてもらいます!」
勝利の方程式は決まった。私のドリルランスで全てのモンスターを貫く。ブラックベアーの硬い皮膚を貫く私のドリルなら問題ない。
さっそく作戦開始だ。近くに降りると、どうやらモンスターの集団はゴブリンだったようである。
緑色の体に、生気のない目。身長はテーブルの高さほどしかなく、耳がとがっている。一説にはエルフが作り出したと言われているが、エルフたちはそれを否定している。そして数だけは多い。どうやって繁殖しているのかは不明だが、「スライムのように、分裂しているのではないか」と、まことしやかにささやかれている。
「ひい、ふう、みい、よ……かなりたくさんいますね」
「よくもこれだけ増えたものだ。近隣の住人は気がつかなかったのかな?」
「どうやらそのようですね。上位種のゴブリンジェネラルや、キング、ロード、ヒーローまでいますね」
「これは倒したあとの素材が期待できそうだ」
ゴブリンキングが落とす「ゴブリンキングの王冠」とゴブリンロードが落とす「ゴブリンロードのネックレス」、それからゴブリンヒーローが落とす「ゴブリンヒーローのマント」はマジックバッグの上位互換であるヴォイドバッグの素材になる。もし手に入れば飛び級できるぞ。どうやら運がこちらへと回ってきたようである。よっしゃラッキー!
ターゲット、ロックオン。これより攻撃を開始する。と言っても、特に魔法を詠唱したりとかしないので無言である。こちらの攻撃に慌てたゴブリンたちが一斉に動き出すと面倒なので、一撃でまとめて始末することに決めた。
さらばゴブリン。とこしえに。ゴブリン軍団、全滅だ!
周囲がドリルランスの回転する音で騒がしくなったが、すぐに静けさを取り戻した。全てのゴブリンは霧が晴れるかのように霧散した。残されたのはいくつかの素材だけだった。
「……相変わらずすさまじいですね。どうしてそれだけの力があって負けたのですか?」
「ほら、みんなが頑張って作ってくれた魔王城を壊すわけにはいかないだろう?」
「そんなことを気にしてるから負けるんですよ。ちなみに魔王城は取り壊されて、今では平和記念公園になっていますよ」
「なんてこった!」
私の努力は何一つ報われなかったのか。まあ、戦いに負けたし、しょうがないよね。まさか勇者たちがあれほどの力を持っていたのも誤算だったけど。確か異世界から来たって言ってたな。一体どうやって次元の壁を越えてきたのやら。
「ほらほら、早いところモンスターが落とした素材を拾って領都へ向かわないと。良い宿が全部埋まってしまって、馬小屋みたいな宿に泊まることになりますよ」
「ちょっとそれは勘弁だな。魔力は回復しそうだが、肉体と精神的な疲れは取れなさそうだ」
地面から突き出たドリルランスを避けながら落ちている素材を探す。ゴブリンはゴミのようなものしか落とさないから放置するとして、問題は親玉たちだ。ドリルランスが密集している場所をくまなく探す。大物を倒すには何本ものドリルランスが必要だからね。
「うーん、どうやら『ゴブリンキングの王冠』がなさそうだな。他の二つはあったのに。残念」
「仕方がないですよ。むしろ、二つ手に入っただけでもラッキーだと思った方が良いですね。他の二つに比べて、『ゴブリンキングの王冠』は手に入れやすいですから。お金さえあれば楽に手に入れることができるはずですよ」
「それもそうだな。お金をためて、そのうち買おう」
ゴブリンジェネラルが「ゴブリンソード」を落としていたが、重いし邪魔になるので持って帰るのはあきらめた。一人しかいないのだ。何事もあきらめが肝心だ。
再び空へと舞い上がると、今度こそ、領都へと向かった。
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