3話 恋人って

「おーい!色羽、早く着替えないと授業遅れるよ?」

「あ、ごめん!」

昼食を食べ終えた2人は次の授業のために更衣室に来たのだが、色羽が一向に着替えない。

先程のことで頭がいっぱいなのだろうか。

沙羅はそんな様子を見て目の前で手をふり声をかけると、彼女はハッとしたようで急いで着替え始めた。


着替えを終えグラウンドへ向かうと、他の皆はもうストレッチや2人1組でパス練習を始めているようだ。

「色羽、うちらも早くやろ!」

「うん!」

2人も皆に追いつこうと急いでストレッチをして、パス練習を始めた。


しばらくして集合!と合図があり、皆はパス練習をやめて先生の周りに集まる。


「今日は男女混合でサッカーの練習試合するぞ!チーム分けはこれだ!」

彼が大きな声でそう言うと、皆はチーム分けを見て好き勝手喋りだす。

その様子を見て、教師は生徒達を大人しくさせキーパーを決めてから配置へつくよう指示をした。


生徒達は誰がキーパーをやるか話し合いを終えると、それぞれの場所へ行き試合が始まった。


試合開始後30分ほど経つが、両チームとも激しい攻防を繰り返し一向に点は入らない。

しかし、そんな状況を打破するべくAチームが動き出す。

皆でアイコンタクトをし、敵を交わしながらパスを繋いでBチームのゴール前まで近づいてきた。


「よし!いっけー千章!」

最後にパスを受け取った彼は、チームメイトの声にうなずくと思いっきりゴールを目掛けて蹴った。

すると見事にキーパーのおでこに直撃したのだ。


「成瀬さん大丈夫!?」

「色羽!!」

周りにいた数人がキーパーであった色羽に声をかけるも、目を回しており返事がない。


「先生!僕、保健室に連れていきます。」

蹴った本人もすぐ側へかけつけると、先生へ一言言うと彼女を背負って急いで保健室に向かった。


「すみませーん!…あれ、いないのかな。」

あっという間に保健室につくと、千章は保健の先生がいないかと声をかけるも応答がないようだ。


とりあえず彼女をベットへ寝かせると、彼は何か冷やせるものはないか探し始めた。

まず冷蔵庫の中から保冷剤を見つけると、冷えすぎないようラックに置いてあったタオルを手に取る。

そして保冷剤をタオルでくるみ色羽のおでこへ乗せた。


「ごめんね、僕がぶつけてしまったから。」

千章は寝ている彼女の頭を撫でながら、申し訳なさそうに言う。しかしまだ目を覚まさないようだ。


「恋人ってなんなんだろうね…」

彼は一旦撫でるのをやめると、グラウンドを見つめながら悲しそうな面持ちで呟く。

彼女を傷つけてしまったことを悔やんでいるのだろうか。


「…え?」

「あぁ、なんでもないよ。それより目が覚めてよかった。色羽、僕のせいでごめんね。具合はどう?」

色羽は目を覚ますと、彼の声が聞こえていたのか不思議そうに千章を見つめた。

彼は彼女の様子に安堵した表情をするも、先程の発言は誤魔化すように話を進める。


「お陰様で大分痛みが引いてきたよ、でもまだズキズキする。」

「そっか、それならもう少し安静にしておいたほうがいいね。」

「そうだね、ありがとうしのちー!」

「じゃあ僕は先に授業に戻るから、色羽も具合が良くなったらもどっておいで?」

千章は彼女の言葉を聞くと、もう一人でも大丈夫そうだと思ったのか優しく彼女の頭を撫でると一人で授業へ戻ってしまった。



(どうしてあんなこと言ったんだろう?)


千章が戻ったあと一人残された色羽は、ぼーっと天井を見つめている。

彼の言った言葉が気になっているのだろうか。


そうしているうちに時が過ぎ、校内に授業を終える鐘が鳴り響いた。














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