第5話 最後の言葉


  それなのに、こんな小娘に心酔してー

  深雪は絶命し、その場に倒れる。

 リカー

  詩織は血を流しながら、足を引きずりリカの倒れている方へと向かう。

    上空が暗黒の巨大な渦に覆われ、

 次元空間に無数の亀裂が走り始めた。

   

   空中浮遊要塞の魔導増殖炉が、メルトダウンを起こし、誘爆しようとしていた。

  ここに来る前、深雪が檻村の側近に指示して証拠隠滅のためにこの次元世界を消滅させるために、魔導増殖炉の制御装置を操作して暴走させていたのだ。

    もうすぐ、増殖炉が融合し次元崩壊がはじまる。

 次元崩壊が始まれば、次元世界そのものが消滅してしまう。

   詩織はバランスを失い倒れる。

   そして、這いずりながら、手を伸ばしてリカ方へと近づく。

   リカも目を開けて、詩織の方へ手を伸ばした。

   2人の指先と、手が1つに繋がる。

  その瞬間、世界は灼熱の炎に包まれ、次元の狭間に消えた。

   光り輝く虹色の次元の狭間の中で、2人は、お互いの左手を繋いだまま向かい合って見つめ合っている。


  「詩織、最初、私はあなたの事を利用するつもりで近づいて来た。

   でも、あなたとずっと一緒にいて、

 あなたの事が好きになっていた

   掛け替えのない、大切な友達だと思うようになっていった。

   最後にあなたに出会えて、私は幸せだったわ」

 リカが最後の想いを詩織に告げる。

「リカ」

 詩織がリカの名を呼ぶ。

 話たいことは沢山あるのに、上手く言葉が出ない。

  「 思い残すことはもうないと言ったら嘘になるけど、

    あなたのおかげで、最後に友愛を知る事ができた。

   詩織、これからは、誰かの為だけじ

 ゃなく、自分が幸せになる為に生きて欲しい。

     ありがとう。私の。」

 「リカ!!」

  そう言って、リカは光の奔流の中に消えていく。

    

  目を覚ますと、そこは病院のベットの上だった。

    どうやら、次元崩壊でバークガルの世界が消滅したあと、詩織は次元の狭間を漂流して近隣のこの次元世界に流れ着いたそうだった。

   しかし、リカの消息は不明のままだ。

  最後に見たのは夢だったのか?それとも?

  あれから、あの戦いで大打撃を受けた連邦とプロメテウス双方の陣営は、和平の為の休戦協定を結んだらしい。

   フューリズの脅威は今だ去らないが、

 それでも、詩織たちソーサレスが健在である限り、世界は必ず救済されるはずである。

  レグレッションは檻村の総帥にして組織の最高司令官である檻村深雪を失い、更にはあの最後の戦いで多くの幹部を失い、大幅に力を失くしている。

    全ては良い方向へ進んている。

  筈だった。

  けれども詩織の胸の中には、ポッカリと大きな穴が開いた状態だった。

   冬河リカー

 彼女がいない。

   あの後、捜索隊を出し、彼女の行方を探したが、彼女は見つからなかった。

    そして、改めて、 自分が本当に

 大切なものが何だったのか、理解した。

      詩織は今も、フューリズとの戦いを続けている。

    いずれ誰かとまたパートナーを組む事もあるかもしれない。

   けれどもリカほど熱烈に、友愛を感じることはないだろう。


   ある日、街の中を一人で歩いていた。

    「 檻村 詩織さん? 」

  後ろを振り返ると、何処かで見覚えのある顔がいた。

 何と、以前 氷の矢による射撃で詩織を殺そうとした真紅のローブのソーサレスが立っていた。

    エンジェル・シンフォニーで心の旋律を聴いてみるが、敵意はない。


   「 ちょっと、お話があるの 」

  息が切れそうなほど、一生懸命走っていた。

   そして、病院の屋上に向かう。

    レイナの話によると、消息不明だった彼女が連邦政府所属の次元世界で見つかったらしいという。

   それをレイナが保護したそうだ。

   そして、扉を開けると、そこに彼女がいた。

  

「リカ、リカ。」

   はあっ、はあっ。

  乱れた呼吸で必死に息を整えながら、

 彼女の名前を呼ぶ。

   期待と希望で心臓が高鳴なる。

     リカー

  そして、もう一度。

   彼女は振り返ると、詩織の方を見た。

  詩織の心が清蒼の空に溶けるように、

 歓喜で満たされる。

  彼女が、何か、怪訝そうな表情をする。

「 あなた、誰ですか? 」  

   「リカ!? 」

   そして、駆け出して行って彼女の事を抱きしめる。

  「キャッ、ちょ、ちょっと、辞めてください。私は、あなたの事なんて知りませんから。」

  彼女は詩織の身体を掴んで詩織を引き離す。

   

  「私、実は記憶喪失なんです 」

「 嘘でしょ。リカ。だって本当に記憶喪失だったら、レイナさんが教えてくれてるはずだもの。それに、記憶喪失のフリするなんて悪い冗談、リカの考えそうなことだわ」

   詩織は彼女の両腕を摑んだまま、瞳を見つめながら言った。

「うふふッ、どうやら、本当にバレてるたいね」

 リカが顔でを赤らめて、笑みを浮かべて言った。

   ずっと一緒にいたんだから、それくらい解るわよ。


 「 おかえり、リカ 、これからどうするの?ソーサレスは、続けるよね? 」

  そう言って詩織は、リカの左手を両手で掴む。

 ソーサレスとは精霊の加護を受けたソーサリーを持つ者の証明であり、ソーサリーとはソーサレスたちを繋ぐ絆の鎖である。

  詩織は知っている。

  リカがただ、邪悪な想いだけに囚われて戦っていた訳ではない事を。

   心の奥底では、友愛や慈愛など、様々な想いが深く潜んでいる事を。

   ずっと一緒にいて、心を通わせて戦ってきたからこそ分かる事だ。

   復讐は終わったが、リカはまたソーサレスとして戦い始めるだろう。

   誰かを救うために。

   誰かを護る為に。

  それなら、そのリカは誰が護る? 

「ただいま、詩織。それから、詩織。

 今の私があなたに言えることは、ただ1つ」

   詩織が、リカの顔を見つめて次の言葉を待つ。

「 今日は何処に遊びに行こうか ?」

   清涼な風が吹き抜けて、青空へと消えていった。

    2人の未来と希望は、今この瞬間から始まる。

   

   

    

 

   

   

 

    

   


  

   

   

   

  

   

  

   

    

    

 

 



     

     

      

   


         

   

   


   

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