第2話 天空の聖炎


        「グランダムが、陥落?」

    次の日、リカと詩織は、プロメテウスの首都であり空中浮遊要塞、ジークフリートに帰還していた。

   その要塞内の司令室で、2人は深雪に謁見していた。

  「 ええ、ビュランドに続いて、もう既に4つ目の要塞が陥落したわ。

   

 いよいよ、連邦軍が、本格的に総攻撃を仕掛けてきたわ。

    私達にとって、これはかつてないほどの緊急事態よ。」

    詩織がいつになく真剣な表情をする。

      「アリシア・リヴァイ上級特佐の指揮権のもと、あなた達には、バークガル要塞都市の救援をお任せするわ。」

    「でも、お姉さまは?」

   ジークフリートは首都である。

  当然連邦の標的になりやすい。

 「 私のことは、心配しなくても大丈夫よ。

  それより、あなた達は、どうするの?

   もし自信がなければ、」

  「いいえ、お姉さま。私達にお任せください。

   バークガルを、私達で死守して見せます。」

   詩織が強い意思と覚悟とともに毅然とした態度で返答した。

「そう、それは心強いわね。

   あなたは?冬河さん」

   「私も、大丈夫です。」

 リカは静かに答える。


「二人共、私が、アリシア・リヴァイ上級特佐だ。

 諸君らには、私たちと共にバークガルの救援に向かってもらう。

    現在バークガルは、連邦軍の猛攻撃を受けている。

 私達は、所定の空間領域に次元転位したあと、

 連邦の包囲網を突破して、要塞の救援に向かう。」

    アリシアとその直属の精鋭部隊と、リカと詩織の2人は、要塞内部の訓練施設で合流した。

  2人はこの部隊に臨時で編成されたため、アリシアから指令内容の詳細を簡潔に説明される。

     2人とアリシア、それからプロメテウスの上級ソーサレス12名で編成された部隊は、バークガルの空中浮遊要塞のある次元世界へ次元転位して来た。

    異次元にも、物質世界と同じように形状や距離のような概念があるので、転位が可能な地域とそうでない場所がある。

   建築物で言うところの外壁や床、天井のような概念である。

    さしずめ、次元転位が可能な位置や場所をエレベーターの昇降機で例えればいいだろう。

    その為いきなり要塞内には転位出来ないため、そこから幾らか離れた距離の位置に転位して、そこから物理的に移動して要塞に向かう。

    アリシアの部隊のソーサレスたちは、要塞に隣接する現地の地上、陸地の都市圏内に次元転位した。

   そこは標準世界より少し科学技術が発展した近未来の都市だった。

    アリシアの部隊のソーサレスたちは、それぞれ一定間隔の距離をとり、道路やビルの屋上などを疾走と跳躍を繰り返しながら進行していった。

    ライトレール・アクセル( 電磁波高速移動 )の 展開による加速と跳躍、疾走を繰り返し、高速移動していく。

     アリシアの部隊のソーサレスは、プロメテウスの上層部に寄って選抜された、それぞれが各財閥に所属する超最高級のエリート・ソーサレスたちだ。

     

     要塞までの直線距離から数キロ離れた位置で、翼竜と機械が融合した飛行型のフューリズが高層ビルの谷間を縫って飛翔していた。

    ワイバーンWPV97Se6型のフューリズだ。

 連邦政府のソーサレスが召喚して異空間から次元転移させて連れてきたフューリズだ。

 ワイバーンは圧縮された灼熱の炎の塊を口から放出して、地上のビルや道路、逃げ惑う人々を無差別殺戮していく。

    詩織がワイバーンをチラリと一瞥した。

   「駄目よ。今は、要塞を守護するのが先よ。」

   詩織がワイバーンの動向を気にしていることに感づいたリカが、詩織に言った。

  「わ、解っているわ。」


  遥か彼方の上空から、9機の戦闘機が超高速で飛んでくる。

    空中を旋回するワイバーンの身体中の気門から幾つものレーザービームが発射され、7機の戦闘機を一瞬で撃沈させた。


   詩織の慈愛心と理性の均衡が一瞬で瓦解した。

     もう、連邦とプロメテウスの戦争や任務遂行などはどうでもいい。

   今は目の前の力なき人々を救うのみ。

  詩織は軌道を変更すると、黙ってワイバーンの方へ直進し始めた。

   「  待ちなさい」

    リカが呼び止める。

  「 駄目よ。リカ、止めても無駄よ」

  「 解ったわ。私も行くわ。」

 

   「 えっ?」

「何勝手に一人で命令違反してんのよ。」

 「だって、どうせリカの事だから任務遂行を優先しろって言うだろうと思って」

  そう、今までなら、そう言っていた。

  でも、今は違う。

   詩織の気持ちを汲んで、妥協している事もあるが、それだけではない。

   今はリカ自身も、素直に、誰かの生命を救いたいと思う。

   詩織とずっと一緒にいて、そう思える様になった。

   いや、今までもそういう気持ちは心の何処かにあったのかもしれないが、詩織の自愛心、慈悲、そして優しさに触れていくうちに、自分もそうなれると思えるようになった。

   彼女が、気づかせてくれた。

  「 だとしても、それでも私に一言相談しなきゃ駄目でしょう

   私たち 盟友なんだから」

  リカの友愛の言葉に詩織が顔を赤らめる。

  「 リカ  」

  「 私たち2人が協力すれば、きっとどんな強敵でもうち破れる

   だから お願い 私を信じて」

   「リカ いくわよ」

   照れ隠しで素っ気ない態度をとった詩織が、一人で先行してく。


   

 詩織は数十階はあるビルの谷間の外壁を交互に蹴って跳躍を繰り返し、屋上にまで到達する。

   ビルの屋上に着地した詩織が、そこからさらに助走して大きく跳躍する。

   そして、空中でライトレール・アクセルを発動させて、足元に降魔陣を出現させる。

   

  レール・アクセルは、降魔陣を出現させてそこから反電磁波や反重力波などのエネルギーを放射させるソーサリーである。

  通常は高速移動するためのソーサリーだが、今回は空中を浮遊するために使用する。

     

  詩織は降魔陣を足場にして着地すると、再び跳躍してライトレール・アクセルを高速多重詠唱する。  

    高速多重詠唱とは、短時間で連続してソーサリーを発動させる事である。

     空中を跳躍した詩織が数歩足を踏み出す度に、足元に降魔陣が次々と出現する。

    詩織はその上を架け橋のように走り抜けていく。

 そして、空中を飛翔しているワイバーンとすれ違いざま、ナイフで斬りつける。

    キシャー

    ワイバーンは悲鳴をあげながら上空に舞い上がる。

   そして、再び、詩織の斜め上から舞い降りてきた。

    鎌のような鋭い前足の爪を振り下ろす。

   キイイィィン!!

   詩織が聖銀のナイフで受け流す。

    さらにワイバーンは翼をはためかせながら連続して前足の爪で攻撃してくる。

    詩織は移動する度に降魔陣を出現させて、空中を浮遊する。

   華麗にステップを踏みながら、前後左右、斜め上、斜め下と立体的に、多角的に洗練されたナイフ捌きで迎撃して、その鋭利な爪を弾き飛ばしていく。

   まるで空中でダンスを踊っているかのように。

  暗闇に火花が散り、手にした聖銀のナイフが可憐に高貴に光り輝く。

    ワイバーンの胴体までは、少し距離があり、ワイバーンの前足は鋼鉄のように強固な鱗で覆われているため、射程距離の短いナイフでは反撃してもダメージが与えられない。

    そこで詩織は、右側面に跳躍してワイバーンの前足を躱すと、ナイフを消滅させて聖銀のムチを精製する。

    そしてそのムチで、ワイバーンの胴体を叩きつける。

   ビシィィー

   ビルの屋上で、リカがリボンを精製して、左手から発射する。


   鞭を振る詩織に右足の爪でワイバーンが反撃して来る。

    その右足に、リカが発射したリボンが巻き付く。

   そのリボンをリカが引き絞り、ワイバーンはバランスを崩す。

    詩織が鞭に電撃を流し込み、ワイバーン叩きつける。

     キシャャー

   ワイバーンは感電し、咆哮する。

   そして、翼を拡げて逃げるように急上昇する。

 キャーッ

  リカが悲鳴をあげて、左手に巻き付けたリボンとともに上空へと釣り上げられる。

   そしてワイバーンにとともに高速で空中を飛翔する。

    地上に見える超高層ビルの群れが、ジェットコースターのように猛スピードで流れていく。

    突風が身を切るように吹き荒れて、目を開けていられない。

    リカは左手でリボンを握ったまま、右手からホーリネス・ リンケージレイを発射する。

    烈光が炸裂し、ワイバーンが咆哮する。

    ワイバーンが、高層ビル目掛けて頭から突っ込んでいく。

  リカを道連れにして、彼女をコンクリートに叩きつけるつもりだ。

    「 リカ!!」


   詩織が叫ぶ

 リカは慌てて聖剣でリボンを切る。

「キャーッ」

    リカは悲鳴をあげて虚空へと消えていく。

   ワイバーンは高層ビルの外壁を突き破ると、そのままガラスやコンクリートを砕いて反対方向から飛び出して来た。

     

     ワイバーンは空中を旋回して、再び詩織の方へと襲いかかってきた。

    詩織は先程と同じくレール・アクセルを連続発動させる。

  

   空中を駆け抜けながら、今度は鞭を消滅させて金属精製術で自動小銃を創生する。

  そして、引き金に指をかけて魔導力の弾丸を連射する。

    ワイバーンに火花が散る。

    一方リカは、虚空を彷徨いながら、左手から再びリボンを射出する。

    リボンは墜落を免れ空中を飛翔している戦闘機に巻き付けられる。

   魔導護符から、光ファイバーがリカの指先とリボンを伝って伸びていく。

    そして、戦闘機のメインコンピュータに侵入した。

  戦闘機はアミュレット(魔導護符)の超高性能演算機能によってハッキングされる。

    自動運転の戦闘機は無人である。

  戦闘機は標的をワイバーンに定め、戦闘モードに移行する。

      戦闘機が旋回し、ワイバーンに向けてバルカン砲を乱射しながら、突撃していった。

 後ろからリカがリボンとともに引っ張られる。

     真正面から対峙したワイバーンが口からパーガトリー・フレイムの灼熱の炎を発射する。

   炎の塊が戦闘機の片翼に被弾して、炎上した。

   墜落寸前の戦闘機がワイバーンと交差する瞬間、リボンに引っ張られるリカがすれ違いざま聖剣でワイバーンを斬りつける。

   ワイバーンは片翼が斬り飛ばされ、バランスを失い墜落する。

 そして、高速ビルに激突した。

  戦闘機が誘爆した。

     

  リボンがちぎれ、リカが吹き飛ばされる。

 リカ!!

   詩織は降魔陣を最大級のパワーで蹴って、跳躍してリカを空中で受け止める。

    両手でリカを抱えたまま、背中からビルの外壁へ向かって飛んていく。

   背後に( オーロラ・バリア )魔導障壁、つまり魔導力で生み出されたバリアを6つ出現させると、その中へと突っ込んでいく。

   6つの( オーロラ・バリア )魔導障壁を次々と突き破り

 落下速度を緩和させると、ビルの窓からオフィスの中へと突っ込んでいった。

    リカを抱き寄せたまま、詩織は床を滑っていく。

     そして、オフィスの内壁に衝突して停止した。

  「 随分危ない事するのね」

   床に仰向けで倒れている詩織にお姫様のように抱きかかえられた状態で、彼女の首に手を回してリカが言った。

  「それはリカの方でしょう」

  「でもー

  また助けられたわね」

   

   リカが詩織優しく微笑みかけながら、小さく呟いた。

  詩織になら、背中を預けることが出来る。

 戦友として、絶対の信頼を寄せる事ができる。

 だから、地上に落下する事も恐れずに、敵の懐に飛び込む事ができた。


 

 リカは、本当に、危なっかしい。

 見ていて、ハラハラするわ。

 見た目は、いや実際に可弱い女の子の癖に、無茶ばかりして。

 何かあったらどうするの。

 本当、目が離せないわ。

  

      jmvj   

 それから、2人は先程と同じく地上を物理的に、つまり疾走しての移動を再開した。

    先程と同じくライトレール・アクセル( 電磁波高速移動 )の 展開による加速と跳躍、疾走を繰り返し、高速移動していく。

     その間、リカは魔導護符に搭載されている量子演算装置を使って、プロメテウスの司令塔である、メインコンピュータに

 アクセスしてデータを入手する。  

     メインコンピュータにはあらかじめフォルセティーの超最先端技術によって生み出された特性ウイルスを感染させているため、敵に気付かれずに沈黙の内に機密情報を引き出す事ができる。

   コンタクトレンズ型の魔導護符に文字や図形などの様々な映像が出現し、リカの視界にデータが表示される。

     そこには、プロメテウスと連邦の

 戦力配置図と、現存兵力などの詳細な情報が

 映し出された。

 ーそんな馬鹿な

  リカの背中と脳裏に冷たい戦慄が走る

  それは、予測に反してのプロメテウスの

 圧倒的形勢有利であった。

   プロメテウスは各拠点である空中浮遊要塞や都市、大陸の防衛に成功し、反対に連邦は幾つかの拠点で撤退を余儀なくされていた。

    どうしてー

   プロメテウスから入手した機密情報に

 間違いはないはずだ。

   少なくとも、浮遊要塞の位置やソーサレスなどの人員配置は正確だったはずだ。

   それなのにどうして?

 理由がまるで解らない。

   リカは詩織の隣で冷や汗を流しながら、錯乱していた。

    

   このままでは不味い。

  このままでは、プロメテウスは領土と戦力を拡大させ、今まで以上に強力になってしまう。

   そして、檻村を撃つのがますます難しくなる。

    せめて、アリシアをはじめとする

 この次元世界に展開するプロメテウスの

 戦略級ソーサレスだけは壊滅させて、

 この世界の要塞だけでも陥落させておかなければ。

    リカは近隣の次元世界に潜伏している、フォルセティーとレイナ・ヘンゼルセン

 の組織の精鋭部隊に連絡をとる。

   そして、この世界の要塞に2つの精鋭部隊を集結させて、アリシアの部隊に奇襲を仕掛けさせる計画を立てる。

   詩織に関しては、私が何とかしよう。

   背後から毒針を突き刺して眠らせるか気絶させておこう。

   目覚めた時上手く誤魔化せればいいのだが。

     上空に空中浮遊要塞が見え始めた。

 そして、その要塞までは短距離空間転位を使って移動した。

     そして、要塞の内部にある巨大な都市に辿り着く。

    要塞での防衛戦は、すでに終焉を迎えようとしていた。

     アリシアたちの超戦略級ソーサレスたちの奮戦で、すでに圧倒的な数の連邦軍のソーサレスや召喚されたフューリズたちを壊滅させていた。

     

 アリシアを始めとするエリート・ソーサレス達は、次々と、様々なソーサリーや剣術、特殊ソーサリーのスキルを使って、フューリズや連邦軍の戦略ソーサレスたちを撃退していった。


   剣や槍をもちろん、斧や銃系統などの武器。

  ホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)や、パーガトリー・フレイム(煉獄の灼熱)、ブリザード・ブレス(冷凍の氷結)やサンダー・スプラッシュ(電撃の飛沫)など虹色のソーサリーが幻想的に光輝く。



  聖剣や聖槍、ムチや自動小銃などの様々な

 ソーサリー・ウエポン( 魔導兵器 )を持つプロメテウスのソーサレスたちが、次々と敵を斬殺し、その聖炎の刃や鋼で切り裂き、打ち砕いていく。


  何条もの無数のソーサリーのホーリネス(烈光)、フレイム(灼熱)、アイス(氷結)、サンダー(電撃)が流星群の雨あられのように降り注ぎ、数百匹ものフューリズや、連邦軍のソーサレスたちの何十人かを爆発と串刺しと感電などで次々と惨殺する。


  そして、リカは今回の連邦軍の敗因と作戦の失敗の理由に気づく。

   プロメテウスのなかのエリートの中の超エリート、プレゼンス級と呼ばれる評議会直属の

 ソーサレスたちの能力とソーサリーが、予想以上に強力で、次元そのものが違っていた。

  彼女たちはその圧倒的大半がメイガス級と呼ばれる魔導震源を魔導制御機構に搭載していて、

 リョースアールブの血統にして、4大財閥の後継者たちである。

    彼らの潜在的ソーサリーの能力が、リカやフォルセティ、連邦政府の予想を遥かに凌駕し、想像を絶する程に強大だったということだ。

   恐らく彼らは、4大財閥の権力争いと未来の内部抗争を想定し、意図的にその支配下に置く直属のソーサレスたちの能力を隠蔽し、お互いに牽制し合っていたのだろう。

  

    最後に残った連邦軍の6人のソーサレスをアリシアが超高速の剣撃で斬ると、十数名の

 プロメテウスのソーサレスたちが再び集結した。

    フォルセティの部隊やレイナたちはまだ到達しない。

   連中は一体何をしているのか?

  リカは再び2つの部隊に連絡を入れる。  

  だが、返答がない、通信が途絶えている。

  何故だ?

  「私たちの圧倒的勝利だったわね。」

 部隊のソーサレスの1人が呟く。

「 首都ベルセルドからの報告では、ほかの要塞

 や次元世界でも善戦、幾つかの要塞ではすでに勝利を収めている戦線もあると聞く。

     形勢はすでに、私たちに有利に傾きつつある。

     それで、これから私たちは、この千載一遇の機会を逃さす、連邦の首都、ハイネセンに一気に攻め込み、制圧しようと思う。」

 アリシアが、指揮権を行使して次の作戦命令をだす。

   これは、これは不味いー

   そう思った瞬間。


  何処からか、無数の聖炎の烈光が発射され、

 14人のソーサレスの身体を貫通し、そこから虹色のソーサリー・エナジーが溢れ出す。

     さらに、疾風のような超高速の斬撃が連続して撃ち込まれ、さらに4人のソーサレスが

 斬られる。

    そして、斬られたソーサレスたちが虹色の聖炎に包まれる。

     最後に残ったアリシアが、その聖天使の振り下ろす剣を受け止める。

    アリシアの剣が砕かれ、アリシアが真っ二つに引き裂かれる。

  

     虹色のソーサリー・エナジーが空中に噴水のように溢れ出しす。

    そして、その余りにも美しく、神々しい

 血飛沫と輝きの先に、あの女が立っていた。

    絶対的な恐怖と戦慄、絶望感。

   まさに神の使徒か、悪魔の使徒。

   聖天使 檻村深雪。

     詩織がショックで言葉を失い、茫然としている。

    「御免なさい。詩織。あなたには知られたくなかったけど。 」

 深雪がゆっくりと言葉を紡ぐ。

  「これが私の、檻村深雪の正体なの」


「 そんな」

  「でも、理解して。これは、私たちレグレッションの悠久の時を超える悲願であり、神々の血を引く私たち

 追放者たちの因縁でもあるの。」

    今の言葉で、リカは大枠を理解した。

   檻村やプロメテウスの中枢であり根幹を担う司令塔の機密情報を解読したリカにしか、解らない事がが。

      「な、何を言っているんです。

 お姉様。」

   詩織が懸命に訴えかける。

   憧れと尊敬を抱く崇拝する義姉の暴挙に、

 詩織は動揺する。

   彼女の精神に与えた衝撃は、相当なものだろう。

  「 詩織」

  リカが、詩織の名を呼びかける。

   「あなたは、全世界を救済して、アヴァロンの再臨を目指しているのではないのですか?

   理想郷の再生を悲願としているのでは無いのですか?!」

   自分の夢や希望、願いの根幹が打ち砕かれた詩織が懇願するように深雪に訴えかける。

  「 違う、違うのよ、詩織。

   この女が目指しているのは、アヴァロンの再臨などではないわ。

 彼女の、檻村深雪の最終的な目的とは、悲願とは、アヴァロンへの侵攻と報復と消滅。

      詰まり、人類の全てのソーサレスを発展させて、アヴァロンに反旗を翻すつもりなの。」

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