第4話 百戦錬磨

  Evcvd3

 第4話

  残り6人のソーサレスたちが、一斉にソーサリーを詠唱する。


  十数発の ホーリネス リンケージレイ(聖炎の烈光)、パーガトリー フレイム(煉獄の灼熱)、フローズン アロー(冷凍の氷結)、サンダー スプラッシュ(電撃の飛沫)の流星群の雨あられが、同時期に発射される。


  さらにその後方では、召喚術士が4匹のフューリズ(悪魔精霊)を呼び出していた。


  フューリズ(悪魔精霊)からは触手が無数に伸長する。



   リカは超遅延で、滑るようにして、左方向へ移動する。


    超遅延に見えるのは錯覚だか、それくらい、リカだけが違う時間の流れの中で動いているようだった。


   リカの手から花束が宙を舞い、花びらが散る。


   そして、一斉射撃が命中したかに思われた刹那、なぜかソーサリーのホーリネス(烈光)、フレイム(灼熱)、アイス(氷結)、サンダー(電撃)、それに触手が、まるでリカを避けるようにして、軌道を変化させて、リカの身体を回避していく。



  リカが連邦のソーサレスの発射する遠距離ソーサリーの方向や角度、軌道を予測して、弾道の通過しない位置へと移動していたのだ。


   そしてリカはホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を1発だけ発射させた。


   鋼鉄のように硬いフューリズの一体の甲殻に命中し、炸裂する。


  フューリズ(悪魔精霊)の体内にある物理的魔導制御機構に、烈光の放射する高周波が流れ込み、循環するリンケージ・エレメント(物質連鎖元素)を誘爆して、フューリズ(悪魔精霊)を体内から大爆発させる。   


 ズドォォオオーン

   その一体のフューリズ(悪魔精霊)の大爆発のせいで、巻き添えを食い残りの三体も同時に爆発した。


   さらに、砕け散ったフューリズ(悪魔精霊)の破片がサモナー(召喚術士)とフェンサー( 剣術士  )2人の肺や腹部に突き刺さり、大量に血を吹き出させて絶命させる。



    リカは以前のマンティコアの時のように、膨大な量の戦闘経験から、フューリズ(悪魔精霊)の基礎構造を推論で解析し、設計し、物理的魔導制御機構の位置を特定して、そこを狙って誘爆させたのだ。



  更にトゲや甲殻の破片の飛び散る方向も計算し、どの角度、方向からどの位置を狙えば効果的に爆発して、周囲の敵にダメージを与えられるかも考慮したのだ。 


 奴の姿が消えたー


   ヒーラー( 回復支援型)がそう思った瞬間、彼女の右側面の至近距離の位置に突然リカが出現し、右袈裟斬りを打ち込まれる。 


  フューリズが爆発する瞬間、自分から爆炎の中に飛び込んで身を眩ませ、ライトレール・アクセルを詠唱したのだ。


  しかも、都市の地下を走る高圧電線に、詠唱したライトレール・アクセル(高速電磁波移動   )を付与し、電磁波を放出するレールに変えて、リニアモーターカーの原理で超高速 超特急で飛翔してきたのだ。



 ヒーラー( 回復支援型)の胸部から鮮血が溢れ、絶命する。



   冷静さを失い、混乱してる2人のキャスターが、2人の中間地点にいるリカ目掛けてホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)とフローズン・アロー(冷凍の氷結)をそれぞれ発射する。


    リカはその場所で仰向けに倒れこむと、2人のソーサリーの弾丸をかわす。


   烈光と氷結は交錯し、2人のキャスターは同士討ちとなって1人は爆発し、もう1人も串刺しになって死ぬ。


   リカは、仰向けに倒れたままその状態でレール・アクセルの電磁波に乗って道路を滑っていく。


   


  最後に残ったセイバー( 前衛剣装型)が、リカめがけて突進してくる。


   セイバーは機動力と跳躍力に優れている。


 

 リカは、道路を仰向けで滑りながら、ホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を3発発射する。


「遅い!!」


 セイバーは聖剣で全て迎撃する。


  


  リカは左手の指先を支点に逆立ちになって高速回転してセイバーを蹴り飛ばし、距離を取って立ち上がる。


  レール・アクセルの応用技、レール・スピンアクセルで高速回転しながら逆立ちで蹴りを放ったのだ。


   セイバーが、超高速で連続して剣撃を放つ。


   一方リカは右袈裟斬りと左袈裟斬りの斬撃を、何もない虚空に放つ。


 

  セイバーが次々と撃ち込む超高速の剣をリカは超遅延の剣術で連続して払いのける。


   右袈裟斬り、左袈裟斬り、横薙ぎ。



  超遅延に見えるのは、やはり錯覚だが、それほど速度に歴然とした差があった。


    それでも、セイバーの剣はリカの鉄壁の防御を通り抜ける事はできない。


    むしろ、まるでセイバーの剣が軌道を変化させてリカの剣閃に向かっているようだった。


   「身体能力の差はあきらかなのに、どうして当たらないの?


 あれはまるで、セイバーの次に撃ち込む斬撃が見えてるかのよう。


 まさか、読心術か未来予知の特殊ソーサリー」


 ストラテジー(特殊戦略級魔詠姫)のソーサレスの1人が聞く。


「いいえ、違うわ。


 あれは、推論よ。


   読心術でも未来予知でもない。


 リカの、過去の経験側から導かれる、正真正銘の推論よ。」


   詩織がリカの戦いを見つめながら答えた。


  「推論?」


  「ええ、リカは幼少の頃から現在まで、ああ見えて3万回以上も様々なフューリズ(悪魔精霊)やソーサレスたちと戦ってきたの。


    その膨大な経験値の蓄積と思考性の成長で、大半の敵の動きと攻撃を推理して、予想できるようになったの」


 「さ、3万回って?一体」


 ストラテジー(特殊戦略級)のソーサレスは意味が理解出来なかった。


 一体どうすれば、そんな途方もない戦闘経験をそんな短期間に積むことができるのだろうか?


  いや、そもそも、そんな気の狂いそうな回数を、果たして少女の精神が耐えられるものなのだろうか?




「相手の剣術も、遠隔ソーサリー( 烈光などの )の軌道も、詠唱する特殊ソーサリーの性質や特性も、さらには千差万別に存在するフューリズ(悪魔精霊)の形態や内部構造まで、あらゆる物を推理し、把握し、予測できるようになったのよ」


   魔導力を消耗し、息切れしたセイバーの動きが止まった。


   


  リカがレール・アクセルを詠唱し、後方へ高速移動して距離をとり、ホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を4弾発射する。


  セイバーは聖剣を使ってホーリネス・リンケージレイを弾き飛ばす。

   リカはさらにもう一発ホーリネス・ リンケージレイを発射する。

   今度はセイバーの右側面に停車している

 電気自動車に命中し、爆発させる。

    烈光が弾け散り、聖炎が溢れだすのとともに、分解された電気モーターが漏電して、周囲の空気中に稲光のような電流が溢れ出す。

    漏電した電流はセイバーの身体に流れ込み、身体の動きを麻痺させる。

    さらにリカは連続してホーリネス・ リンケージレイを発射する。

    


   そして、立て続けに3発の烈光が正確にセイバーの左胸で炸裂する。


  リカに比べ、圧倒的な魔導力と防御力を持つセイバーの、心臓に衝撃を与え停止させることで、敵を無傷のまま倒す。


「見事だ」


 そう言い残し、セイバーは爆発して絶命する。


 ソーサレスの世界に、魔導力や運動能力の強さなど関係ない。


  勝者だけが正義で正論で正解なのだ。


  ストラテジー(特殊戦略級)のソーサレスたちは、衝撃を受け、茫然自失となっていた。





  詩織は、身体が震えるのが止められなかった。


 戦慄が走り、興奮が止められない、彼女といれば、ソーサレスとして、必ず遥かな高峰へと登り詰めることができる。


 ソーサレスとしての本能が、そう警鐘をならしていた。


「傷の方は大丈夫?」


 リカが、優しい言葉をかけてきた。


「ええ、少なくとも、致命傷ではないわ」


「そうー」


 パンッ


 いきなり、リカが、平手打ちで、詩織の頬を叩いた。


「えっ?」



「どうして?」


 さっきからそればかりだ。


 彼女のことはリカのことは、付き合えば付き合うほど、謎が深まるばかりだ。


「どうしてって、わからない?」


 もしかしてー


「さっき、白いローブの、あの女性を助けたから、ヒーリングをかけたから」


 リカは沈黙することで答えた。


 あれだけの素晴らしい潜在能力を持ちながら、溢れんばかりの才能の片鱗を輝かせながら、なぜ彼女が、檻村詩織が覚醒出来ないのわかった。


 彼女は戦士として、ソーサレスとして、純粋で、慈愛心が強すぎる。


 変わらなければならないのは、成長しなければならないのは、私の方ではなく、むしろ彼女のほうだ。


「そんな、傷ついた人を助けたくらいで怒るなんて、どうしてあなたはそんなに天の邪鬼なの?」


 詩織が苦情をとなえる。


「まあいいわ、今回だけは許してあげる。


 次は、私があなたを、どこかに遊びに連れてってあげるわ」


「リカ  」


 詩織は笑顔を見せると、リカに抱きつく。


 さて、これからが本番よ。


 この娘を、一人前の殺戮の天使に育てなければ。


















































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る