第3話 空中浮遊都市
mt6mw777
第3話
次の日、詩織は楽園世界QXUM85094に来ていた。
リカとソーサリーの訓練をする約束をしていたが、リカは放課後ボイストレーニングをするとかで少し遅れて来るとか言ってた。
何でも軽音楽部に臨時のボーカルとしてスカウトされたらしい。
本当にソーサレスとしてヤル気があるのか?
あの女がなぜあんなにダメ猫なのかわかった気がする。
リカが来るまでのあいだ、詩織はメインコンピューターにアクセスしてソーサリー関連の機密情報を読み漁っていた。
ソーサリーの世界は日進月歩で進展していく。
日々学習し続けなければ、あっという間に時代に取り残されてしまう。
そして2時間ほど過ぎた頃、詩織はサーバーを遮断させると、リカとの約束の場所である
空中庭園へ向かっていた。
社会福祉公社のある中央公共機関の巨大な塔と空中庭園をつなぐ歩道橋を渡っていた時のことだった。
ドカーン 公共機関のある塔で、大爆発が起きた。
さらにその周囲にあるその他の塔や空中浮遊都市でも、次々と大爆発が起きている。
さらに空を見上げると、爬虫類や昆虫、鳥類などの生物と機械を融合させたような、様々な種類のフューリズたちが、空を飛び交い、塔の周囲を旋回している。
フューリズたちの襲撃か、それとも何処かの敵対勢力たちの策略か?
ーリカ
詩織の心に真っ先に思い浮かんだのは、リカのことだった。
楽園都市の人々の命より、同胞のソーサレスたちの命より、あの魔導力最弱ソーサレスのリカのことが一番心配になってしまう。
今はもう、彼女のことで頭がいっぱいである。
昼も夜も、いつの間にか、彼女のことで夢中になってしまう。
ズドォォオオーン ドカーン
空中庭園には、被害は出ていない。
今は、我慢して、空中要塞にいるストラテジー(特殊戦略級魔詠姫団)の同僚たちと合流するんだ。
リカ、あなたなら、大丈夫よね。
秩序の基地である、空中要塞を守護する上級ソーサレスたちは、それぞれ奮闘して、何万、何十万といるフューリズ(悪魔精霊)たちを駆逐していた。
さすが、エリート・ソーサレスたちである。
フューリズ(悪魔精霊)たちは、逃走して首都の空中浮遊都市、東京へと向かっていった。
様々な姿形を変えた東京が、次元世界ごとに存在する。
「檻村さん、私達は、東京の救済と逃走したフューリズ(悪魔精霊)の駆逐のために、首都圏へ向かうわ。」
ストラテジー(特殊戦略級)のソーサレスの1人が言った。
「う、うん」
「どうしたの?檻村さん」
「いや、リカを待ってからー」
彼女や他のソーサレス達が、怪訝そうな表情をする。
さすがの檻村の血統でも、いまのリカの信頼性と評判ではリカが来るまで待たせることは無理だろう。
「いいえ、何でもないわ」
詩織たちは、短距離次元転移で空間を移動したあと、空中浮遊都市東京に到着した。
内部干渉系のソーサリーを得意とするセイバーやガーディアンなどの近接戦闘型のソーサレスたちは、率先して前衛に立つ。
接近戦でフューリズたちに武器による攻撃を仕掛け、当時に後衛にいる他の戦闘体系のソーサレスたちを護衛する。
外部干渉系を得意とする、キャスターやサモナーなどの遠隔戦闘型のソーサレスたちは、後方から遠隔攻撃をして、近接戦闘型を援護射撃する。
そして、剣術士などのミディアムは状況に応じて距離を切り替え、特殊戦闘型
のヒーラーは回復支援などに徹する。
内部干渉系のソーサリーは、基本的に、酸素や水素、窒素などの、この自然界に存在する標準型の元素を使用するソーサリーである。
この自然界に存在する標準型のエレメントを使用するソーサリーを、ディバインサイド( 神界面 )のソーサリーと呼ぶ。
スピリトゥスやエナジーなどの属性系統がそうである。
スピリトゥス・フュージョンは、ソーサレスのパワーやスピードなどの運動能力、防御力などの肉体の強度や耐久力を高めるソーサリーである。
エナジー・イフロゥは、ソーサレス自身が本来持つ組織細胞の自然治癒能力や体力などの肉体の持久力を高めるソーサリーである。
どちらも、ソーサレスの肉体を構成するエレメントとエーテルを融合させる事により使用するソーサリーである。
エーテルがエレメントに与える効果と影響は大きくわけて2種類ある。
1つは、エレメントの内部にある記憶や情報、プログラミングを書き換える事である。
これにより、エレメントから放射される電磁波や核力などの様々なエネルギーの
精製量を自在に増減させて微調整する事が出来るようになる。
2つ目は、エレメントにエーテルのエネルギーを補充する事である。
これにより、エレメントから放射されるエネルギーを増幅させて、耐久力などを高める事ができる。
外部干渉系のソーサリーは、基本的に陽子や電子などの素粒子を使用する事が多い。
陽子を高速振動させて物質溶解させるパーガトリー・フレイムや、空気中に電子を放出させてスパーク( 炸裂) させるサンダー・スプラッシュなどがそうである。
陽子や電子などの素粒子も、近代の最先端技術では実は共有結合を行なう事が解っており、元素と同じ性質を持つ物質である事が解明させた。
現在では、この素粒子もエレメント(物質元素 )と呼ばれるようになっている。
そして、半元素、半素粒子の性質を持つエレメントをパーガトリー・サイド(冥界面) の エレメントと呼び、そのエレメントを使用するソーサリーを、パーガトリー・サイド(冥界面)のソーサリーと呼ぶ。
詩織を始めとするエリート・ソーサレス達は、次々と、様々なソーサリーや剣術、特殊ソーサリーのスキルを使って敵を撃退していった。
剣や槍をもちろん、斧や銃系統などの武器。
ホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)や、パーガトリー・フレイム(煉獄の灼熱)、ブリザード・ブレス(冷凍の氷結)やサンダー・スプラッシュ(電撃の飛沫)など虹色のソーサリーが幻想的に光輝く。
だが、詩織は何か嫌な胸騒ぎがした。
リカならこんな時、どうするだろう。
「やった、ほぼ駆逐できた」
誰かがそう言った時、どこからか、何条もの無数のソーサリーのホーリネス(烈光)、フレイム(灼熱)、アイス(氷結)、サンダー(電撃)が流星群の雨あられのように降り注ぎ、ソーサレスたちの何十人かを爆発と串刺しと感電などで次々と惨殺する。
そこへ、武器を持った敵軍のソーサレス9名が襲いかかる。
プロメテウスのソーサレスたちに戦慄がはしる。
彼らが驚愕するのは、罠に嵌められたからではない。
こんなものは罠でも何でもない。
単純に、敵の強さが別次元だったからだ。
僅か9名たらずのソーサレスたちに、300名以上いるプロメテウスのエリート・ソーサレスたちが手も足も出ないで次々と殺されていく。
「レイナの言っていた話と大分違うな。強敵が要るから注意しろって言うから、戦い安い場所に誘いこんだが」
「プロメテウスのこの次元都市には、檻村のご令嬢がいらっしゃるのよ、油断は禁物よ。」
次元連邦のソーサレスが目配せすると、そこには、孤軍奮闘している、詩織がいた。
他はもう、戦いにはなってない。
連邦軍の1人はサモナー(召喚術士)で、4体のフューリズ(悪魔精霊)を呼び出し 自動追尾装置つきのミサイルのように少女たちを虐殺する。
キャスターは、遠隔ソーサリーで、接近されることもなく、プロメテウスのソーサレスたちを撃墜していく。
また、槍装攻撃型のソーサレスであるランサーは、灼熱の槍で
敵を刺し殺し、切り裂いていく。
劣勢の最中、孤軍奮闘する詩織が敵の剣を左手のナイフで弾いて、素手の右手に魔導の電撃を付与して、敵の心臓付近叩き込む。
敵は感電し、気を失う。
これで、三人目を倒した。
やはり、詩織のレベルは別格だった。
「た、助けて」
声のほうを振り返ると、白いローブを着た血まみれの女性が倒れていた。
左腕や腹部に抉られたような傷がある。
見覚えのあるソーサレスの誰かだ。
ローブにプロメテウスの紋章がある。
「待って、今助けるわー」
そう言って詩織はすぐさま駆けつけると、しゃがんで彼女にヒーリングをかける。
「終わったわ、これで大丈夫よ」
詩織は気丈に、笑顔で彼女を勇気づける。
「そう」
グサッ
白いローブの女性は、詩織の左手首をつかむと、引き寄せて腹部にナイフを突き刺す。
「うっ、くっ」
「私のこと、覚えてな~い」
そう言って、レイナ・ヘンゼルセンは容姿と服装を変える。
そこには赤いローブを来た妖艶なソーサレスがいた。
「あ、あなたは、この前の」
バタフライと戦っていた時にリカに氷の矢を放った。
「この至近距離から止めるなんて、やるわね。普通は即死よ」
詩織はギリギリの至近距離で、レイナの手首を掴んで、致命傷は避けていた。
それでも、僅かにナイフの先端は刺さっている。
刺された場所は、この前の氷の矢が刺さった場所と全く同じだった。
同じ傷口を狙うことで、ダメージを倍加させる。
レイナはナイフを消滅させて手首を引いて詩織を振りほどくと、跳躍してどこかへ消えて行った。
詩織は刺された脇腹を押さえて、ダメージを受けて動けない数人のストラテジー(戦略級魔詠姫団)を庇って1人で残りのソーサレスたちの剣撃をナイフで捌く。
連邦軍のソーサレスたちは、レイナの指示通り、敢えて何人かを殺さず残して、詩織の機動力を封印したのだ。
「相変わらず、レイナはえげつないな。」
「そして、狡猾で卑劣だ」
連邦軍のソーサレスたちが、自軍の司令官に侮蔑と賞賛の言葉を
吐く。
彼らの司令官は、これだけ絶対的に有利な戦況でも、手段を選ばず真綿で首をしめるように追い詰める。
「やってくれたわね」
「えっ」
「せっかくの綺麗なお花畑も、台無しじゃない、これじゃあ毎日の日課の蝶々の餌やりもできないじゃない。」
詩織との待ち合わせ場所である空中庭園からやって来たリカが、何本もの花束を抱えてやって来た。
意味不明な言葉を吐きながら、リカが、あの最弱ソーサレス冬河リカがゆっくりと歩いてくる。
連邦軍も、プロメテウス( 秩序)のソーサレスも、驚きを隠せない。
ただ1人、詩織だけは、冷静に苦笑いを浮かべる。
「遅いのよ。リカ」
今までの惨劇と今の300人の優秀なソーサレスたちの末路をみても、なんら動揺することもなく、冷静に平然とした顔をして、真正面から歩いてくる。
「あなた、何しに来たの?」
連邦のソーサレスがリカに聞いてきた。
「どうしてって、決まっているでしょう。
貴女たちを倒して、最後の美味しいところを一人占めにして、私超強いってー」
「あなた、本当に気でも触れてるの。
現実は、おとぎ話とは、訳が違うのよ。」
敵のソーサレスが驚愕と軽蔑の言葉をはく。
だが、敵対する連邦軍のソーサレスたちは、全員その1人1人がリカを遥かに超える
圧倒的、絶対的な量の魔導力を持っている。
さらに、身体能力でも大人と子供程の開きがある。
剣で斬りつけても、ホーリネス・リンケージレイ( 聖炎の烈光)を発射しても、速度の差で命中しないし、命中しても鉄壁の防御力でダメージを与えられないかもしれない。
そして、身体的な能力を生かした至近距離からの武器や遠距離ソーサリーによる圧倒的に高速で破壊力のある攻撃を、リカは防ぐことも回避することもできないはずだ。
しかも敵は6人いる。
この絶望的な戦力差を、リカはいかにして覆すのだろう。
「魔導力が弱い。身体能力が低い。
判断力が悪い。反射神経が鈍い。
この世界は、絶望と不可能という言葉で溢れている。
まるで言い訳のデパートのよう。
けれどもそこで諦めたら、何も始まらない。
詩織、私があなたを、その暗闇の水槽から、救いだしてあげる。
贖罪の鳥籠から、救いだしてあげる。
青い広い海へと泳ぎださせ、青い広い大空へと、羽ばたかせてあげるわ」
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