第5話 シンクロニシティ(同期率 )

第5話 シンクロニティー( 同期率 )



マンティコアが飛び掛かってきた。


「左斜め前」


ピカーッ


リカの頭上と足元に再び降魔陣( ソーサリー・サークル)が出現し、彼女の身体が発光する。


 彼女の身体がその位置を基軸にして、90度程回転する。


   剣が振り下ろされ、横薙ぎでマンティコアの左前足の爪を払い落とす。


  バキィイイイイイ


  爪が道路に突き刺さり道路が砕ける。


  ライトレール・アクセル(高速電磁移動 )の応用技ライトレール・スピンアクセル(高速電磁回転)である。


  ソーサレスの身体を回転軸として、電磁波を帯びたソーサレスの身体を同じく頭上と足元、上下の降魔陣( ソーサリー・サークル)から放射される電磁波で挟み込み、弾き飛ばすのではなく高速回転させるソーサリーである。


   体幹の動きを促進し、攻撃速度や防御の速度を加速させる術である。


   自動車の電気モーターの原理である。




  今度はさらに、反対側の右前足の爪が振り下ろされる。


   同じ要領でリカは回転運動を行い、マンティコアの前足を横に薙ぎいて払いのける。


   さらに、マンティコアの前足をおおっている鋼鉄のような甲殻の鱗に剣の切っ先を引っ掛け、後方へとひっぱる。


  マンティコアは前のめりになり、前足の爪ごとビルの壁面に突っ込む。


    襲いかかるマンティコアの勢いを利用した高度なリカの剣術である。


     リカはマンティコアの側面に回り込むと、聖剣で斬りつける。


   聖剣は爆発し、薄青いエレメントの聖炎が溢れ出す。


   ギシィイアアア


マンティコアが悲鳴をあげる。


    


  リンケージ・エレメント・ソーサリー・ソード( 精霊魔導剣)である。


   ソーサリー・ソード( 精霊魔導剣)とは、剣の周囲にエレメント(物質元素) やエーテル(魔導元素)の簿膜を張り付け、剣撃を放つことでエーテル(魔導元素)に衝撃を与えて、誘爆させることによりソーサリーを発動させる剣技である。


   だが、それでもマンティコアの外観に


 ダメージは見られない。


   リカは飛び退き距離をとる。   


「リカ!左斜め後ろ!」


   リカは前方を向いたまま、片手で、左手1本でマンティコアに斬りつける。


   リカの剣撃の威力は小さいが、マンティコアの突進する速度がカウンターとなり、ソーサリーソード( 精霊魔導剣)が誘爆して聖炎がマンティコアの頭部を包む。


  キシャアアー


    マンティコアが咆哮してすぐさま移動する。


   リカはホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を虚空に向けて3発発射する。


    するとその位置にマンティコアが突進して自分から烈光にぶつかっていく。


  烈光が爆発して、聖炎が再びマンティコアを包み込む。


    リカが過去の膨大な回数の戦闘経験と推論、それにアミュレット(魔導護符)に搭載された量子半導体CPUの演算処理機能がマンティコアの動きを予測したのだ。


「左横斜め上  」


「右後方斜め下  」


360度  あらゆる方向から襲いかかる魔物を、リカは前後左右に跳躍し、瞬時に高速移動して、あるいは剣閃により横に薙いて、弾いて払い除けて、隙をみてリンケージ・エレメント・ソーサリーソード( 精霊魔導剣)で斬りつける。


   ホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を含め、10発以上の攻撃を食らわせただろうか。


   それでもこの鉄壁の甲殻をもつ魔物は、傷1つなく外観にも持久性にもダメージはない。


   このままではまずい。 ソーサリー・エナジー(魔導力)の少ないリカのエレメントが消耗して燃料が底をつくか、魔物の毒牙に捉えられるか。


   体力の少ないリカは一度でも直撃を食らえば即致命傷なのだ。 


「リカ、後ろ!!」


   リカは前方を向いたまま、背後のビルのコンクリートの外壁めがけてホーリネス・リンケージレイ(聖炎の烈光)を四発発射する。


 外壁を突き破って飛び出してきたマンティコアに烈光が命中し、爆発する。


       


  さらに壮絶な攻防は続き、リカは3発の剣撃を放つ。


   4発目の斬撃を放ったさい、初めて魔物の爪の先端が袖をかすめ、鮮血が溢れる。


   依然としてマンティコアの外観には傷1つなくダメージがあるようには見えない。  


もはやこれまでかと思われたその時、


これまで初期と変わらず快適に躍動し続けたマンティコアの身体に、異変が起きた。


   ガクガクと足元がふらつき、動きが鈍る。


   「どうして?」


   詩織が通信機器を通して問いかける。


   「振動よ。魔導元素が誘爆されたさいに放射される、エレメントの固有振動が悪魔精霊( フューリズ )の甲殻を透過して、内側からダメージを蓄積させていったの。」


  エレメントの固有振動とは、物質世界で言うところの、電磁波のような、超音波のような、物理的に見えない周波数の固有振動である。


   それらはあらゆる物質を通り抜け、分子原子レベルから崩壊させることができる。


    悪魔精霊が苦し紛れに襲いかかってくる。


  リカは跳躍すると剣撃を放つ。


  エーテル( 魔導元素)とその簿膜に包まれたソーサリー・ソード( 精霊魔導剣)が誘爆し、マンティコアの筐体の内部から甲殻に亀裂がはいる。


     ギシャアアア


  「もう少しよ。リカ、でも、油断しないで 」


  その声はー


悪魔精霊( フューリズ )が、通信機器の電波をたどって、詩織の存在に感づく。


   詩織の腹からは鮮血がみえる。


   あきらかに、リカより重症だ。


 ーおまえの勝ちだ。漆黒のソーサレスよ。


だが、あの慈愛の聖女の生命は貰っていく。


  そう言って、マンティコアはビルの屋上にいる詩織に向かって飛び掛かっていく。


まずい、今の手傷を負った彼女では満足に動けない。


 盟友の絶体絶命の窮地に立たされたリカの聖眼が、眩いばかりに光輝く。


 リカの両目に装着された、コンタクトレンズ型のアミュレット(魔導護符)が高速で起動し、マンティコアの熱反応や振動音、エレメント(物質元素)の流れを映像化し、レンズに写し出す。


「左前足の付け根!!30センチ下。」


リカが叫ぶ。


 マンティコアが右前足の爪を振り下ろした瞬間、詩織は左手を真っ直ぐ突きだし、パーガトリー・フレイム(煉獄の灼熱)を放射させる。


   聖銀色の灼熱の炎が溢れだし、螺旋状を描いてリカの言った悪魔精霊の左足の付け根30センチ下に炸裂する。


マンティコアの体内にある物理的魔導制御機構に魔導力( ソーサリー・エナジー)の灼熱が流れ込み、そこから精製されるエレメント(物質元素)が融合反応を引き起こし誘爆する。

  

    物理的魔導制御機構とは、自動車やロケットのエンジンである。  

    物理的魔導制御機構とは、その名の通りフューリズの体内で製造された物質的な魔導制御機構である。


リカは過去の経験値とアミュレット(魔導護符)の解析機能から、フューリズ(悪魔精霊)の基礎構造を推論で予想し、物理的魔導制御機構の位置を看破して、そこを狙って誘爆させたのだ。


「やったわ、やったわ、リカ」


詩織が、腹の痛みも忘れて大喜びではしゃぐ。


何かを殺して大喜びすると言うのは不謹慎だが、それ以上にリカと協力して何かを成し遂げられたのがうれしかった。


「やったわよ、りか」


リカが、ため息をつき、胸を撫で下ろす。


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