第2話 ソフトクリーム
第2章 第2話 ソフトクリーム
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「リカは、時間にルーズ過ぎるのよ、私の貴重な時間を、何だと思っているのよ。」
放課後の帰り道、詩織がリカの隣を歩きながら、再び機嫌を悪くして怒り始めた。彼女は結構、いつまでも根に持つタイプなのだ。
「だから、それはもう謝ったじゃない。寝坊しちゃったんだから、仕方がないでしょう。」
リカが舌を出して謝る。
「寝坊したら、どうして仕方ないのよ。それに、さっきまで授業中だったのよ。また、サボって、保健室で居眠りしてたわね」
詩織が目を吊り上げて怒る。
「私は、病弱なのよ。30分に一回はお薬が必要なのよ」
リカの色白な顔を見れば、割りと説得力のある設定だった。
「も~う 」詩織が口を歪める。
「本当、凄く心配してたんだから 」
詩織が小さな声で言う。
「何か言った?」
「いいえ、何でもないわ」
詩織が拗ねた顔をする。
「そう」
「それにしても、今日も ソーサレスの任務に学校のお勉強。
本当 疲れたわ。
発展途上世界の科学技術や社会政治の勉強や授業なんて、こんなこと、時間の無駄だわ。
フューリズたちとの戦いには一刻の猶予もないのよ。
詩織には、もっと実戦を積んで、今よりもっと強くなってもらいたいわ。」
リカが詩織を横目に見ながら、顔色に疲労感を滲ませながら言った。
「仕方がないわ リカ。
クリセリウス( 魔女の蛹 )を救うのも、ソーサレスの立派な任務の1つよ。
それに、その救われたクリセリウスが、覚醒して私たちのように強くなって、ソーサレスとしてフューリズを駆逐して何万何十万人もの人々を救うのよ
数多くの人達を救済して、守護してくれるのよ。
けして、無駄な事ではないわ」
「でも、同級生たちとお友達になれるのは嬉しいでしょ。 一緒にお喋りしたり、何処かに遊びにいったり。」
「 ええ、そうね、発展途上世界の級友たちと、会話したり交際するのも、それなりに楽しいわ。
でも、別に青春を謳歌するために、同級生たちと交友している訳ではないのよ。
この世界の教育機関で生徒として授業を受けるのもそうだけど、同級生と話したり、遊びに行ったりするのは、周囲と溶け込み、思念を探知してより情報を集めやすくするため。
これも全部、クリセリウスを救済するためのソーサレスの任務の一部だわ。」
クリセリウス(魔女の蛹)が魔女(ウィッチ)へと覚醒する直前、精神が不安定になり、行動や思念などに異変が見られる。
ソーサレスはクリセリウスたちのそういった異変を探るため、情報を収集する。
詩織はさらに、ひと呼吸置いて話を続ける。
「それに、実際に心の奥底から信頼し会えるのは、共に戦う戦友だわ。
お互いに気持ちを通わせ、理解し会えるのは、一緒に生命をかけて戦ってくれている、ソーサレスの盟友だわ。」
詩織が、リカの瞳を見つめながら言った。
やはり詩織は、リカに対して学校の同級生とは違う何か特別な気持ちを心に抱いているのだろうか。
リカはまるで愛の告白をされたかのように感じた。
「 そう」
リカは少し顔を赤らめ、詩織からその瞳を反らしてしまう。
「それじゃあリカは、授業受けるのが嫌な癖に、どうしてこの任務を引き受けたのよ?」
「私は別に、クリセリウスを救済するために、この世界の教育機関に通っている訳ではないわ。
あなたがこの任務を請けてるから、同じパートナーとして仕方なく付き合っているだけよ。
それに、敵対勢力やテロリスト、それに突然出現したフューリズから、あなたを護衛しないといけないしね。
ある程度近くにいたら、緊急事態の時に速効で救援に駆けつけられるし、素早く対応できるわ。
もし貴女に何かあったら、秩序( プロメテウス)の上層部や檻村に睨まれるのが嫌だからね。」
リカの本心は、発展途上世界などのクリセリウスを捜索して彼らを救済することよりも、実戦での経験を積んでソーサレスとして成長することを重視していた。
しかし、現在のリカの最優先事項は、詩織の安全と警護である。
それに会話や訓練などで交友関係を深めて、彼女の信頼と信用を勝ち得て、懐柔することである。
リカが授業を受ける高等科の校舎や施設は、詩織のいる中等科の校舎や施設から数百メートル程の距離が離れているが、
敵対勢力の襲撃があれば 広範囲の思念探知
によって発見する事ができる。
また、戦闘になったり緊急事態になったとしても、比較的短期間で駆けつけることかできる。
それに、同じ教育機関に身を置くことにより、詩織に距離だけではなく精神的な親近感を持たせることができる。
2人でいる時間も作り易くなり、
共通の話題ができて会話がしやすくなる。
「だいたい、リカは、ソーサレスとしての、自覚が足りないのよ」
詩織はリカのほうを振り向き、瞳を凛と輝かせて話始める。
「私は、この世界を、清浄で、純粋で、慈愛に満ちたものに変えたいのよ。
そして、ソーサレス(魔詠姫)の血統としての責任と義務を果たす。
慈善や献身は、素晴らしい物だわ。
そして、盟友同士の愛情や友愛は、掛けがえのない宝物だわ。
それは、ソーサレスとしての使命感を持ち、共に戦い続ける選択をした者同士にしか得られない、最高の贈り物だわ。
そして、何年もの月日をかけて、言葉を積み重ね、互いを理解し合い、友情を深める。
心を1つにして、世界や
誰かの未来と希望を護り、救済する。
それが、ソーサレスとしての役割と存在意義だと思うの。」
放課後の学校の帰り道、詩織が再び自らの、そしてソーサレス(魔詠姫)としての理念や思想、哲学を語った。
彼女の言葉の1つ1つが、誠実で、純粋で、真摯な願いや想いである。
それ故に尊く、透明で、美しく、そしてリカの心を魅了し困惑させる。
「うふふっ、私は慈愛とか献身とか、そんな曖昧で憂鬱なものより、毎日を、この時間この一瞬を楽しむことを選択するわ。
恋愛映画を見て、歌を歌って、遊園地で遊んで、クレープを食べてお喋りして友愛を深める。
そっちのほうが、簡単で理解しやすいわよ」
リカが照れ隠しに、事さらふざけて見せた。
「もう、リカったら」
詩織が少し不貞腐れる。
檻村詩織は、盟友とは言葉を積み重ねていくことが大切だと考えている。
詩織は自らの思想や理念を共有しあい、心の深海の底まで信頼関係を結びたいと考えている。
一方リカは対称的に、難しい言葉や会話、理念は要らないと感じている。
会話はするが、趣味や遊び、遊園地のことや映画などの話が中心だ。
リカのもっぱらの関心事はアイドルやタピオカやアトラクションなどである。
だが、そんな二人にも、ガッチリと鎖でつなぎ会う共通項がある。
ソーサリーの話題である。
ソーサリーの科学や規則性、法則は2人の、いや全てのソーサレスの興味の中枢であり、知性の根幹を担っている。
例え異なる正義、異なる思想のソーサレスが2人いたとしても、ソーサリーの話題があれば蜃気楼のような幻の友情くらいは芽生えるだろう。
ソーサレスにとってのソーサリーとは絶対的なものであり、不変の不文律である。
このあと、二人はショッピングモールによって、お買い物をした。
詩織はリカにお洋服を選んでもらって、試着して何着か買った。
「リカって、お洋服のコーディネートととか上手いわね。センスがいいわ。」
「そう、私、こういうの、得意なのよ。
私って、おしゃれ姫だから。」
詩織に誉めてもらって、少し嬉しくなって浮かれたリカが答えたとき、二人は、新しく出来たソクトクリーム屋さんを見つけた。
リカはイチゴ味を、詩織はミント味のソフトクリームをそれぞれ買った。
「ここのイチゴ味のソフトクリームって、最高だわ。濃厚な苺の果実の味わいがとっても素敵だわ。苺パフェの次くらいに美味しいわ。」
イチゴとか苺パフェの大好きなリカが言った。
「そう、どれどれ」
そう言って、いきなり詩織が、リカの苺ソフトに噛りつくと、リカの前を駆け出していく。
さっき水鉄砲をかけられた仕返しだ。
そう思いながら、リカと初間接キスをしてしまった、と、少し気恥ずかしくなって顔を赤らめる。
自分から噛りついた癖に、私って何照れちゃってんのよ。
間接キスだ。ドジっ娘のお姉ちゃんと間接キスしちゃった。
「あっ、ずるい。私にも、詩織のミントソフトを食べさせなさい。」
そう言って、リカは詩織を追いかける。
詩織はリカのほうに振り返ると、
「やだよー」
そういって、大慌てで残ったミントソフトを口の中に頬張って、食べてしまう。
「もう、詩織ったら」
リカが、眉を細めて言った。
「おいしかった」
そう言って、嬉しそうにニヤニヤと笑っている詩織の顔を見ると、頬にミントソフトがベットリとくっついている。
「詩織、頬に、ソフトクリームがくっついているわよ。」
「えっ?」
そう言われて、詩織は、ショウウインドウに映った自分の顔を確認しようとする。
「とってあげるわ。」
そういって、リカは、手品のように苺ソフトを消滅させると、詩織の首に両手をまわして、顔を近付けてペロリと詩織の頬についているソフトクリームを舐める。
「きゃっ 何するの?!リカ!!」
リカの予想外の行動に、詩織は顔を真っ赤にして思わず声を出してしまう。
心臓がドキドキして、その鼓動音が
今にも聴こえて来そうになる。
戦いでもこんなに驚いた事がないのにー
「うふふっ、おいしかったわ。
詩織のミントソフト」
そう言って、リカは両手でカバンを持って詩織の前を歩いていく。
次の日、2人が次元転移したのは、 プロメテウス(秩序 )の空中浮遊基地である。
今日は休日なので、いつもの高等科の制服から戦闘用の魔導服(ソーソリー・スーツ )に着替えていた。
リカは白と青銀と濃紺と黒、詩織は白と白銀と赤が基調の魔導服をそれぞれ着ている。
空中浮遊都市そのものが巨大な訓練施設になっているプロメテウスの基地の施設内には、実戦を想定して標準世界の、つまり、発展途上世界の旧技術でできた都市が再現されている 仮に訓練で破壊されても、巡回ロボットが自動修復してもとどおりになる。
ソーサレスの戦闘訓練は、基本的に、ソーサレスの安全性を考慮して、
ナノマシンが照射する
物理化していないが、エーテル( 魔導元素)から放出される高周波によって、接触する感覚を与える事ができる。
さらに、仮想悪魔精霊( ヴァーチャル・フューリズ )の攻撃を喰らうと、感電して痺れるような感覚がする。
詩織の真っ直ぐ伸ばした左手の前方中心に、霧状の氷の結晶が集結し、円錐型に近い氷柱となって、標的の《ヴァーチャル・フューリズ》仮想悪魔精霊に向かって発射される。
まるで人工衛星のようなロボット型の仮想悪魔精霊( ヴァーチャル・フューリズ )に、円錐型の氷柱は命中し、ソーサリー・エナジー(魔導力)でできた立体映像のポリゴンを歪曲させて光の粒子を散らし、消滅する。
詩織は真っ直ぐに伸ばした左手をゆっくり引き寄せると、自慢げにリカの方に笑顔を振りまき白銀色の髪をかきあげる。
その左手薬指に着けた指輪、アミュレット(魔導護符) はエレメント(物質元素)の虹色の輝きを見せながら、現在も先程の戦闘のデータを解析している。
アミュレット(魔導護符)は、ソーサレスの戦闘行為全般、特に、ソーサリーの詠唱と展開を支援する超最先端精密機器である。
アミュレット(魔導護符)は思考操作で詠唱されたソーサレスの命令と指示を受信すると、搭載された量子半導体CPUを起動させて、超高速で論理演算する。
ソーサリー・サークル(降魔陣)は、ソーサリーの始鍵であり、認証コード(解除コード)である。
それは簡略化された様々な図形や記号、数字や文字で構成され、暗号化された、ソーサリー専用のプログラミング言語である。
まずソーサリーの種類と性質が書き込まれ、次に、詠唱したソーサレスの位置と座標軸が組み込まれる。
更に持続時間と転送されるソーサリー・エナジー(魔導力)の供給量。
そして使用されるエーテル(魔導元素)やエレメント(物質元素)の属性系統が入力される。
エーテル(魔導元素)は、次元構造を融解したり修復することにより、元素や素粒子などの物質を次元転移したり次元転送することが出来る神の元素である。
アミュレット(魔導護符)は、このエーテル(魔導元素)を媒介にして、固有振動に変換された(ソーサリー・サークル)降魔陣を魔導制御機構に転送する。
魔導制御機構とは、非物質次元階層に存在する、エーテル( 魔導元素)を精製するための装置である。
魔導制御機構は転送されてきたソーサリー・サークル(降魔陣)を画像解析処理する事により、その幾何学模様の形状やそこに書かれている言語や図形を認識する。
ソーサリー・サークル(降魔陣)は、通称、2次元マトリックス次元転送方式と言われ、要するに、QRコードの原理と次元転送を組み合わせた通信方式である。
携帯電話などに使用される圧縮データー変換方式でも、エーテル( 魔導元素)を媒介にすれば次元転送は可能だが、次元構造での通信機能の最適化と高速化を望むなら、2次元マトリックス転送方式(降魔陣[ソーサリー・サークル]の詠唱)を選択するべきである。
降魔陣(ソーサリー・サークル)とは、ソーサリーを精製し、発動するための設計図であり、プログラミング言語である。
魔導制御機構は、その設計図と動作手順に基づいて、エーテル(魔導元素)を精製し、ソーサリーを構築する。
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