第3話 聖銀の軌跡
ふッ 綺麗事を
あなたの現在の幸福な境遇も、多くの人々の生命や想いを踏みにじって建てられた墓標だということも知らないで。
他人の屍の上で紡がれた想いや願いなど、脆く崩れ去る砂上の楼閣だということに、いずれ気づくことになるわ。
「私は、あの女性を救ってあげたい。
あの女性は、善良で優しい女性なのよ!
だから、今回はあなたが一度身を引いて!
あとは、私が自分一人で解決するから!
あの女性の生命は、私が1人で救い出してみせるから!」
「ふッ-」
邪龍の首の一本を叩き斬ったリカが苦笑する。
コマ割のフィルムを繋ぎ合わさせて編集されたような、他人の人生の
しかも、それは魔物が宣伝用に都合良く演出した特殊効果かもしれないのに。
さすが、甘ったれた環境で育ったお嬢様の思いそうなことね。
自分一人で女性を救う?
慈善と献身に酔い痴れた愚かな
何もかも、自分一人で世界が変えられるなどと本気で思っているのかしら?
現実逃避にも程があるわ。
前方斜め上空から、邪竜が急降下して襲いかかってきた。
リカはそれを跳躍してかわす。
邪龍はアスファルトを砕き、道路に頭部から突っ込む。
邪龍たちの連携による、殺戮攻撃の継続に、一瞬間隔が空いた。
その間隔を狙って、リカが
「駄目!!」
その真っ直ぐに伸ばした左手のその先に、横向きの
リカがチラリと詩織を一瞥した。
何をやっているの-
相変わらず、なんて愚かなことを
リカが軽蔑にも似た眼差しを詩織に向ける。
「あなたはもう離れていて!リカ!
人の生命や権利を尊重して、誰かを救済し、守護する気持ちがないなら、あなたには、戦う資格はないわ!
あなたは、何が目的で戦っているの!」
詩織が声を張り上げて叫ぶ。
「そんなにあの哀れな眠り姫の事が心配なの、詩織。
それなら、その憂いを氷の棺ごと叩き壊してあげるわ。」
そう言って、リカはなぜか前方上空に向かって
「--!?」
歩道橋で爆発が起き、設置された信号機が吹き飛ばされ、その機械の残骸が水晶に激突する。
亀裂が拡大し、水晶はガラスの破片のように破壊され、粉々に砕け散る。
中にいた女性が、道路上に足元から崩れ落ち、仰向けに倒れる。
こうなった以上、一刻も早く女性を救出しなければならない。
詩織の右手が発光する。すると、彼女のその掌の中に、純銀に光輝くムチが出現する。
詩織が純銀製の魔導のムチを振るうと、数メートル先の道路に倒れている女性に向かってしなやかに伸びていき、彼女の身体にグルグルと巻きついた。
詩織がムチを引っ張ると、まるでバネのような反動で、女性の身体が跳ね上がり、空中を舞って詩織のすぐ側の歩道にゆっくりと降ろされる。
リカは、首を短縮する邪龍を追跡するように、
詩織は避難させた女性の無事を確認すると、ムチを消滅させて、女性に背中を向けリカの方を見る。
「待って ︎リカ ︎私も援護するわ!!」
女性を救出した今、
「2人で-」協力して戦いましょう。
詩織が、リカの方を見ながら、リカを制止させようとそう言いかけた瞬間。
その刹那、リカが詩織の方を振り向く。
リカと詩織は一瞬目が合う。
そして、
「うるさい 邪魔をするな!!子娘 ︎
甘ったれたお嬢様は黙って見てなさい ︎」
そう言って、リカは素早く左手を詩織に向けると、高速で4条の
光り輝く円環状、
スパァッ
先程魔物が発射した、波状の烈光が、リカの無防備な手首を切り裂き、鮮血が吹き出した。
「ッ-」リカは苦痛に顔をゆがめる。
「えっ?」
詩織は戸惑いの表情を見せる。
いったい何が起きたのか理解できずに、思考が停止し、身動きが取れずにいる。
そして、
スドォォォ-ン
「ギシャァァァ-」
邪悪なる魔物の咆哮が、爆音と入り混じり、聞こえてきた。
詩織が背後を振り返ると、そこには、半透明の緑色をしたゼリー状の
直径3メートルほどで、女性 だったそれは質量・重量ともに増殖し、巨大化している。
クラゲのようなゼリー状の身体から、イソギンチャクのような数十本の触手を伸張させて、背後から静かに音も無く襲いかかろうとしていた。
リカの発射した
中央にある金色の巨大な眼球が、憎悪と妄執の輝きを放っている。
烈光の直撃で、ゼリー状の肉体は焼け焦げ、爆発で一部が引き裂かれたように吹き飛んでいる。
女性は人間の姿を維持したまま、詩織を欺き、彼女が油断して背中を見せた瞬間を狙い、
烈光は連鎖反応のように爆発して、魔物のゼリー状の断片が宙を舞う。
空中から、肉体の変媒がとけた女性の手足や内臓などの肉塊が、バラバラと道路に落下する。
詩織は血の気が引いて、蒼ざめる。
冷酷な現実。救おうとした人間が、魔物に顕現し、変媒し、最後は自分を殺そうとした。
ボトリ
最後に、右腕と頭部だけになった女性の上半身が道路に落下する。
うつ伏せの状態で、ズルズルと身体を引きずり、詩織に近づいてくる。そして、片腕を伸ばし、詩織のほうへ必死に伸ばす。
「せめて、あなただけでも、消滅して 欲しかった。」
そこで、女性は生き絶える。
詩織は動揺を隠しきれず、身震いする。
その彼女の、緩慢な精神のスキをついて、もう一つの
「何をしてるの!!詩織 ︎ぼんやりしない ︎」
戦意を消失しかけ、茫然自失の詩織をリカの鋭い言葉が引き戻した。
魔導制御機構が、詩織の位置情報を特定して、その次元空間の座標軸に向けて、
そのため、ソーサレスは自身の外見を変化させずに、人間の姿を維持したまま身体能力や防御力、反射神経を強化させる事ができる。
これにより、ソーサレスの肉体を構成する様々な物質、例えば酸素や水素などの物質元素や電子や陽子など素粒子のエネルギーの変換効率を高め、情報伝達速度を高速化し、ソーサレス自身の身体能力や反射神経を飛躍的に向上する事ができる。
詩織の左手から、虹色の聖炎が溢れだしてくる。
聖炎は凝縮され、白銀の光芒を帯びた冷徹鋭利なナイフに生まれ変わる。
まるで純銀の貴金属か、氷の結晶のように、純潔で気高く尊い。
詩織がナイフを反転させて、逆手に持つと、振り返りざま、邪龍の頸動脈に斬りつける。
虹色のエレメントが吹き出し、邪竜の首がボトリと道路におちて、痙攣する。
さらに6匹の邪龍が、詩織めがけて連続で強襲してきた。
詩織は身を翻し、道路を滑るようにしながら、前後左右斜めに移動しながら、邪龍の首をナイフで捌く。
まるで蝶が舞うように、花びらが風になびくように。
右袈裟斬り、左袈裟斬り、横薙ぎ、
逆右袈裟斬りの順に。
ナイフの軌道が白銀の垂線となって、空中に模様を描く。
瞬間、時間が止まったように、6匹の邪龍たちが空中で停止する。
3秒後、6匹の邪龍の頸動脈から、同時に亀裂が入り、虹色のエレメントが吹き出す。
木の葉が散るように、ボトボトと邪竜の首が道路に落下する。
詩織が、右手を真っ直ぐ前方に突き出す。
すると、詩織の身体が魔導元素(エーテル)の輝きに包まれ、風に舞う花びらのようにフワリと宙に浮かび上がる。
構成元素には、2種類ある。
1つは、酸素や水素など、この自然界に存在する普遍的な
もう1つは、この自然界、つまり、物質次元階層には本来存在しない、自然の摂理や物理法則を根幹から覆し、改変する事の出来る万応の構成元素、
ソーサレスは、
融合反応を引き起こした
詩織の右手の前方の空間に、
4条の烈光は、間隔を開けたまま蛇のように絡まり合い、螺旋状となって宙を切り裂き魔物に炸裂する。
ピカーッ
光輝の音色が鳴り響き、直後、大爆発が起きる。
体躯の右半分が瓦解し、残った数匹の
邪龍が断末魔の咆哮を上げながら、痙攣したあと、首の根本から崩れ落ちた。
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