第3話 奴ら、登場
要の腹部への攻撃を諦めた夏は、じろりぎらりと辺りを見回す要にため息をつく。
「アンタね、そんな目で見てると……周りの人たちと」
「そこのうぜえパツキン……何見てやがんだゴラ!」
「ああ?」
「ケンカになるよ……って遅かった!」
「要さん!夏さん!こんにちは!」
商店街を、ズッカズッカ、とガニ股で歩き威圧してくる学生服の大男と、いかにも『お供です!』というようなヒョロヒョロ男が、要と夏の傍に寄ってきた。
ひょろひょろの不良、
「呼んでねっつの、あっち行けひょろ慈」
「あはは、要さん相変わらず冷たいっすね!夏さんもお元気そうで!」
「ねえ、同級生で敬語やめようよ」
「いえ、
「誇らしげに言いきったよ……」
一条照輝と
その二人と要達との関りはというと、その昔、要に因縁をつけた照輝が夏にハートを撃ち抜かれて以来、照輝は夏に惚れ込んでいる。
そして賢慈は賢慈で、要が他校の三人の不良に絡まれ返り討ちにした所を目撃し、腕っぷしが強くてどこか飄々としている要に憧れていた。
「賢慈、てめえ何ジャレついてやがる…おお!なっ」
「ごめんなさい!」
「まだナンも言ってねえよ?!」
「ごめん……なさい……!」
「スカート握り締めるほど嫌なの?!」
額に傷のあるイカツイ不良が、しょぼんと肩を落とす。
それを見た賢慈が照輝を指差して、大爆笑した。
「あはははは!照輝さんめちゃくちゃ拒否られてるよ!」
「賢慈、最後に言い残してえことはあるか?」
「……」
賢慈は自分の唇の前で右手を左から右に動かす。
秘技、お口チャック!
「
「誰がてるてる坊主じゃ!俺はなっちゃんに会いに来てんだ、おめーがけえれ」
「てるてる坊主じゃなくてテレテレ坊主っすよね?照輝さん!!」
「壬浦くん、お口チャックが10秒持たなかった!」
夏がツッコむのと照輝がゴンッ!と賢慈に拳骨を下ろすのは同時だった。
「いってー!」
「賢慈、もうお前は黙ってやがれ!」
涙目の賢慈は再び得意技を使った。
自分の唇の前で右手を左から右に動かす。
そして左手を右から左へと動かす。
秘技、ダブルお口チャック!
賢慈は静かにガッツポーズをする。
「閉じた口を開けちゃってるね……」
「こいつらがうっせーから起きちまったっつの」
要の肩の上で支えられて寝ていた子猫が、目を開けようとしていた。
だが瞼はその状態から上がったり下がったりしている。
「か、可愛すぎる……!」
「あれ?黒い子猫ですね。どうしたんですか?」
「おう、可愛いじゃあねえか」
「要がひとりぼっちのこの子を見つけたの。それで親猫探してて」
夏は手をワキワキさせつつも、子猫を抱きしめたい気持ちと寝かせといてあげたい気持ちで葛藤していると、ふと思いついて要に問いかけた。
「ねえ。子猫のお父さんお母さん、黒猫探せばいいんじゃないの?」
「そうとも限んねっつの。色の遺伝子の組み合わせ次第で親とは違う毛色の子猫が生まれたりすんだろが」
「夏さんは、当たらずとも遠からずですね。ただ、猫は父親と行動しないですし、そもそも多胎動物ですので、見るだけじゃわからないかもっすね。要さん流石っす!」
「……いでんし、たたいどうぶつ」
夏は、二人の答えに出た言葉を反芻するも理解が追い付かない。
しかも、得意技が『お口チャック!」の賢慈まで。
もともと要は、夏にとっては小癪なことに成績が学年上位、夏よりも上に位置するのでわからなくはなかったが、実は賢慈はその名の通り賢いのかも、と夏は見直す。
「ドラ★もんはな、猫耳がついてたんだぜ?」
「一条さん、無理に話に乗らないでも大丈夫です!……ね、ねえ。要も壬浦くんも何で猫の事そんなに詳しいの?」
「「猫Caffe(で教えてもらったっすよ!)」」
「何なの?これはツッコむとこ?驚くとこ?」
二人の返答に、むむむぅ、と眉毛をハの字にさせた夏の横で、ドヤ顔をしょんぼりに変化させた照輝がふと思い出したように言い出した。
「そういや、黒い猫ならさっき見たぜ?なっちゃん」
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