第4話 奇跡の始まり

 数えきれない衛士に見送られ移動用の魔法陣はゆっくり会場に進む。


「姫様をこうしてお迎えできた事を本当に嬉しく思います」


 宰相ザハールさんは肩を震わせて言った。


「その通りでございます、国民もこの日を待ち望んでおりました。この国の象徴たる方がやっとお越しいただけたのです」


 執事長ザバルも熱く語る。


「お二人ともこれから皆の前に立たれる姫様を緊張させてどうするのです?」


 セナさんに言われ二人とも静かになった。


 だけど私は周りの事が全く聞こえていなかった。頭の中にはこれから歌う事でいっぱいだった。そして確かめておかないといけない事を思い出した。


「あの… 国民の皆様は私が女王となる事を知っているのでしょうか?」


「もちろん姫様が異世界よりこの国の女王になるべく来られた事は皆知っております。伝承にありますからね」


「ただ姫様自身の情報はほとんど伝わっておりませんね」


 やっぱり私の事はほとんど知らないよね…

 当然異世界から来たこんな小娘に国を預けるのだから不安になる人もいるかもしれない。

 幸い祝福とやらは歌で良いらしいので歌で私の事を知ってもらう事ができるかも…


「姫様、会場に着きます」


 セナさんが私の服を整えながら言った。


 いよいよだ。


 長い回廊を抜けて広いバルコニーの様な所にで出た。中央外よりに赤に金をあしらったお立ち台が設置してある。あそこで歌うらしい。


 一同はその台の前で止まる。

 宰相であるザハールさんがスッと私の前に立ち深々とお辞儀をしてからお立ち台に登った。


 皆んなの目の前それぞれに画像が浮かび上がった。

 正面からお立ち台に立っているザハールさんが映っている。

 どの様な仕組みかわからないがこの国に放映されている映像のようだった。


「この常夜の国へ伝説の方が君臨された!まさしくこの国を明るく照らす存在!伝承にある異なる世のお方である!」


 ワーワー!


 ものすごい歓声が地響きの様に会場を揺らした。

 ザハールさんが右手を挙げ静寂を促す。

 ピタっと静まり返った。


「私は奇跡を見た!ご降臨された森でされた祝福により大地は生命に溢れ、湖は浄化されるのを」


 うおおっー!

 神の降臨だー!

 この国の希望!


 さらに歓声が上がった。

 大きな城が震えている様だった。


「必ずやこの国を救って下さるだろう!!我らが姫様!女王陛下となられる香蓮様!」


 ものすごい歓声でなかなか動けない。


「姫様、どうぞこちらへ」


 執事長のザカルが手を差し出した。

 その手に自身の右手を乗せた。

 ゆっくりお立ち台へエスコートされる。

 階段を登り台の一番上に来た。

 顔を上げ前を見る。


 常に夜の国であるため暗く見渡す事はできないがお披露目に来ている国民は皆何かしらの灯を持ってそれを上に掲げてまるで宇宙に輝く星の海に見えた。

 前のモニターには私が大きくはっきりと映し出されていた。セナさん達が頑張って準備してくれたおかげで見た事もない姿の私が映っている。


 会場は持っている明かり以外はわからないので思ったよりは緊張してないけど心臓はさっきからどんどこまるで太鼓でも鳴らす様に鳴っている。

 落ち着く為にゆっくり目を閉じた…


 …

 うれしい…

 やっと来て来てくださった…

 どうかこの国をお救い下さい…

 あれが姫様、可愛い…


 え… 何これ?

 目を閉じると周りから色んな声が聞こえた。


 これは…皆んなの思いが聞こえているの?


 何だ、まだ子供じゃないか…

 誰が来てもこの呪われた国は救われない…

 我々は闇にしか生きられない…

 女王だと!そんなの必要ない…


 批判的な思いもある様だ。

 ザハールさんが言うほど国民は女王を望んではいないかもしれない。それはそうだ、いくら伝説と言ってもそれは皆んなの中でおとぎ話でしかなかったのだろう。

 突然別の世界から来た者を信頼するには無理がよね。


 でも…


 姫様、綺麗〜私も姫様になる〜 …

 姫様いつも頑ってるお父ちゃんお母ちゃんを褒めてあげて…

 ああ、生きてこの時を迎える事ができるなんて…


 期待してくれている人達、無邪気な子供達の思いも聞こえる。

 色んな人、色んな思いがあるのは当然の事だ。


 私は今出来る事をしよう…


「ひ、姫様大丈夫ですか?」


 目を閉じたまま動かない私を心配してセナさんが声を掛けてくれた。


 うおーセナちゃん!…

 結婚してくれ…

 セナちゃんセナちゃんセナちゃん…


 セナさんが少し画像に映るとセナさんへの熱狂的な思いが流れて来た。

 人気あるんだなセナさん。

 おかげで緊張が解けた。


「大丈夫です」


 セナさんの目をしっかりと見て応えた。

 ゆっくりと会場の方向を見て深呼吸をする。

 静かにでもしっかりとした声でゆっくりと歌い始めた。


 夜の先を見つめる…

 今日も見つめる…

 あなたも夜の色染まった顔

 私もきっと夜に染まった顔

 明けぬこの世界で出会ったあなた

 本当のあなたはどんな色

 ねえ…もっと近く ねえ…もっと鮮やかに

 感じさせて…


 バラード調にゆったり皆の今の思いを感じながら歌った。


 🎶

 どうすればいい…

 いつまで待てばいい…

 伝説の人は本当に来るのだろう?

 本当に闇を祓う事ができるの?

 早く来て私達の時が過ぎ無い内に

 わかっているの本当は…

 伝説は皆の思い 皆の思いが伝説になるの

 明けの伝説… 🎶


 会場に来ている人、映像を見ている人達の感情が伝わって来る。本当に伝説を信じてている事を。

 ほんの一瞬だけ間を開け再度歌い出す。

 今までの思いを願いを絞り出す様にアップテンポで会場、国中に響く様に元気に。


 🎶

 さあー!思いを一つに!

 さあー!描こう夢を!

 明けぬ世界を進め打ち破れエフフォリーア

 さあー!手を上げつき抜けろ!

 今こそ皆で伝説を作れ!


 この夜に伝説を成す!! 🎶


 皆んなから感じた思いを精一杯歌に込めた。

 会場皆んな手を上げている、おそらくこの国の皆が手を高く闇夜の空に力強く上げている。


(条件を満たしました。これよりサポートプログラム、ナイト・オブ・クイーンを開始します)


 え、何?誰?


 突然聞いた事ない女性の声で頭の中に言葉が響いた。


(ナイト・オブ・クイーンは眷属全ての共感を得られた場合に発動される特殊スキルです。これにより眷属は加護が与えられ状態異常、身体進化が付与されます)


 はい?何それ⁈


 近くに居たセナさんを見ても何も気が付いていない様子だった。

 私にだけ聞こえてるの?


(そうです、このサポートはクイーンである貴方様のみが行使出来る能力となりアナウンスも貴方様のみ聞こえます)


 ふぇ〜 何これ、さすが異世界…

 私がクイーン… 確かにこの国の女王になるとは皆んな言ってたけど。


 ワーワー

 姫様ー!

 我らが女王様!


 会場、国中からの喝采が上がっている。


 もしかしてこれが異世界から来た者に与えられる力、伝説の力なのだろうか?


 も、もしかしてこの夜の呪いを解除できたりする?


(可能です、夜の呪い解呪はナイト・オブ・クイーンに組み込まれています)


 本当⁈ よかった。

 皆んな言葉にはしないが異世界から来た私がこの呪いを何とかしてくれるのではないかと期待しているのが先ほどの皆んなの思いでわかった。

 同時に誰が来てもどうしようもないと言う諦めの感情もあった…

 それほどまでに長い時をこの夜の呪いは続いて来たのだ。


 それじゃ、この呪いを解呪してくれる?


(了、ナイト・オブ・クイーンによる夜の呪い解呪を開始します。貴方様、右手を上に真っ直ぐに上げて下さい)


 言われるまま右手を高く夜空を突き上げる様に挙げた。


 それを見た国民全て今まで喝采していたのが嘘の様にピタッと静かになった。

 会場は静まり返り私の次の行動を見守っている。


(貴方様、そのまま次のコードを発言して下さい)


 …


 頭の中に発言する言葉が浮かんで来た…


 え、これを言うの?


(はい、お願いします)


 ええ〜もう少し自重した言い方はない?


(ありません)


 キッパリ言われてしまった。

 しかしこれはすごく恥ずかしい…


(お願いします!)


 はい…


 覚悟を決めて会場を見た。

 皆んなの期待と不安が伝わってくる。


 皆んなの為、言うのよ香蓮!


「我は異世界より来た絶対神、ツクヨミと盟約を交わした者なり!」


「今この時!約束を果たさんとする者である!」


「約束が果たされた後、我はこの国を守護する騎士となりそして女王となる定め!」


 ナイト・オブ・クイーン!

 伝説のナイト・オブ・クイーンだ!

 ついにこの時が!


 皆の期待が爆発する。


「顕現せよ!この呪いを打ち破る月と太陽の剣、ソルナーセイバー!」


 そう言うと目に前の下から眩しい光が溢れその中から一振りの剣が現れた。

 ゲームなどで良く見る聖剣の様に神々しく剣身は半分が太陽の様に光り輝き、半分は月の光の如く柔らかい青に光っている。


 剣を手に取り先程頭に入って来たイメージと同じ様に空に狙いを定め剣を構えた。

 映像で自分姿を見ると我ながら様になっている…

 それどころか達人の様な雰囲気が映像からも伝わってくる。

 剣なんて持った事ないのにこれもナイト・オブ・クイーンの能力なのだろうか。


「この地に満ちる闇よ、我が剣は全人の思いと知れ!」


「アナストロフィフォス!《反転の光》」


 体が動くまま剣を振るった。

 その刹那、空に剣先を幾度もなく振るった軌跡が残った。しかし見えたのは軌跡のみで振るわれた剣身が見えた者は居なかった。


 空に残った剣の軌跡が六芒星を中心とした魔法陣の様な模様を露にした。


 その魔法陣に向かって剣を下から振り上げ一刀両断する。


 パシーン!!


 振り上げた剣をそのまま空に掲げ見守った。


 真ん中を綺麗に両断された魔法陣が割れる。

 その中から眩しい光が溢れ出した。

 魔法陣はそのまま開いて行き中の光が広がって行く。

 地上に明るい光が降り注いだ。


 やがて魔法陣は消え去り空は穏やかな青空が広がった。


 光だ!

 太陽がある!

 夜が明けたぞー!


 国民が一斉に歓声を上げる。


「聞け!!」


 剣を挙げたまま国民に話しかける。


「闇は祓われた!自身の呪いも解かれただろう!」


 おおー、太陽の光を浴びても何でもない!

 太陽が暖かい…


 闇夜でしか動けなかった人達が歓喜する。


「伝説はここに成った!盟約により我はこの地をこの民を守護する者、ナイト・オブ・クイーンである!」


 おおー!

 ナイト・オブ・クイーン!

 我らがエターナルプリンセス!

 姫様ー!


 国民の歓声はずっと続いている。

 歓声を背にゆっくり剣を納め台から降りた。


「姫様!やはり貴方こそ伝説のお方!」


 ザハールさんが言葉にならない程興奮しながら駆け寄って来た。

 ザカルさんセナさんも駆け寄る。


「ザハール様!」


 セナさんが興奮するザハールさんを落ち着かせる。

 そのセナさんの頬にはキラキラした涙が見えた。


 ザシャ!


 急に三人が私の前で跪いた。

 それを見た他の人達、護衛の衛士達。

 そして国民が全て跪いた。

 今この国で立っているのは香蓮だけだった。


 暖かい太陽の日が気持ちよく注ぐ中、ザハールさん跪いたままが国民を代表し宣言する。


「偉大なるナイト・オブ・クイーン、香蓮様、長きに渡り闇に包まれたこの国をお救い頂き国民を代表し感謝を申し上げます!」


 ザハールさんは頭を垂れたまま続ける。


「それだけでなく、闇夜にしか存在出来なかった者達まで救って頂くとは正に伝説にある我らが待ち望んだお方。この国、そして国民全て香蓮様に子々孫々に至るまで忠誠を誓います!」


【【【誓います!】】】


 国民全てが一斉に誓いを言葉にした。


(条件を満たしました。ナイト・オブ・クイーン、香蓮は眷属全ての忠誠により神格化され種族がアンデットオーバーロードから神族、セイント・ナイト・オブ・クイーンへ変化します)


 え?神族⁈ その前に私アンデットだったの⁈


(はい、この世界に召喚された際にアンデットの最上種さいじょうしゅオーバーロードに再構成されていました)


 そ、それが今度は神族?神様って事⁈


(神族は地上に顕現している神の事を指します)


 神様… 私が?


(おめでとうございます)


 いや、これめでたいの?

 でもアンデットよりはいいのか…?


「姫様?」


「あ、いえ。何でもないです…」


「どうか、我々の忠誠にお答え下さい」


 あ、なんか言わなきゃいけないのね。

 厨二病っぽいのがいいのかしら。


 香蓮は学校のクラスの厨二病っぽい友達を思い出しそのセリフを真似てみた。

 剣を前の地面に垂直に突き立て柄の先端に両手を乗せ精一杯胸を張った。


「我は異世界より召喚されし者、漆黒の闇夜から其方らを解き放つ者である。其方らの忠誠、今身に深く刻まれた。この忠誠に答えるべく我はこの国を守護し永遠の繁栄をもたらす事を誓おう!」


「我は其方らの忠誠によりセイント・ナイト・オブ・クイーンとなった!」


 そう言うと明るくなった空から一筋の光が降り注ぎ私を神々しく照らした。


 頭を垂れていたザハールさんが顔を上げた。


「おお!それは神に認められた者が神族が浴びる事が出来ると言う聖なる祝光!」


 えーと、何この光?


(地上の神を天の神が祝福するための光です。その光により神の降臨を知らしめ大いなる加護が与えられます)


 もう、何でもありな状況で香蓮の感情は麻痺していた。


 あーそうなのね、加護かぁ〜


(それにしても貴方様、先程の口上は素晴らしいものでした。さすが貴方様)


 香蓮は先程の厨二病的発言を思い出して麻痺した感情が戻ってくるのだった。

 途端に物凄く恥ずかしくなってきた。


「セイント・ナイト・オブ・クイーン、我らが女王。香蓮姫様!」


 ザハールさんが立ち上がり宣言した。

 会場も映像を見ていた人達も立ち上がり歓声を上げている。


 ドドーン!


 青い空に祝砲が上がった。


「さあ、姫様。こちらで皆んなにお姿をお見せ下さい」


 セナさんがお立ち台へ誘導している。


 改めて会場、そしてこの国を見回した。

 街は闇夜の中少しでも明るくする為かほとんどが白い建物で出来ていた。

 そらが今は太陽に照らされてキラキラと輝いる。

 そして街の周りには青々とした森が広がっている。

 遥か遠くには大きな山も見えた。


 国民は香蓮の姿を見て歓喜している。


 ドドーン


 祝砲が何度も打ち上げられお祭り騒ぎだ。


「こんな綺麗な国だったのですね」


「そうですね、私も知りませんでした…」


 セナさんも生まれた時から夜の国しか知らなかったのだ。その目には美しい街並みがキラキラと映っていた。頬にも光るものが止まることなく伝っている。


 これからこの国は大きく変わるだろう。

 私に何ができるかわからないけど皆んなが幸せになれるよう何かできればいいな…


 今この時もみんなの幸せな気持ちがじんわりと伝わって来る…


 ◆   ◇   ◇   ◇    ◆


 この国、この街は暗い…

 それもそうだ、夜が明けないのだから。

 俺はこの街で建物などを建てる仕事を代々やっているミノタウロスのミノ吉だ。

 親父も爺さんもその爺さんもまたその爺さんもずっとこの国で建物を建ててきた。

 この国ではそれなりに知られた一家だ。


 幼い頃、お袋に買ってもらった本で世の中は暗くない時間、太陽という明るい球が空に上がり一面明るくなる事を知った。

 月とは違う存在らしい。月よりも何倍も明るいらしいじゃないか。

 一度でいいからその太陽を見てみたいもんだぜ。

 だがそんな事は死ぬまで無いだろうと思ってた。


 しかし、ついに伝説の人が現れなんだかすごい歌を歌って夜まで吹き飛ばしちまった!

 それだけじゃねえ、この国の女王様になるだけじゃなく神様にまでなってびっくりだ。

 俺は神様を初めて見たが恐ろしく神々しくてあの人に付いて行きゃどんな事が起きても大丈夫だと思ったね!

 他の奴らも同じ様で一人残らず新しい女王様に忠誠を誓ってしまった。


 何つっても女王様だけじゃねえ、俺たちも神の眷属ってやつになったらしい。

 夜が晴れた時に頭に響く声がしやがったのよ。


 汝ら、神の眷属とす!  ってな!


 女王様が神様になったんで俺たちもそれに近い存在になったらしい。

 おかげで今まで夜にしか存在出来なかった奴が今では明るい太陽の下で飛び跳ねてやがる。

 俺も進化してエインジェル・ミノタウロスってやつになったらしい。見かけも牛そのものだったのに今じゃ人と同じ姿だ。

 ミノタウロスの角は残ってるからこれが進化なんだろう。前よりは細っちくなったが力は比べ物にならない程強くなってるみたいだ。


 まあ、そんな事よりセナちゃんだぜ!

 普段はあまり見る事は出来ないが今日は映像でバッチリアップで見れて大興奮だぜ!


 女王様も可愛いけどやっぱりセナちゃんだよ!


 あ、またアップに!


 うおーセナちゃん!

 結婚してくれー!

 セナちゃんセナちゃんセナちゃんー


 おお!こっちを見てくれた!

 ああ!幸せだー!

 女王様ありがとう〜!


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闇光の姫様<永遠のプリンセス> 「私、アンデットなんですか⁉︎」【連節-夜闇節】 りるはひら @riruha-hira

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