第2話 姫様の御入城!

 死んで夜の神、月読様に不死の存在として異世界転生されたみたい。

 見た目も服だって死ぬ前と変わらない。

 本当に不死の存在、人ではなくなってしまったのか…

 月読様からは世界を救えとしか聞いてないし何かの間違いと思いたい…

 でもしっかりザハールさんには啓示を与えていて不死のお姫様だなんて。

 計画的なのか手違いで不死の魔人になったから慌てて対応したのか…

 どちらにしても私にはどうにもできないしとりあえず魔界の宰相に着いて行く事にした。


「では香蓮姫様、これより貴方様の国、ディストピアムーンへお連れ致します」


 魔界の宰相、ブラッド・ザハールはそう言うと左手を前に出し指2本で円を描いた。

 すると目の前に黒い円が描かれ、その中に紫色の奇妙な空間が漂っている。


「姫様、どうぞ」


 ザハールは円の中に入るよう香蓮を招いている。


 ここ通るの? すごくキモいんですが…

 覚悟を決めて目を閉じて円に入った。


 …


「姫様、着きましたよ」


 あ、なんも感じなかった一瞬だったな。

 落ち着いて周りを見ると森とは状況が一変していた。森では昼間だったのにここでは暗い、まるで夜のようだ。無数の星、大きく妖艶に光る青い月と少し小さい赤い月並んでいる。


「ここは⁉︎」


「ここが常夜の国、ディストピアムーン。貴方様の国でございます」


 わ、私の国⁉︎


【【【【お帰りさないませ!姫様!】】】】


 うわ!な、何ですか?


 目の前にいつの間にか大勢のメイドさんが両端にずらーと並んでお辞儀ををしていた。

 100人はいるんじゃないだろうか。

 そしてその奥に圧倒的な存在で佇んでいる大きな城が見えた。


「こちらが姫様のお住まい、不夜城です。そしてこの者達は姫様のお世話はさせて頂く者達となります」


「ふわ〜」


 思わず間抜けな声が出てしまった。


「そう、不夜城ふやじょう!でございます!」


 何故かすごいドヤ顔のザハールさん。


「では城の中へ参りましょう」


 この大量のメイドさんの間を?


「はひ」


 緊張しまくりでメイドさんの間を通り城に向かった。

 幸いメイドさん達は皆お辞儀をしたままでこちらを見ていないようだったので少し気持ちが落ち着いた。


 …


 随分歩いたと思うけどまだメイドさんの列が終わらない!

 城も近い感じに見えてたけど建物が大きくて近くに見えていただけだった。

 これメイドさん100や200じゃないよね。

 みんな耳や角があったり綺麗な鱗肌のメイド髪の毛が蛇とか色んな種族のメイドさん達がずらーと並んでいる。

 共通するのはどのメイドさんも綺麗な人ばかりだった。

 歩き始めて10分位経っただろうかようやく城の入口らしきものが見えてきた。

 凄いメイドさんの数だったな。

 この城どんだけ大きいのだろう…


 城の玄関みたいな所があるとてつもない大きな両開きのドアが全開しておりその真ん中に数名のメイド姿ではない人達が立っていた。


「おかえりなさいませ、姫様。わたくしは執事長のザバスと申します」


「あ、どうも…」


 ザバスと名乗った男は格好は執事のそれで人間で言えば50歳半ばの年齢に見える。

 ただ耳が上に尖っていた。


「ザバス、姫様は長旅でお疲れだお世話を頼みます」


「では姫様私はここで、しばしお休みになられてからお食事に致しましょう」


 宰相のザハールはそう言うと城の奥に向かった。


「それでは姫様、お部屋までご案内いたしますのでその紋様の真ん中にお立ち下さい。」


 漫画とかでよく見る魔法陣みたいだ。

 なんか魔法使うのかな?

 言われるがまま陣の真ん中の立った。


 フォン


 下の紋様が光り上に浮かび上がって来る。それと一緒に紋様の中に居た人達も浮かんだ。

 そのまま前に音も無く進む始める。

 どうやら移動するための魔法らしい。


「場内は広く移動魔法で移動致します、しばらくそのままでお待ち下さいませ」


 魔法陣に乗っているのは執事長のザバス、他スーツのようなのを着た耳が長くすらっとした女性。

 シルバーのメガネを掛けており秘書という感じだ。

 その後ろに青に金色の意匠が入った立派な鎧と槍を持った人が2名。

 お城の騎士だろう。


「姫様、ご紹介が送れました。これは執事次長のセナです」


 おそらくエルフではないだろうか?色が白くとても綺麗な人だ。良い匂いが漂って来そうで思わず鼻をヒクヒクさせてしまいそう。


「姫様、執事次長のセナと申します。姫様のお身周りのお世話をさせて頂きます」


「あ、香蓮です、よろしくお願いします」


 一瞬皆んな驚いた感じだったがすぐに元のシャンとした姿に戻った。


「あの、移動魔法じゃなくて転送魔法の方が便利なのでは?」


 ここに来るのに宰相のザハールに転送してもらったので魔法自体はあるはずだ。


「姫様のおっしゃる通りでございます。しかし場内では転送魔法が使用できません」


「そうなんですか?さっきザハールさんが転送魔法でここに連れて来てもらったので」


「場内の警備上転送魔法は阻害され使用できないようになっております」


「ああ、なるほど知らない間にあちこち行かれたら安全じゃないですよね」


 セラがニコッと笑顔でその通りですという顔をした。

 思わず見惚れてしまう笑顔だ。


「ですが姫様は別でございます」


 ザバスが胸に手を当てながら言った。


「どういう事でしょう」


「姫様はこの城、いえこの国の主になられるお方です。如何なる魔法もお使い頂けます」


 そうなのね…


「そうなんですね、でも私は魔法が使えないので同じですけどね」


 皆んながまた驚きの表情を一瞬した。


「失礼ながら姫様は使い方をご存知ないだけで魔法はお使いできると思います」


「わ、私がですか⁉︎」


「はい、この移動魔法陣は魔力が無い者は乗る事が出来ませんのでこうやってお乗り頂いている姫様は魔力をお持であると言う事になります」


 私魔力があるんだ。


「わ、私でも魔法が使える様になりますかね?」


「もちろんでございます!姫様であれば如何なる魔法も使える様になられるでしょう」


 私でも魔法が… ちょっと魔法には憧れる。

 だってせっかく異世界に来てるのだから使ってみたいよね。


「それと姫様、私どもに敬語は必要ありませんのでどうか主らしくご命令下さい」


 え〜 そんな事言われても私が命令だなんて…


「え、あ… そのうちに…ね」


 ザバスが柔らかい笑顔を見せた。


「慣れますよ、この様な事は慣れでございますから」


「さ、お部屋に着きますよ」


 いかにも高貴な人が入る部屋とわかるドアの前で魔法陣は止まりゆっくり皆を下に下ろすと消えてしまった。

 ドアの前には4人の鎧を着た護衛の人が立っている。鎧のデザインは一緒に来た護衛と同じだがこちらの護衛は白に金の意匠で立派なドアとセットになっている。


 4人の護衛でドアに近い二人がドアを開けた。


「姫様、こちらでしばしお休み下さい」


 そう言われて中に入ると…

 ひっろ!

 入った部屋だけでテニスコートよりも広い。さらにあちこちにドアがあるから寝室とか部屋がまだまだありそうだ。

 こんな部屋逆に落ち着かない!


「ちょッと広過ぎじゃないでしょうか?」


「そんな事はございません、姫様に相応しい部屋とわたくしがご用意させて頂きました」


 ちょっとドヤ顔になっている執事次長のセナさん。


「城の構造上これ以上大きくできませんでした、申し訳ございません!」


「いえ!十分ですから」


 ふう、色々すご過ぎて何も感じなくなって来た。


「この後しばらくしましたらお食事となりますのでそれまでごゆっくりされて下さい」


 そう言うとセナさんは他の部屋軽く説明して出て行った。

 とりあえず寝室に行って何人で寝るのよ!という広いベットに倒れ込んだ。

 ベットの横を見ると見た事も着た事も無いもない煌びやかなドレスがライトアップされて置いてある。


「まさかあれ着て食事とか言わないでよ…」


 考えてみればあんな森で彷徨うよりはちゃんとした所で休めるからありがたいけど私…

 これからどうなるんだろう…


 … … …

 … …


「姫様、香蓮姫様さま?」


「ふにゃ… 」


 どこだっけここ…


「お目覚めになられましたか?」


 耳が長い… 綺麗な人… エルフ…

 そうだ!お城に来たんだった。

 … 夢じゃなかったのね…


「お疲れでいらしたのですね、お休みの所申し訳ありません。これからお食事となりますのでご準備をお願い致します」


「あ、はい」


 少し寝たからかスッキリした気分だ。

 ベッドも気持ち良くて横になったらそのまま寝ちゃった。


「姫様、こちらへお願い致します」


 セナさんが部屋にあったドレスの所へ連れて行く。


 やっぱりこれかー

 こんなの着た事無いよ〜


「私こんなの着た事なくて…」


「大丈夫ですよ、姫様の為に私がデザインした物ですので絶対お似合いです!」


 またお前か〜


 部屋の趣味といいドレスといい完全にセナさんの趣味と才能が発揮されている。主に趣味の方が…


 パチンッ


 セナさんが指を弾くとスッと4人のメイド服を着た人が現れた。皆んな耳が長くセ綺麗な人ばかりだった。セナさんの配下だろうか?


「ではこちらにお着替え致しましょう」


 全力で拒否したいがセナさんのすっごいキラキラした笑顔を見ると断れなくなった。

 4人のエルフメイド達は素早く服を脱がすとふかふかのローブを掛けてくれた。

 そして違う部屋に連れて行かれるとそこは浴室だった。


「まずはこちらで清めて頂きます」


 ダークボイスなエルフメイドの一人が言った。

 うん、汚れてたんだね私…

 そういえばそのままあの豪華ベッドに寝ちゃったな…


 バサッ!


 いきなりローブを剥がれ素っ裸にされた。


「にゃ!」


 何事も無かった様に4人が浴槽の前に膝をつき浴槽へいざなっている。

 恥ずかしさが絶頂のままそそくさと浴槽に入った。


 はぁ〜


 久しぶりに湯に浸かった気がする、家じゃいつもシャワーだし。

 浴槽も金の四つ足で真っ白い浴槽になっておりバラ?が湯面に漂っている。

 気持ち良すぎてまた寝そうだ。

 そう思ってると半身を起こされ4人がかりで洗い始めた。

 エルフ達の細いしなやかな指でそれこそ全身をツルツルにされた…


 すごい気持ちよかったけど、恥ずかしすぎる。

 その後は例のドレスを着せられる。

 全てが終わるとセナさんと4人のエルフメイドは揃ってフーと満足そうな顔をしていた。


「お着替え終わりました姫様、いかがでしょうか?」


 そう言うと大きな鏡の前に立たされる。


「誰?」


 思わず声に出てしまった。

 セナさんはニヤリとしていた。


「お気に召された様でよかったです」


「え、あ…すごいですね自分じゃないみたい」


「姫様はお綺麗なのでこのような装いも良くお似合いですね」


 本当にすごい、飾ってあったドレスは白だったがその上から青い布で肩から腰へクロスする感じで巻かれており青い布には金色の刺繍がふんだんにあしらわれ私の金髪とバランスがとても良い感じになっている。

 髪も小分けに全体に流れる様に纏まっており大人びて見えた。


「ではお食事の場にご案内致します」


 そのままセナさんに手を引かれて部屋を出た…


◆   ◇   ◇   ◇    ◆


 香蓮が異世界に送られる前、常夜の国のお城では姫様お迎えの準備が急ピッチで行われていた。

 陣頭指揮を取っているのは執事次長のセナだ。


「狭い!こんな狭いお部屋、この国を治める姫様には似つかわしくありません!もっと拡張しなさい!」


 やがてやって来るであろう姫の為にセナは奮闘していた。


「しかし、セナ様これ以上は構造上危険です。お部屋の数を増やすのはいかがでようか?それぞれ違った装いも楽しんで頂けるでしょうし?」


 部屋の工事を担当している宮廷専属技師のファウスはセナの無茶振りに応えようと必死だった。

 ファウスはダークドワーフでセナにその腕を見込まれて城の専属技師に抜擢された人物だ。


「そうね、その方が姫様もお喜びなるかもしれませんね」


「では部屋を後10室追加しましょう!」


「おいおい、セナよそんなに部屋があったら姫様が迷ってしまわれるぞ」


 立ち会いをしていた宰相のザハールが見かねて口を出す。


「いいえ、ザハール様、この国を導かれるお方です10室でも足りない位ですわ!」


「セナ落ち着きなさい、まだどんなお方かも分からないのに過分な準備はもし気にいられなければ問題になるやもしれんぞ」


 執事長のザバスも参戦した。


「ザバス様!私のセンスをお疑いですの?」


「い、いや… そうでなくてでだな」


「お二人とも事家事においては全くだめではありませんか。以前も外国からの賓客に用意されたお部屋など散々ではなかったですか?」


 以前この宰相と執事長は賓客が来る際に張り切って部屋まで新たに用意したが頗る不評だったのだ。

 そこにセナがすぐさま模様替えを指示し事なきを得た経緯があった。


「せめて半分位に…」


「お黙りなさいませ、今回は賓客などではなくこの国の主になるお方ですのよ。生半可な準備ではダメなのです!」


「「…はい…」」


 宰相、執事長そろってシュンとして小さく返事をした。


「あまりやり過ぎぬ様にな…」


 そう言うと二人は部屋の隅に移動した。


 香蓮が来る前日までセナは切り盛りし、宰相と執事長はげっそりとスリムになって香蓮をお迎え出来たという。

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