紅蓮小路焔子、守護隊部を仕切る

「き、気を取り落とし……いや失礼、気を取り直して……緋山さん?」

 ようやく焔子ほむらこも復活したらしいが、なにやらその動きにも先ほどまでの切れがない。


 四人の注目を浴び、黒髪を一本の三つ編みにまとめた女生徒は、手にしていた文庫本をテーブルに置き、分厚い眼鏡越しに彼らを見つめてきた。


「……ドーモ。ヒヤマ・ツユ、デス」

「オー? アナタもニンジャですカー?」

「忍者?」

 烈堂は首を傾げる。緋山つゆと名乗った目の前の少女の服装は、一般の女生徒のもの。

 それよりもまず、朱藤四乃舞と違って忍者と思しき強者の気配も感じられない。


「忍者ではござらん。その御仁ごじんはただのオタクでござる」

「ただの……オタク……?」

「……何か?」

「いや、俺やマゼンタが呼ばれたということは、何か荒事でもあるのかと思ったが、テレビの真似事でもする部だったのか?」


 烈堂の言葉が気にさわったか、つゆは不機嫌な表情で彼をにらむ。

「……それで、はこの部で何を?」

「いや、俺はまだ何も……」

「赤羽殿は、その筋では有名な退魔師の家の出でござるよ」

「退魔師! まさか実在したとは!」

 四乃舞の言葉を聞いたつゆは、それまでの間延びしたような口調から急に早口になる。


「それは実家の話だ。俺には関係ない」

 その豹変ぶりに戸惑う烈堂だったが、それよりも、と当初からの疑問を口にする。


「だからそもそも俺とマゼンタは、この部が何をするものかも聞かされていないぞ」

「コレ何ですカ~? ボンサイですカ~?」

 そこに割って入ったのは、のんきなマゼンタの声。


「っ!? さっきから静かだと思ったら、勝手に何だかわからんものをいじってるんじゃ……」

 見るとマゼンタは、壁際に飾られた木の枝のようなものを手に取っていた。


「手を離せ!」

 そこから発せられる妙な気配を感じ取り、烈堂は叫ぶ。

 間髪入れず烈堂はテーブルを飛び越え、マゼンタの元へ駆けた。


 だが、時すでに遅し。


 木の枝に見えたそれは蛇のようにうごめき、マゼンタの左手首に絡みつく。そして赤い光を発したかと思うや、金属のような質感の赤い腕輪に代わる。


「大丈夫でござる。呪われているわけでもあるまいし、外すのは容易でござるよ」

 慌ててマゼンタの腕輪を外そうとする烈堂を、四乃舞は止める。


「本当に危険なものならば、新入部員の手の届くようなところには置きはせぬ」

 そういった四乃舞の腕にも同じような腕輪があった。


「それはこの学園のシンボルでもある、桜の枝から作られたもの」

 そして、焔子とつゆにも。


「サクラですカ~? 何かオネガイがかなうとかいってましたネ~」

「その通り」

「それはどこの学校にもあるうわさ……ではないようだな」

 マゼンタに気を取られている間に、いつの間にか烈堂の腕にももう一本の枝が絡みつき、腕輪に変じていた。


「詳しくはおいおい説明いたしますが、あの樹には本当に、神秘の力が宿っておりますの」

 少しずつ色合いの異なる赤い腕輪が五つ、共鳴するかのように輝く。


「これは共に戦う同士のあかし。この五人が、この守護隊部のメンバーとなりますわ」


 それでは、と焔子は体のわりに未成熟と言ってよい胸を張る。

「このわたくし、紅蓮小路ぐれんこうじ焔子ほむらこが、この守護隊部の部長を務めさせていただきますわ」

「ちょっと待ってくれ」

「何ですの?」

「あんたの実力を疑うわけじゃないが、入学早々一年が部長なのか?」

「この部は現在、一年のみ。以前所属していた上級生は皆退部致したでござる」

「おい待て大丈夫かこの部活!?」

「話せば長くなるゆえ、その辺りもいずれ話すつもりでござったが……」


 いやそれより、と話題を変えるように四乃舞は声を上げる。

「閉鎖中の旧校舎の地下で、怪人が見つかったでござる」

「怪人?」

「怪人は怪人ですわ。実物を見てもらった方が早いですわね」

「春休みの間、時間が空いてしまったせいで、敵が妙な動きを始めたようでござる」

「おい、俺たちはともかく、この人は大丈夫なのか?」

 鍛えられているようには見えないつゆに視線を送りつつ、烈堂は焔子に問いかける。


「緋山さんには、その知識を生かし、アドバイザーとなっていただきます」

 焔子の答えに、つゆも大きくうなずいた。


「心配なようなら、赤羽殿が守ればいいでござるよ。拙者たちも居るでござるしな」

 しぶしぶながら、烈堂もうなずく。他の四人がいるならば、よほどのことがない限り……。


「さてそれでは……体験入部を兼ねて、怪人退治としゃれこみましょうか」

「……体験入部とは」

 

 そして、烈堂、四乃舞、マゼンタ、つゆの四人を従え、焔子は部室の扉を開く。

「新生守護隊部の初仕事、参りますわよ!」

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