後日譚216事なかれ主義者は大食いでもない

 オクタビアさんとファマリアを見て回った。視察というよりはこれはデートな気がする。

 午前中は町の子たちの様子を見るために町中を歩き回る予定だったけど、流石に時間がかかりすぎるので魔道具『浮遊台車』を押している子を適当に呼び止めて乗せてもらう事になった。


「一緒に乗りましょう」

「いや、たぶん乗れるけど狭くない?」

「大丈夫です。私は小柄ですから」

「そういう問題かなぁ」


 以前、ラオさんやルウさんと二人で乗った時があったのでできなくはないけど、それでもやっぱり快適とは言えないんじゃないかなぁ。

 いっその事、僕が浮遊台車を押してオクタビアさんを運ぶのもアリかなって思ったけれど、オクタビアさんには却下され、呼び止めた子には残念そうな顔をされたので二人で乗る事にした。


「では、駆け足程度の速さでお願いします」

「ハイッ!」


 背後から元気な返事がすると同時に僕たちが乗った浮遊台車が動き始めた。

 僕が背もたれのようなところにもたれていて、オクタビアさんは僕の足と足の間に座るようにピタッとくっついている。

 そしてオクタビアさんの膝の上にはレモンちゃんがいた。流石に肩車した状態だと浮遊台車を押してくれている子の背丈的に視界の邪魔だろうから退いてもらった。

 最初は僕が抱っこする感じで浮遊台車に乗ったんだけど、オクタビアさんがレモンちゃんを引き取って今の態勢になった。

 抗議の髪の毛うねうねをしていたレモンちゃんだったけど、浮遊台車から降りる時は定位置に戻すから、と言ったのを覚えているのか、それ以上の事は特に何もしなかった。

 しばらく全員無言で町の様子を見ていたんだけど、ふいに僕の後ろから声が聞こえた。


「ガ、ガイドはいりますカ?」

「ガイド?」


 振り返ると、浮遊台車を押してくれている子が随分と緊張している様子だった。アンジェラよりも年上……この世界基準で成人するくらいの歳に見える女の子だ。

 首にはごつい首輪が着けられているけど、ガリガリに痩せている感じはしないのでちゃんとご飯を食べているのだろう。

 服は町の子たちに支給されている真っ白なワンピースを着ていて、服には汚れ一つない。汚れてもいいように複数枚用意しておいたのをちゃんと使ってくれている様だった。

 僕と視線が合うと顔が真っ赤になったけれど「人を乗せる時はガイドをする時もあります!」とはっきりした口調で答えてくれた。人力車的な感じで町の外からやってきた人を乗せては町の説明をしているらしい。


「どうする?」

「えっと……それじゃあお願いしたいです」

「町の子たちの事を知りたいからそこら辺も含めて教えてくれると嬉しいな」

「分かりました! えっと、今いるのは北区です。ここは私たちが暮らしている建物がたくさん並んでいて、屋台は私たち向けの物が多いです。何かしら功績をあげた子は一人部屋も許されるらしいんですけど、結局寂しくて相部屋に戻る事が多いらしいです」

「皆でルームシェアって楽しそうだよね。ほら、学校の寮みたいな感じで」

「なるほど、学園物の寮生活をイメージすればいいんですね」

「それよりも快適かもしれないです。毎月、お小遣いが貰えますし、着る物は支給されて住む場所は無料、尚且つご飯はある程度食材が支給されますから」

「……エンジェリアですべてを真似をするのは難しいですね」

「食料に関してはそうだろうね。世界樹やドライアド、魔道具の影響とかいろんなものが影響を与えているのか作物ができるの早くってね。食べきれない量は町の子たちに卸してるし、転移門の利用料とかで各国から入ってくるお金が貯まりすぎるといけないだろうから足りない分の食料はそのお金で買ってもらってるんだ。お小遣いもその一環だね」

「なるほど。エンジェリアであれば、住む場所と服は真似できそうです。……他はどのような物があるんでしょうか?」


 オクタビアさんが尋ねると後ろから元気な声が返ってくる。


「特にありません! 『居住区』と呼ばれるくらい集合住宅ばかりです。屋台も私たち向けなので、その……シ、シズトさまたちをご満足させられるようなところはないかもしれません」

「そんな事ないと思うよ? ……でも、集合住宅と屋台くらいしかないし、最近人気の屋台だけ教えてもらって次に行く?」

「そうしましょう」

「分かりました! では、最近人気の所を巡る感じで行きます!」


 そう言って女の子が案内してくれた場所はどこも僕が食べた事がある場所だったので、念のため新しく出展された露店も案内してもらった。

 町の子たちが食べている物を知りたいだろうオクタビアさんに気を使って、気になる物は一緒に食べる……つもりだったけど、流石に毒見役とかいないと問題かな。

 そう思ってどうしたものかと悩んでいたらいつの間にかジュリウスがいて毒見をしてくれた。

 この世界にもあるんだぁ、なんて事を思いながら担々麺のような物を二人で分けて食べた後、再び浮遊台車に乗った。


「残りのものは余裕があったら食べようか」

「はい!」


 元気よく返事をしてくれたオクタビアさんには申し訳ないけれど、時間はあるけど胃袋の容量的に全て回る事は難しいだろうなぁ。

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