後日譚209.事なかれ主義者は堂々と答えた

 ラオさんとルウさんの実家に新年の挨拶をしに行った翌日はディアーヌさんとセシリアさんの実家に訪れた。お嫁さんたちの身分の事を考えると彼女たちの実家から行った方が良かったのかもしれないけれど、準備を整える必要があるからと後回しでいい、と言われていたからそうなった。

 滞在時間も他の家と比べると短い。いたのは一時間くらいだろうか? 昼食はセシリアさんの実家で食べて、夕食はディアーヌさんの所でいただいた。

 ドラゴニア家の来訪頻度が異常なだけなんだけど、ぶっちゃけセシリアさんとディアーヌさんのご両親と関わるのはほとんどなかった。これから増えていくんだろうか? と思いつつも緊張して食事を進めたんだけど当たり障りのない話しか出なかった。


「両親も緊張していたんだと思います。私の生家であるはディアーヌの家とは異なり、ドラザス家は先祖代々王家の専属侍女を輩出している家ではありませんから」

「セシリアさんはなんで選ばれたの?」

「王妃様と私の母が学生時代に仲が良かったそうです。当時は同じ家格の家柄でしたから分け隔てなく話す事ができたのに最近は会うのにも時間がかかると口癖のように話をしていました」

「じゃあ今度からは気軽に会えるんじゃない?」

「流石に王妃様のようにふらっと来る事はないと思いますよ」


 セシリアさんは二人っきりの時は割といろいろ話してくれるんだよなぁ、なんて事を思いつつ苦笑している彼女の顔を眺めていると、首を傾げられたので「なんでもない」と首を振った。


「じゃあやっぱりこっちから孫を見せに行った方が良いんじゃないかな? ご両親からは断られちゃったけど……」

「…………それをするのは少なくとも三歳以降ですね。ドラゴニアの貴族の間では子どもを実家に連れて行くのはある程度大きくなってから、というのが常識ですから」

「まあ、移動途中で熱を出したりしたら大変だもんね」

「会いたくなったら向こうから手紙が来ると思いますし、そこまで気にしなくても良いですよ」


 僕だけじゃなくて僕の子どもも運んでくれるらしいクーに頼んで転移魔法で移動するのもアリかなと思ったけれど、セシリアさんがそういうのならそうなんだろう。

 屋敷に戻った後にディアーヌさんに同じような事を聞いてみたけれど、彼女も同じ答えだった。


「いくら王家と親戚だからと言って、そんなホイホイやっては来ないですよ。転移陣や転移門が普及すればまた変わるかもしれませんが、あまり領地を離れる訳にも行きませんし、移動にも時間がかかりますから。ドラゴニアのあのお二方が孫煩悩なだけです」

「なるほど」


 サラッと他国の王族に対して辛辣な評価を下したんだけれど大丈夫だろうか?

 それともお嫁さんたちの中ではそういう共通認識なのだろうか? レヴィさんもリヴァイさんが来る度に「また来たのですわ」と呆れた様子で見ている事もあった気がする。

 交通網が発達して、移動がどんどん楽になって言ったらまた変わるんだろうけど、とりあえず孫を見せに行くタイミングに関してはお嫁さんたちに一任しよう。




 新年の挨拶として最後に訪れたのはエミリーの実家である。彼女は不作の時に口減らしのため自ら奴隷商に自分を売り込んだそうで、奴隷たちの中で実家に帰るという選択ができる唯一の女性だった。

 栄人も一歳になって歩き回るようになったし、ここら辺で一回顔を見せに帰ろうという事になった。

 ただ、身売りした際に何やら両親とあったようで、いつも隣に座るとブンブンと振られる真っ白な尻尾はピクリとも動かず、表情も硬かった。


「大丈夫?」

「はい、大丈夫です」


 端的に返されて話はそこで終わってしまう事を何度か繰り返していると、僕たちが乗っていた魔動車が止まった。どうやら村に着いたらしい。

 僕の肩の上にいて髪の毛をわさわさと動かしていたレモンちゃんの髪の毛を掴もうと手を伸ばしていた栄人を抱き上げ、最初に僕が降りた。

 周囲は畑が広がっている小さな村だった。村人っぽい狐耳の人たちがこちらの様子を遠巻きに見ている。魔動車の事を警戒しているのか、それともいきなり現れた僕たちの事を警戒しているのか……どっちもかな。


「ジュリウスもついて来るんだよね?」

「はい。魔動車はジュリエッタに任せます」

「お任せください!」


 助手席に座っていたジュリエッタというエルフの女性が姿勢を正して返事をした。ジュリウスがそう判断したという事は、この小さな村には彼女よりも強い者はいないと判断したんだろう。

 そんな事を考えていると、村の方から獣人族の子どもたちが恐る恐る近づいて来ていた。モフモフな子もいれば、そうじゃない子もいる。狐人族以外の人もいるんだなぁ、なんて事を考えていると、近づいて来ていた子どもの一人が何かに気付いた様子で急に接近すると、僕の体をフンフンフンッと鼻を鳴らしながら嗅ぎ始めた。

 止めようとしていたジュリウスを制止してされるがまま、ぴこぴこ動いている真っ白な耳を見ていると少年が顔を上げた。


「お前、姉ちゃんとどういう関係だ?」

「夫婦だよ」

「エドガス! 初対面の人になんて口の利き方をするの!」


 僕が答えるのと同時に魔動車の扉が勢いよく開かれて、エミリーが大きな声で少年を叱った。

 エドガスと呼ばれた狐人族の少年は目を丸くしてエミリーを見た。尻尾もボワッと膨らんでいる。どっちに対して驚いたんだろうか? 分からないけどとりあえずレモンちゃんにくすぐったいから髪の毛をわさわさしないように注意した。

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