後日譚208.事なかれ主義者は小食ではない

 一月二日以降はお嫁さんたちの里帰りについて行った。里帰りできる人の所だけだったけど、元奴隷組は奴隷になった経緯が経緯だから里帰りしないという人もいたので、一週間くらいで何とかなった。

 一番最初にお邪魔したのはもちろん一番長い付き合いのドラゴニア家だ。転移陣で行ったら王城内に直接設置されていて警備が心配になったけれど、それ以外は特にトラブルはなかった。パールさんの指導のおかげか、立ち振る舞いに問題がなかったからだと思いたいけれど、実際は僕の顔が知れ渡っている事と、世界樹の使徒だけが着る事を許されている真っ白な布地に金色の糸で蔦が刺繍されている服を着ているから余計なトラブルは起こさないようにしているだけだと思う。

 基本的に王城を訪れている貴族同士は、目上の者から話しかけられない限りは話しかけてはいけない、という暗黙の了解もあって、僕が一人で廊下を彷徨っていても縁談の申し込みをされる事はなかった。

 道を尋ねる時もそういう話が出なかったのは警備をしている兵士さんや、仕事をしている侍女に話しかけたからだろう。

 ただ、緊急の用件であれば話しかけても仕方がない、という事になっているので油断は禁物だとパールさんに言われた。


「中にはその例外を拡大解釈して話しかける愚か者もいるわ。我が国ではそういう輩は少ないけれど、いないと断言はできないわね」

「気をつけます」


 パールさんはレヴィさんの母親だけど、彼女と似ているのは髪型くらいだ。背もスラッと高く、顔立ちは凛々しい感じ。ただ、その整った顔立ちも今はクシャッと歪んでいて、リヴァイさんをきつい眼差しで見ている。

 先程行われたジャンケンの勝者であるリヴァイさんはレヴィさんの父親で、抱っこしている育生の祖父に当たる人物だった。金色碧眼はドラゴニア王家の血筋に現れる外見的特徴で、レヴィさんも同じ色だった。また、優しい眼差しの目元も似てるような気もした。


「貴方、そろそろ時間じゃなくって?」

「いや、流石に早すぎるだろ」

「そんな事はないわ。砂時計の砂が全て落ち切っているのが見えないのかしら?」

「落ち切っているというか、お前が握りつぶして床にぶちまけられているんだが……」


 パールさんは度々力業で解決しようとする節があるなぁ、なんて事を思いながらレヴィさんと一緒に夕食まで一緒に食べて屋敷に帰った。




 育生の世話やら抱っこやらをするために度々祖父母がバトルする様子を眺めながらのんびりと過ごした翌日は、ラオさんとルウさんの故郷である村へと里帰りをした。

 こちらでは僕の事はあまり知られていないので、変装して普段着ない冒険者っぽい恰好で過ごした。

 蘭加と静流はたまーにラオさんとルウさんがこちらにも連れてきているようで、ドフリックさんに作ってもらったベビーカーに乗せてのんびりと歩いていても特に注目を集める事もない。

 僕は殆どこっちに来ないから物珍しげに見てくるけど、会釈する程度の間柄にはなれたと思う。

 祖父母に当たるロイさんとシアさんとはまだ距離感はつかみきれていない。そもそもあんまり合わないから名前をすっかり忘れていた。その結果セシリアさんの子どもとシアさんの名前が一緒になってしまって紛らわしい。

 セシリアさんをはじめ、他のお嫁さんたちにも意見を聞いてみたけれど、親から名前を一部だけ借りると名前が一緒になる事はたまにある事なので気にする事はないと言われたけど、やっぱり気になるものは気になる。

 ……ただまあ、今更気にしたところで名前を変えるという発想にならないから気にしすぎても仕方がないだろう。精々『シアちゃん』と呼ばないように気を付ける事くらいだろうか?


「ただいま~」

「おかえりなさい。時間ぴったりね」

「まあ、お城と比べたら迷う要素が少ないからね」


 出迎えてくれたルウさんに言葉を返しながら、ベビーカーから静流と蘭加を下ろした。静流は母であるルウさんによちよちと歩いて行ってくっついたけれど、蘭加は下ろされてすぐに僕の足にしがみ付いてきたのでそのまま持ち上げて抱っこして家の奥へ進んだ。

 リビングとして使われている部屋に入ると、シアさんがのんびりと紅茶を飲んでいたけれど、鋭い目を僕に向けて来た。


「……アンタは城にも行った事があるのかい?」

「えっと、何度か機会があっていきました」

「そうかい。……まあ、異世界転移者様だからそのくらいはあるか」


 スッと視線がそらされたので一息ついて、蘭加を抱っこしたままのんびりと魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんの隣の椅子に腰かけた。

 台所にいたロイさんと、手伝いに戻ったルウさんがたくさん盛られたご飯を協力して運んでくる。僕の前に置かれたのは他の人と比べると幾分か少なかったけれど、これでも普段よりも多い。

 チラッとラオさんに視線を向けると「無理すんな」と言われた。どうやら余ったら食べてくれるらしい。

 前回、残すのは心証が良くないだろう、と思って無理して食べていたのは見透かされているようだ。

 結局、七割ほど食べたらあとは隣で蘭加の食事の世話をしていたラオさんに食べてもらう事になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る