後日譚207.事なかれ主義者はなかなか勝てない

 初詣を終えた後は家族とのんびりと過ごした。赤ちゃんたちのお世話もあったけれど、空いた時間はパメラを筆頭に、正月遊びにも興じた。もちろん勇者たちが伝えたものだ。実際にやった事がない物もあったから、過去の勇者たちはよくこういうのを覚えていたなと思う。

 室内で出来る遊びは二階の和室でした事もあり、ドライアドたちも遊びに参加していたし、パメラがどこからか連れてきたアンジェラやリーヴィアも加わった。他のお嫁さんたちは赤ちゃんと遊んだりあやしたりしながらその様子を見て笑っていた。


「三人共、ずるしてない?」

「してないデスよ」

「持てる力を使っただけよ。そうよね、アンジェラ」

「んー、まあ、そうだね?」

「これだと僕だけが変な顔作って笑われただけじゃん!」


 福笑いなら身体能力は関係ないと思っていたけれど、魔法が使える人が有利なのは変わらなかった。魔力探知を使えば大体どこに何があるか分かるらしいし、それを使ったんだろう。たぶん。

 そういうわけで、外にいたジュリウスを呼び寄せて、魔力探知を使わないように見張ってもらって三人には再チャレンジしてもらったけれど、アンジェラだけはやっぱり性格に物を置いていた。


「ジュリウス、ほんとにアンジェラは魔力探知を使ってないの?」

「はい、魔力を微塵も放出しておりませんから間違いないでしょう」

「どうやってるデスか? 実は見えてるデスか?」

「そんな事ないよ。ただ場所を覚えてるだけだよ」

「なるほど」


 アンジェラには再度目隠しをしてもらって、顔の輪郭だけを描いた板をせっせと動かした。その後、わざとさかさまになるようにアンジェラを抱っこして運んだんだけれど、彼女はそれでも正確にパーツを置き切った。解せぬ。

 危ないかもしれないからと外に出て独楽で遊んだ時はパメラがどこからともなくジューロちゃんを運んできた。小柄なパメラだけど、ジューロちゃんもエルフの中ではとても小柄な方だ。まだ子どもだと思われても仕方ない体格をしているけれど、成人はしているらしい。

 彼女は『回転』の魔法を専門で研究していて、魔道具『魔動独楽』の制作者でもある。未だに僕が加護で作った独楽には勝てないという事で日夜研究を重ねている彼女だったが、魔道具化しなくても駒を回すのは上手いらしい。


「魔法は無しだよ……?」

「はい、使ってません」

「回すのにコツとかありますか……?」

「? 分かんないです」


 初対面の時はおどおどしていてお話もスムーズにできなかった彼女は、何回もパメラ経由で関わる内に普通に接してくれるようになった。

 それは嬉しい事だけど、独楽を回すのに慣れていない僕は日常的に独楽を回していると言っていたジューロちゃんに勝てる訳もなく、それに付き合っている他の三人にも勝てなかった。唯一勝てたのはいつの間にか遊びに混じっていたジュリーニくらいだろうか?


「ジュリウスに何か言われてない?」

「いや、別に何も言われてないよ」


 ジッと見つめると目を逸らされた。怪しいけれど、追及しても僕も彼も幸せにはならないだろうから考えるのを止めた。

 めんこと羽根つきは勝てるわけがない。羽根つきの時は魔法禁止だったらリーヴィアには勝てたけど、魔法有りだと誰にも勝てなかった。めんこは小さい組がコツを掴むのが早く、魔法禁止でもダメだった。


「スタートラインはおんなじはずなんだけどなぁ」

「シズト様もこれから一緒に毎日遊ぶデスよ!」

「いやぁ、三が日の間は仕事は入れてないけど、それ以降は『天気祈願』をして回らないといけないから」


 なんて言いつつも、悔しいので来年に向けて隠れて練習をしようと目論んでいる事は内緒だ。他国でやればバレないだろう。

 遊び終わった物を片付けずに次々遊んでいたらいつの間にかドライアドたちが遊んでいた。そして、その様子を事細かにスケッチしている人もいた。金髪碧眼の美少女だ。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 新年の挨拶をしたらその少女は立ち上がって綺麗な礼をしてくれたが、すぐにしゃがみ込んでスケッチに戻った。その近くではドライアドがジーッと彼女の手元を見ている。


「ラピスさんは年始も研究?」

「はい。この時期は学校はやっていませんから、街の治安はドタウィッチ出身の風紀委員が見る事になってます。他国出身の者は私のように実家に帰る生徒が今年は多いですね。転移門を作ってくださったシズト様のおかげです」

「あー、そういう使い方もあるのか」


 新幹線のようにとても混雑しているんだろうか? まあ、開いている間は魔力の消費が大きいけれど、一度開いてしまえば魔石の魔力が切れるか、魔力供給を止めない限りは繋がったままだから新幹線以上に移動はスムーズかもしれない。

 なんてちょっと思考が脱線している間にもラピスさんはスケッチを続けていた。独楽を回そうとしているドライアドの様子だった。なぜか自分たちに紐を巻き付けている子もいるし、弾かれた独楽をキャッチしようとスタンバっている子もいた。


「ラピスさんは実家で過ごさないの?」

「まとまったフィールドワークをできる機会を逃すわけにはいきませんから」

「なるほど……」


 彼女が良いならそれでいいのかな、なんて事を思いつつパメラに凧揚げをしようと誘われたので遊びに戻るのだった。

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