後日譚198.事なかれ主義者は座ればよかったと後悔した

「ちっちゃい人間さん増えたね~」

「ねー」

「もん」

「こっちの子はハーフエルフさんだねー」

「ねー」

「れも」


 僕に引っ付いた子たちが首を伸ばして新しい子たちを見る。

 予定よりも少し早く出産する事になったディアーヌさんは母子ともに無事で出産を終える事ができた。

 セシリアさんは予定時刻ぴったりに出産する事になり、子どもはセシリアさんと同じく知識の神様から【風魔法】の加護を授かっていた。

 それから数日後には予定日ではなかったけれどジューンさんが産気づいてそのまま出産した。予定日よりもそこそこ早かったけれど出産も司っていた大地の神様に寄進をしっかりとしていたからか、特にトラブルはなかった。他の子よりもちょっと小さいかな? と感じるくらいだけど、それがエルフと人間の間に生まれたからかは分からない。

 この子たちはまだ和室デビューには早いので、僕に引っ付いている子たちしか間近で見る事は出来ないんだけど……窓の外から覗いてくるドライアドたちの圧がやばいのでカーテンでも閉めておいてもらおう。

 何やら抗議しているようだけど、残念ながら室内は魔道具で音を遮る結界を張ってあるから何も聞こえないっすわー。

 カーテンを閉めたところで背後の扉がゆっくりと開く音がした。入ってきたのはレヴィさんだった。


「何をしているのですわ?」

「いや、ちょっとね」


 首を傾げて不思議そうに僕を見てきたレヴィさんだったけれど、すぐに興味が赤ちゃんたちに移ったらしい。

 ただ、残念ながら赤ちゃんたちは全員健やかに眠っている。


「タイミングが悪かったのですわ」

「そのうち目を覚ますよ」

「そうですわね」


 小声でやり取りをしながら僕も赤ちゃんたちが眠っているベビーベッドを見て回る。どの子も外見的特徴が全く違うから間違える事はなさそうだ。

 セシリアさんとの間に生まれたのは女の子だったから紫亜と名付けた。安直だったかな? と思わなくもない。肌が白く、美人さんになりそうな雰囲気がある。

 ディアーヌさんとの間に生まれた子の名前は健斗にした。出産の際にちょっとしたトラブルがあったので、健やかに育ってほしいからそう名付けた。ディアーヌさんに名前を入れる事ができなくて申し訳ないと謝ったけれど、文字の一部を授けるのは重要じゃないらしい。肌の色はディアーヌさんに似て褐色だった。

 ジューンさんとの間に生まれた子も男の子だったけれど、早く産まれたからか他の子よりも少し小さい様な気がする。大きく育ってほしいから大樹と名付けだ。エルフ特有の肌の白さと細長く尖った耳だけど、ドライアドたちの反応から間違いなくハーフエルフらしい。寿命とか心配な所はあるけれど、大きく育ってくれれば一先ずそれでいいや。




 子どもたちの事は任せてレヴィさんと一緒に和室に移動するとそこには一歳の誕生日を迎えた子たちが思い思いに過ごしていた。

 新品のベビーリュックを背負っているのは今日が誕生日の龍斗だ。金色の髪に青い瞳の彼は、ボーッとしているからドライアドたちがその様子をジーッと見ている。


「育生は相変わらず食べ物に目がないねぇ」

「ドライアドたちも楽しそうなのですわ~。ただ、イクオ以外も食べ物で釣れる、って思っているみたいなのですわ」

「ああ、だから龍斗の周りの子たちがいろんな収穫物を持っているのか」


 イクオに取られないようにするためか、髪の毛で作物を持ったドライアドたちは高々をそれを掲げている。それをボーッと見上げている龍斗と、食べ物に釣られて手を伸ばしている育生。

 少し離れた所に視線を移すと、そこでは髪の毛をわさわさしているドライアドの髪の毛を掴もうとしている真の姿があった。栗毛色の尻尾はブンブンと振られていてとても楽しそうだ。

 彼女の近くにはシンシーラが座っているけど、若干困った様子なのはシンシーラの前で同じように髪の毛をわさわさしているドライアドが一定数いるからだろうか。真は人族と狼人族のハーフなはずだけど、同一とみなされているのかもしれない。そうなると獣人の血が色濃く出ているのかも? いや、でもドライアドのする事だしな……うーん、分からん。


「マンマ!」

「はいはい、パパですよー」


 トテテテッと駆けてきて僕の足にしがみ付いて来たのは数少ない黒髪黒目の持ち主である蘭加だ。

 人見知りが激しいけど僕とラオさんはしっかりと認識していて、部屋に入ってくると真っ先に突撃――ではなく、くっついてくる。

 僕が抱っこしようとしゃがんだところで、お腹と背中にくっついていたドライアドたちが離れて行った。気を利かせてくれたんだろうか? レモンちゃんは降りる気配がないけど、気は聞かせてくれないかな?


「レモンちゃんも降りてくれると嬉しいんだけどなぁ……はい、分かりました。よっこいしょっと」


 髪の毛が巻きついてきたので降りる意思はないようだ。

 蘭加を抱っこしてのんびりと魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんの方へと向かう。

 ラオさんは畳の上で横になっていて、その体にたくさんのドライアドたちが集まっていた。

 ああ、だから蘭加はこっちに来たのか。


「ラオさん、なんでそんな事になってんの?」

「アタシが聞きてぇわ」


 されるがままになっている所を見ると嫌ではなさそうなので、とりあえずラオさんの隣に腰かけ……用としたけどやめた。ジーッと僕の方を見ているドライアドに気付いたからだ。

 彼女たちの中では横になっている人や座っている人にはくっついてもいい、という謎の遊びが流行っているのかもしれない。

 結局、立っていてもその内よじ登り始める子がいたのでどっちでも変わらなかったかも、なんて事を思いながらリュックデビューの龍斗の様子を見守るのだった。

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