後日譚199.事なかれ主義者たちはスルーした
紫亜、健斗、大樹の三人が生まれた事により十一月から十二月にかけて誕生日フィーバーになってしまった。子沢山だと大変なんだなぁ、なんて事を思いつつ日々の生活に追われているとあっという間に一カ月くらい過ぎて、年の瀬になった。
こっちの世界にも『クリスマス』という概念は存在するらしい。こっちにはキリスト教なんてないのに、なんて思っていたら勇者が伝えていたそうだ。
ホワイトクリスマスっていいよね、って漠然と思っていたからファマリア周辺に雪を降らせようと思っていたけれど、外に出て思い直した。
世界樹の魔力のおかげで天候が安定しているらしいけど、雪を降らせるためはグッと気温を下げなくちゃいけない。そうなると寒さに強くない作物がダメージを負うのは目に見えているし、植物に近い存在であるドライアドたちがどういう風になるか分からないから。
それに、クリスマスの行事は特定の貴族の家でしか広まっていないらしい。主に勇者の子孫の家で、行事として盛大にするようにと言われているからやっているそうだけど……どこまでしっかりしているんだろう? ちょっと気になる。
そんなどうでもいい事を考えていると、廊下の奥の方からレヴィさんの声が聞こえてきた。
「シズト~。こっちは一通り拭いたのですわ~。そっちはどうですわ~?」
「あとちょっとだよ~」
考え事をしつつもせっせと窓を拭くのは続けていたし、窓の向こう側のドライアドたちも頑張ってくれているので向こう側もすぐに終わるだろう。
年の瀬にする事と言えば大掃除だろう、という事で子育てをローテーションしながら取り組みつつ、空いた人たちで掃除をする事にした。
魔道具『埃吸い吸い箱』のおかげで廊下や部屋には埃一つ落ちていないけれど、念のため拭き掃除が終わったら掃き掃除をする予定だ。
レモンちゃんに手伝ってもらいながら大きな窓をせっせと吹いていると、ジューンさんが階段を上がってきた。
エルフらしからぬ女性らしい体つきの彼女は、今日は大掃除の日だからと張り切って孤児院で着ていた服を着ていた。汚れてもいい服だそうだけど、修道服が大きなお胸やらお尻やらで扇情的な感じになっていて目のやり場に困る。
そっと目を逸らしながらより一層熱心に窓を磨いていると、ジューンさんが近くまで歩いてきた。
「お手伝いしますぅ」
「有難いけど体調大丈夫?」
「もう何ともありませんよぉ」
「そう。ならお願いしようかな」
産後一ヵ月くらいしか経っていないから心配だけど、今までのお嫁さんたちの事を思い返すと過度に心配するのも良くないだろう、という事でジューンさんにも手伝ってもらった。
ジューンさんは慣れた様子で精霊魔法を使って雑巾を巧みに操り、窓を一気に拭いて行く。
「やっぱ精霊魔法って便利だねぇ」
「こういう風に使うのは私くらいですけどねぇ」
ドライアドたちがジューンさんに張り合っているのかせっせと窓を拭く様子を眺めながらも、いつのまにか僕も釣られて窓を拭く速度が上がっていた。
みんなでやるとあっという間に掃除は終わってしまったので、自分の持ち物の整理をする事になった。
整理と言ってもアイテムバッグになんでもかんでもとりあえず入れておいたので、部屋が散らかっているとかはないんだけど、共有のアイテムバッグにいつの物か分からない物がたくさんあるからいらない物は捨てる事にした。
「木材やら金属はもう要らねぇんじゃねぇか?」
一人ではあれもこれも必要だと判断して結局整理できないだろう、と思われたのかラオさんが一緒にしてくれている。
大掃除中もいつものタンクトップにホットパンツという姿だった。季節感がない恰好だけど、世界樹の周りは大体そんな物だ。っていうか、ドラゴニアもあんまり四季はなかったような気がする。四季を楽しむならやはり日本連合に――。
「おい、聞いてんのか?」
「はい、聞いてます」
ジロリと赤い目で睨まれたので背筋を伸ばして答える。木材やら金属は以前授かっていた『加工』の加護をいつでも使えるようにストックしてもらっていた物だ。
「蘭加が大きくなったら使うだろうから取っておこうかなって」
「必要になった時に集めりゃいいだろ」
「そうだけど……」
「一気に市場に出すと価格が変動してしまうわね」
言葉を濁した僕に援護射撃をしてくれたのはランチェッタさんだ。ラオさんと比べるととても小柄だけど、ある一部分だけは彼女よりも大きい。
女王様ともなると年末年始だろうと王城で仕事があるそうだけど、最近は任せる事ができる部下が増えたおかげでこっちで過ごす時間が増えているそうだ。
そういうわけで、ラオさんと一緒にアイテムバッグの中の整理を手伝ってくれている。必要ないと判断された物をどう売るかを考えてくれるらしい。
「それならやっぱり――」
「でも、幸いな事に転移門のおかげで売る場所はいくらでもあるわ。それに、シズトが使っていた物だって付加価値をつければ高く売れるでしょうね」
にやりと悪い笑みを浮かべながら不気味な笑い声をあげるランチェッタさんを見て、ラオさんと僕は何も言わずに鉄と木材を売却用のアイテムバッグの中に移すのだった。
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