後日譚192.事なかれ主義者は丸かじりはしない
チャム様の教会は他の三柱の教会と比べると普通だ。
アダマンタイトでメッキ加工した教会や、魔道具マシマシの教会のような誰が見ても特徴のある教会じゃないし、見る人が見ればすぐに気づくという世界樹の素材で建てられてもいないいたって普通の教会だ。
チャム様から授かった加護が生産系じゃなかったから仕方がないし、少し前に祈り中に話しかけてきたチャム様が「別にどうでもいい」っていってたしあんまり気にする事ではない……のかな?
そんな事を考えながら神父としてお話をしてくれているアッシュを一番前の席に座って聞いていると、隣に座らせたレモンちゃんがそわそわし始めたので頭を撫でて抑えておく。
教会の中はアッシュの話を聞きに来た子たちでいっぱいになっていて、立ち見客がいるほどだ。
普段はこんなに人がいないという事らしいので、改めて自分の影響力って大きいんだなぁ、なんて事を思った。
「それではシズト様。こちらへお越しください」
「分かった」
僕が立ち上がるとすかさず僕の体をよじ登ってレモンちゃんが肩の上に陣取った。雄たけびを上げないからまあ良しとしよう。
アッシュからは特に何か話をしてほしいとは言われていないのでいつも通り神様の像を見上げるのに最適な場所で跪いて手を合わせる。両目を瞑り、静かにチャム様に対する感謝と共に祈りを捧げた。
このくらいでいいかな? と片目を開けてアッシュを見ると彼は何も言わなかった。
僕はゆっくりと立ち上がって再び席に座る。アッシュの締めの挨拶が終わればとりあえずここでやるべき事は終わりだ。
次は西区にあるエント様の教会で祈りを捧げる予定だけど……まだちょっと早いしまた町をぶらぶらしようかな。
アッシュと一時的に分かれて僕はレモンちゃんを肩に乗せたままチャム様の教会を後にした。
一緒にお祈りをした人たちの視線を感じなくもないけれど、そちらに見てもキャーキャー言われるだけなのは分かっているので、教会の前に置いておいた浮遊台車に乗って世界樹を中心に反時計回りに移動をした。
居住区を抜けると研修区画に入った。研修所を中心に、いろいろな仕事について学ぶ事ができるようにと拡張が続けられて小さな区画になるくらいには様々な施設が建ち並んでいる。
でも今回は特に用件はないし、研修の邪魔をしても行けないので素通りした。
研修区画を抜けると宿屋や飲食店が多い商業区に入った。他の区画にも食事を提供しているお店はあるけれど、ここは外から来た人用に出店する事を許可された商人が間借りした一室でお店を開いている。露天商も食事というよりは各地から運ばれてきた珍しい物を並べている所が多い。
宝飾品や衣服などもたまにあるのでついつい何が売っているのか気になって見たけれど、これと言って欲しい物はなかった。そもそも目利きじゃないし、変な曰く付きの品物を買う可能性もある。下手に手を出さない方が良いだろう。
「レモモ! レモンレモン!!」
「ん? なんか気になる物でもあった? って、レモンか」
ドライアドたちとレヴィさんが協力してたくさん作った作物の多くは子どもたちが消費してくれているけれど、その一部は市場にも出回っている。店舗を構えている商人さんだし、もしかしたらアレはレモンちゃんがいつも世話をしているレモンかもしれない。
わざわざそれを買い戻すのはどうなんだろう、と思わなくもないけれど、レモンちゃんが肩の上で騒ぐのでとりあえず買った。一個でいいかなって思ったけど騒ぐので結局全部買った。
「レモン!」
「丸かじりは無理だよ」
「れもも?」
「無理ったら無理」
そんなやり取りをしつつも、そろそろ時間なので教会を目指す。
迷う事なく辿り着いたその教会には既に多くの町の子たちが集まっていた。集まっているのは今日がお休みの子だろう。暇を持て余していて、抽選に落ちてしまったけどとりあえず姿だけ見よう、と思ったのかもしれない。とりあえず愛想よく手を振り返して置いた。
エント様の教会は以前、魔力に反応して開くようにしていたのでわざわざ自分で扉を開ける必要もない。
室内は静寂に包まれていて、チャム様の教会同様に長椅子は最前列の一つを除きすべて埋まっていて、立ち見の子もたくさんいる。
神様の像を背に、アッシュが既にいて待っていたので足早に空いていた長椅子を目指す。
「後ろの子が見えないといけないからここでも降りてね」
「れーもれももー」
「いや、なんて言ってるか分かんないわ」
長椅子に腰かけた僕の肩の上からレモンちゃんがするすると降りて、膝の上に乗ろうとしたのでひょいっと持ち上げて隣に座らせた。
チャム様の教会の時は何やら文句を言っていたレモンちゃんだけど、さっき買ったレモンを渡したら静かになった。今度からはレモンを常備しておくのもいいかもしれない。なんて事を思いつつ口元に押し付けてくるレモンを丁重にお断りしておいた。
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