後日譚180.事なかれ主義者は大人しく従った

 町の子たちの受け入れの話はとんとん拍子に進んでいった。

 問題はどうやってファマリアから各国に派遣するか、という点だったけど、町の子たち用の転移陣を設置するスペースにドランと繋がる予備の転移陣を置く事になった。

 ジューンさん、セシリアさん、ディアーヌさんの三人が妊娠中だし、そろそろお外デビューを考えている子どもたちの事を考えるとまだファマリーの根元近辺は立ち入り禁止にしておきたいから。

 離れ小島のダンジョンと、別荘がある島に繋がる転移陣の二つを先に置いていて警備体制もばっちりだったので問題は特に起きていないらしい。

 ただ、ちょっと心配だから『天気祈願』の加護を使う仕事が終わってから町を見て回る事にした。

 同行者はすくすくと成長中のアンジェラと、暇を持て余して勝手について来たパメラの二人と肩の上のレモンちゃん、背中とお腹にそれぞれくっついたドライアドたちの五人だ。

 リーヴィアは何やらやる事があるからとついて来なかったし、クーに関してはアンジェラがいない内に惰眠を貪るつもりらしい。……レモンちゃんに先に肩の上を占拠されていたから拗ねてしまったのかもしれない。


「……アンジェラって何歳だっけ?」

「今年で9歳だよ」


 舌足らずだったはずの喋り方も流暢になっているし、大人びた雰囲気もある。

 頭は僕の腰くらいにあった気がしたのに、今ではもう肩くらいまである。クーと同じくらいだと思ってたのに……。っていうか、9歳ってこのくらい身長あるのか? アンジェラが大きい方なのか?


「シズト様、どうしたの?」

「いや、子どもの成長って早いなぁって」

「そうかなぁ。わたしはもっと早く大きくなりたいんだけど」

「なんで?」

「そうしたらもっとできる事が増えるでしょ?」


 アンジェラは一体どこを目指しているんだろうか。

 病弱で小さかった女の子というイメージだったけど、今ではもう活発な少女という感じだ。

 ピンク色の髪は動きやすいように後ろで一つに結っていて、元気に揺れている。

 服は可愛らしい感じじゃなくて、駆け出し冒険者が着るような革製の防具を身に着けていた。どうやら僕の護衛のつもりでついて来ているようだ。

 子どもはそんな事しなくていいんだよ、なんて事を思いながらパメラがねだった屋台の食べ物を買って、ついでにアンジェラにあげる。


「僕一人じゃすべてを食べて回るのって難しいから協力してくれる?」

「うん!」


 ニッコリ笑顔で返事をする様子を見るとまだまだ子どもなんだよなぁ、とは思うけれど、食べ終わったら仕事モードに戻るのか、真ん丸の可愛らしい目で周囲を警戒している様子だ。

 ジュリウスから『身体強化』をはじめとした魔法を一通り習っているらしいし、ラオさんたちからは格闘術を教わっているから武器を身に着けてなくても大丈夫なんだろうけど……うん。やっぱり小さな子に守られるんじゃなくて僕も守らないといかんよね。

 でも、『天気祈願』でできるのって周囲への影響が大きすぎるんだよなぁ。雷落としたらやばいのはわかるし、雹を降らせたら大惨事だし、突風や竜巻も……うん。局所的に出せるようにコントロールするべきかなぁ。

 どうしたものか、なんて事を考えながら町を歩いていたけれど、本来の護衛役であるはずのパメラが自由に飛び回るのでおちおち考えてもいられなかった。




 町の子たちはドラゴニアやガレオールを中心に派遣されたけれど、暇な時は自由に転移陣を使って戻ってきていいと言われているからか、町を行き交う子たちの人数はそこまで変わっていない気がする。

 町で働き続けている子たちは露天商の手伝いや宿屋の運営などを頑張っているようで活気もあった。

 また、王侯貴族やら商人、その護衛の冒険者がわらわらと集まってくるので普段よりも人通りが多い。

 前世のお祭りみたいな人ごみで懐かしいなぁ、なんて思っていたらいつの間にか僕たちの進行方向にいた人々が左右に分かれて道を開けるようになっていた。

 率先して交通整理しているのはアンジェラだ。


「道を開けてくださーい」

「アンジェラさんアンジェラさん」

「ん? なぁに?」

「そういうのはしなくていいんで」

「なんで?」

「いや、ほら……皆祭りを楽しみに来ているわけだし邪魔しちゃよくないでしょ?」

「邪魔だなんて思ってないと思うよ。だってこのお祭りの主役はシズト様だもん。ほら、シズト様を見て手を合わせてる人もいるし……」

「エルフでしょ?」


 って思ってみたけれど違った。エルフも拝んでくるけど、奴隷の証である首輪を着けた子たちの内の数人が手を合わせて僕を拝んでいる。


「それに、人ごみの中から刺客が襲ってくるかもしれないでしょ? 護衛として、安全を確保しなくちゃいけないからこのくらいは我慢して? ね?」

「…………はい」


 アンジェラは「よし」といい笑顔で言うと再び「道を開けてくださーい」と言いながらパメラが飛んで行ってしまった方へ歩き始める。

 っていうか本来の護衛役であるパメラは仕事しろ。なんて、思ってもない事を呟きつつドライアドたちを引っ付けながら後を追うのだった。

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