後日譚181.事なかれ主義者は目を逸らした
あっという間に一週間が過ぎて言ったけれど、見回りをしている限りでは大きなトラブルは起きていなかった。たくさんやってくる来訪者たち用に住処を一時的に明け渡してくれた町の子たちのおかげだ。
自分たちの部屋に見知らぬ人が泊まるから心配だろうけど、泊まった後は元通りにするようにお願いしておいたのできっと大丈夫だろう。……大丈夫じゃなかったらその時考えよう。
前回の生誕祭と同じく、真っ白な布地に金色の糸で裾から胸元よりも上まで蔦のような刺繍がされているエルフたちの正装を着て、でっかい神輿のような物に乗っている。
前回と違うのは神輿がパワーアップしている事だろうか?
別館でひたすら『回転』の魔道具を試行錯誤しながら改良していたジューロちゃのおかげか、そこそこのスピードで進む事ができるようになっていた。ただ、パレードなのでそんなに速く移動しないみたいだけど。
「これも慣れるものなのかなぁ」
一人ぼっちで神輿に乗り、愛想よく町の子たちに向けて手を振る。
去年はぎこちなかっただろうけど、パールさんに姿勢やら表情やらをご指導いただいたので、ある程度気持ちに余裕をもって行う事ができた。
前回と同じく、普段魔動トロッコが走っている所をぐるりと一周した後は、円形闘技場へと神輿が進む。
神輿のすぐ近くにはこの魔道具の制作者であるジューロちゃんがいた。万が一の時に備えている、というのは建前で、彼女が作っているという事をアピールしてもいいんじゃないか、という意見があったから護衛に混じって同行してもらっている。
アンジェラと違って彼女は既にもう成長期が終わってしまっているけれど、子どものエルフと見間違えるくらいには背が低い。ジューンさんとはだいぶ違うけど、平均から逸脱しているという点に関しては同じだ。
ただ、ジューンさんとは違って差別を受けていたのはほんの十数年くらいだそうだ。それまではちょっと成長が遅いな、くらいにしか思われていなかったし、本人も思っていなかったそうだ。
僕の視線に気づいたのか、僕を見上げた彼女は遠慮がちに手を振ったので手を振り返した。
神輿のような物から降りたら当たり前のように肩の上に陣取ったレモンちゃんを乗っけたまま円形闘技場に入った。
案内されたのは一番見晴らしのいい席だ。舞台だけではなく、観客席も一望できるけれど正直遠くて見辛い。加護を失う前に作っておいた『魔動カメラ』と『魔動投影機』のおかげでスクリーンに写されている部分はよく見えるけど……うん。どうせ見るなら近い方が良かったかも。
なんて事を考えていると、僕の隣の席に煌びやかなドレスを着た女性が座った。金色に輝くツインドリルと、規格外の大きさに育った胸が目立つその女性の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。僕の正妻である彼女が今日は隣に座るようだ。
「楽しみなのですわ~」
「れもれも~」
言動は普段と変わらないのでちょっと安心する。
今日行われるのは死人さえ出さなければ何でもありの国際大会だ。各国からそれぞれエントリーを募ったけれど、優勝賞品が世界樹関係の物だったからか応募が殺到した。
予選を各大陸でしてもらったので今ここにいるのは十六人だけだ。
「あ、陽太もいる」
「加護で鍛えまくったみたいですわ~」
魔動カメラを搭載したドローンゴーレムが今回出場する人たちを順番に撮っていく中で、顔見知りについ反応してしまった。
『シグニール大陸の最後の出場者は、シグニール大陸の今代の勇者ヨータ! 予選では多くの精霊魔法使いを倒して回ったのは記憶に新しい期待の新人だ! えー、ヨータ選手からのメッセージは、好条件だったら雇われてもいいぞ、だそうです。大会でしっかりと記録を残したいところだ』
選手紹介をしているのは『お喋りタンク』という異名を持つボビーさんだ。
以前、ラオさんたちと冒険者をしていたらしいけど、今は他のパーティーに混ぜて貰ったり、ソロで活動したりしているらしい。
「シズト、ヨータがこっちを見ているのですわ」
「目を合わせちゃだめだよ。雇えってうるさいから」
それよりも開会の挨拶の言葉をこっちに回す、とボビーさんが言っていたからなにを言うべきか考えないとな。
なんて事を考えているとドローンゴーレムが別の大陸の人たちを映した。
シグニール大陸もそうだったけど、他の大陸も個人で出場しているであろう人はほとんどいなくて、王侯貴族の関係者が多かった。何かしら不正のにおいがしてきそうだけれど、世界樹の番人たちが目を光らせていたのでそういうのはないらしい。
ただ、神様たちから授かる『加護』は加護がない人と比べると最初のスタート地点が違うとの事でやっぱりこういう大会形式にすると加護持ちが多くなるそうだ。
そして、その加護は貴族関係者にい授けられるか、加護持ちが貴族に囲われるかのどちらかが多いからこうなるのは当然との事だった。
「……それよりレヴィさん、見覚えがある人がいるんだけど声を掛けなくて大丈夫?」
「もう赤の他人だから私から声をかける必要はないのですわ」
「めっちゃ見てるけど?」
「れもー」
「他の人の紹介だからそっちを見るべきですわー」
まあ、それもそうか。選手からの一言も当たり障りのない事だったし、あんまり気にしすぎても駄目だよね。
そんな事を思いながら黒髪の人物から視線を逸らすのだった。
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