後日譚179.事なかれ主義者は身内を頼った

 占いの神様に戻ったチャム様から授かった『天気祈願』を他国とファマリアに使うのは移動時間がほとんどないのでサクサクと進んだ。

 突然の水害や日照りの対応は結構な魔力がもっていかれるけど、不毛の大地に夜の間、雨を降らせるくらいの魔力は体感でこのくらいかな? と残せるくらいにはこの加護にも慣れてきた。

 時々計算をミスって加護が不発になり、魔力切れで寝る事もあるけど夜寝るものなので問題ない。

 子どもたちのお世話や遊びもできるくらいには平穏な日々が続いていたけれど、ファマリアの方はどうやらそうでもないらしい。

 朝食の席でファマリアの様子を共有してくれていたレヴィさんが神妙な面持ちで口を開いた。


「人が集まりすぎて宿屋が足りなくなるかもしれないのですわ」

「外縁区に新しいのを一気に建ててなかった?」

「建てた物だけじゃ足りないって予想されているのですわ」

「じゃあ外縁区を広げたら?」

「広げるための必需品がないのですわ」

「必需品? 資材使いすぎちゃったとか……って、それなら転移門を通じていくらでも調達できるか。お金も『天気祈願』の対価で結構な量貰ってるだろうからむしろ使わないとやばいくらいだろうし……」

「そうですわね。必需品って言うのは、シズトが作った『セイクリッド・サンクチュアリ』を発生させる魔道具なのですわ」

「あー…………」

「アレがないと建物を建てても至る所からアンデッドが湧いて出てくるのですわ」


 以前作った結界型の魔道具は、不毛の大地に建物を作るために必要不可欠な魔法『セイクリッド・サンクチュアリ』という神聖魔法を生み出す魔法だった。

 それを常時発動させるためにそれ相応の魔石を常に消費し続けているんだけど、今はそれは問題ではない。

 それを作る事ができるのは『付与』の加護を持つ者だけだ。つまり、赤ん坊の千与だけという訳だけど……当然、千与が作れるわけがない。三柱から授かった加護は大なり小なりイメージが必要となる加護だからだ。

 まだファマ様の加護である『生育』を授かった育生なら意図せず加護を使ってしまった、という事はありうるだろう。その次に『加工』の加護を授かった蘭加も変形させるくらいはしてしまうかもしれない。そのくらいイメージして使いやすい加護だったけど、『付与』となるとついうっかりで魔道具ができるとは思えない。


「じゃあ畑をちょっと減らすとか?」

「それは絶対に無理なのですわ!」

「レモーン!」

「ですわですわ!」

「むりですわ~」


 世界樹の周りはそのほとんどが畑となっているけど、それをしでかしたのは机を叩いて勢いよく立ち上がったレヴィさんと、外に通じる窓を勝手に開けて会話に入ってきたドライアドたちだ。入って来ないけど喧しいからか、セシリアさんが窓を閉めた。

 窓の外を眺めると手と髪を使ってバツ印を作っている。断固拒否の構えらしい。


「じゃあどうするのさ。呼んでもないのに来てるんでしょ?」

「そうですわね。幸いな事に王侯貴族だけであれば中央に近い宿屋と迎賓館で対応できるのですわ。問題は王侯貴族について来る関係者や、商人、護衛として雇われている冒険者ですけれど……」

「冒険者はもう外でいいんじゃねーか? 簡単に魔物を倒せる魔道具を貸し出せば喜んで寝ずの番をする奴も出てくるだろ」

「魔石の価値が上がっているものねー。アンデッドもあのピカッとライトでサクサク倒せちゃうし」

「『神聖ライト』だよ」


 魔力マシマシ飴を舐めながら会話に入ってきたのは元冒険者であるラオさんとルウさんだ。

 二人とも今日は特に予定がないのからか普段着で、タンクトップにホットパンツという姿だった。胸元が大きく開いているので二人とも大きな胸によって作られし谷間が見える。あんまりじろじろ見ないようにしないと……なんて事を考えながら魔道具の名前を訂正しておいた。


「冒険者だけ街にしても根本的な解決には至らないのですわ」

「もういっその事、町の子たちを一時的に別の場所で寝泊まりさせるのはどう? あの子たちが住んでる場所って集合住宅みたいな感じになってるんでしょ? 結構な人数収容できると思うけど」

「…………人数次第だけど、ありかもしれないわね。それこそ初期の頃から知識と経験を蓄え続けていた子たちは労働力としても期待できるから、ある程度はわたくしの所で引き受けてもいいわ」


 優雅に紅茶を飲みながら話を聞いていたランチェッタさんが首を傾げながら言った。

 今日はガレオールに行く予定があるようで、魔道具化した豪華なドレスを着ている。『適温ドレス』のおかげで暑がりな彼女でも露出の少ない服を着る事ができているんだけど、レヴィさんと同じくらいの天然の大きな胸によって胸元が張り裂けるんじゃないかってくらい胸元が苦しそうだ。

 彼女は海洋国家ガレオールの女王だからこのくらいの事は即断即決できるのだろう。

 だが、レヴィさんはそうではない。


「お母様にも相談してみるのですわ~」


 ここでお父様が出て来ない当たり、力関係が透けて見える気がする。

 そんな事を考えていると、先程までモリモリと朝ご飯を食べていた小柄な人物が挙手をした。


「ん、公爵にも」


 金色の髪に青い瞳が特長的な小柄な女性はドーラさんだ。ドラン公爵であるラグナさんの腹違いの妹さんだから貴族ではないらしい。ただ、ラグナさんとは比較的近い間柄らしいので相談するくらいはできるらしい。

 とりあえず頼れるところは頼ろう、という事で一先ず三人に対応をお願いする事にした。

 それでも足りなかったらまた考えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る