後日譚178.事なかれ主義者は黙っていた
小国家群の対応は合間でなんやかんや色々していたけれど、振り返ってみれば一カ月ほどで一通り終わった。次回からは面倒な顔合わせや会食は辞退できるだろうからもっと早く嘖々と進める事ができるだろう。
ただ問題があるとしたら、他国での評判を聞いて今回は見送っていた国々が加護の使用を求めてくる可能性がある事だろうか?
まあ、チャム様の布教に一役買うだろうから問題ないんだろうけど。
「それではまた一ヵ月後くらいにお邪魔します」
「気を付けて帰ってね」
オクタビアさんは小国家群を回り終わったのでエンジェリア帝国に戻るらしい。
流石に国を空けすぎじゃないか、と思っていたけれど転移門が普及する前はこのくらいは他の国でもたまにあるらしい。その間を支える優秀な部下がいれば問題ないとの事だったけど、オクタビアさんにもちゃんと頼れる部下がいるようだ。
「また一緒に遊ぶデスよ!」
「お手柔らかにお願いします」
「畑の事で分からない事があったらいつでも手紙で聞いて欲しいのですわ~」
「はい。その時はよろしくお願いします」
…………一国のトップの見送りとは思えない内容が飛び交っている気がするけど気にしたら負けな気がする。
そんな事を思いながら、オクタビアさんがファマリアを出立するのを見送ったのが少し前の事だ。
小国家群を回る必要が無くなったのであれば子育てに専念できるのでは、と思ったけれど後回しにしていた小国家群以外の国々からの『天気祈願』の依頼が溜まっていたので転移門を活用してサクサクとやっていったのがここ数日での出来事だ。
……利便性を考えたらやっぱり転移門は制限解除した方が良いんだろうなぁ。
制限撤廃派の筆頭であるランチェッタさんは「自由な貿易には多少の犠牲はつきものだわ!」と言っている。今までの交易路に関しては国が何とかすればいい、という考え方らしい。
朝ご飯を食べている時にも再び転移門の話を出したらランチェッタさんは呆れた様な目で僕を見てきた。
「シズトは作った後の使い方まであれこれ考えすぎなのよ」
「作って広めた張本人だからこそ、そこら辺はしっかり考えるべきだと思うんだよ」
利便性を追求して人類に貢献したかっただけなのに、良からぬ事に使われたら目覚めが悪いからね。
ただ、転移門の制限に関しては緩和する事で話が進みつつある。
「ただまあ、先日言った通り、様子を見ている限りだと戦争とかに悪用されそうにないから制限の緩和の話は進めてもらっていいけどね」
僕が生きている間は制限され続けたとしても、死んだ後は緩和されるのが目に見えている。だったら先に緩和して見て、どうなるのか見張った方が良いのでは? と話し合いを重ねるうちにそう考えるようになったからそういう事になった。
「もうほとんどだいじな所は詰める事ができているわ。貴方の気が変わらない内に、ね」
「そんなに気分屋じゃないから、そんな急がなくていいよ。むしろトラブルを極力避ける事ができるようにしっかりと煮詰めてもらってもいいっすかね」
「その事ですがぁ、ちょっとよろしいでしょうかぁ?」
「何かしら?」
ランチェッタさんに僕の釘刺しは届いているのだろうか? ちょっと不安になるくらい自然にジューンさんに聞き返していた。
「転移門の規制緩和のタイミングはぁ、シズトちゃんの生誕祭に合わせたらどうでしょうかぁ? 目玉となる事を用意したい、ってぇエルフの国々から話が上がってますぅ」
「生誕祭って……? え、今年もやるの!?」
「むしろやらないと思ってたのに驚きだわ」
「毎年の恒例行事なのですわー」
「あれ、そういう話になってたっけ?」
あと二週間ほど経つと確かに僕の誕生日だ。誕生日なんだけれど、意図的にそういう話題を出さないように黙っていたから、生誕祭とかいう恥ずかしいイベントは話が進まず、スキップされると思っていた。
ランチェッタさんは呆れた様子で僕を見てきた。
「異大陸からの使者は既にガレオールを出立してファマリアを目指しているから止めようがないわね。そこまでしてわざわざ来てもらったのに追い返すと角が立つかもしれないけど、それはシズトの本意じゃないでしょう?」
「まあ、それは、確かに……」
「帰りはぁ、ドラゴニアにある転移門を使って帰ってもらったら喜ばれるんじゃないでしょうかぁ」
「それは良いわね。ルズウィックは経由するからガレオールにお金は落ちる事は変わらないでしょうし、わたくしは賛成よ。転移門のあれこれも、今すぐ制限を緩和しろと言われたらできるくらいだから、シズトの誕生日までにまとめろと言われたら可能だと思うわ」
この話の流れは止められない感じの時の奴だ。
いや、本気で止めたら止まるかもしれないけど、ここを逃したら来年の誕生日か、子どもたちの誕生日に、とかなりかねない。
面倒な事はさっさと終わらせた方が良い、という事は学んだので消極的賛成を示して、大人しく成り行きを見守る事にしよう。
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