後日譚177.『世界樹の魔物について その1』 著者.ラピス・フォン・ドラゴニア

 世界樹は巨大である事の他にもう一つ特長がある。それは、世界樹から魔力が漏れ出て、周囲一帯が魔力溜まりとなっている事だ。

 その影響で世界樹周辺は季節も場所も関係なく植物を育てる事ができるらしい。

 貴重な霊薬も、季節外れの作物も例外なく、通常よりも早く育つ。それを利用していたのが世界樹を擁する都市国家だ。

 他にも世界樹から漏れ出る魔力による良い影響はあるだろうが、当然悪い影響もある。

 ダンジョンのような魔力溜まりになっているという事は当然、魔物が湧く可能性がある。また、世界樹の魔力を求めて大小さまざまな魔物が押し寄せてきてもおかしくないのだ。

 外部からの魔物は周辺で暮らしているエルフが排除していた、と考えていたのだが実際は縄張り争いの果てに勝ち取った魔物が外敵から守っていたようだ。

 今回は世界樹の根元に住み着いている魔物についてまとめていこうと思う。




 まずはドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地にぽつんと聳え立っている世界樹ファマリーからだ。

 ファマリーの根元には真っ白で大きな魔物が、日がな一日丸まって過ごしている。

 時々思い出したかのように体を起こしては空を駆け、世界樹の周りを囲うようにできた町ファマリアを飛び越え、周囲に集まってくるアンデッド系の魔物を一掃する時もあるが、基本的には寝て過ごしている。

 周囲の人やドライアドに危害を加えないのは、世界樹から漏れ出る魔力を吸収する事で他の生物を食べて魔力を得る必要がないからだそうだ。

 ただ、嗜好品として肉と酒は労働の対価として我が姉であるレヴィア・フォン・ドラゴニアに貰っているようだが……本来は不要な物らしい。それにしては肉や酒にうるさい。


『報酬なのだから要望を出すのは当然だろうが』

「そうですね」


 フェンリルは通常であればSランク相当の魔物だ。

 だが、人語を理解し『念話』で意思疎通ができるこのフェンリルの実力は分からない。

 少女にブラッシングされる姿は飼いならされたペットのようにも見えなくはないが、侵入者には容赦しないらしい。くれぐれもブラッシングによって手に入る毛を手に入れるために許可なく勝手に世界樹に近づかないように気を付けるべきだろう。

 フェンリルとドライアドは良好な関係を築いているようだ。フェンリルが丸まって眠っている時に、ドライアドたちはその上によじ登り、日向ぼっこをしている様子も時折見受けられる。

 特に仲が良さそうに見えるのは、ドライアドの中でも肌が白いドライアドだ。それは元々フェンリルも彼女たちも世界樹ユグドラシルにいたからだろう。




 フェンリルが元々いた世界樹ユグドラシルは今はどうなっているか、というと元々フェンリルがいた場所にはグリフォンが収まったようだ。通常のグリフォンであればAランク相当の魔物であるが、世界樹の根元に住み着いているグリフォンは見た目がまず普通ではない。

 真っ白な毛並みに、普通のグリフォンよりも大きな体躯。赤い瞳は全てを見透かすのような鋭い眼光を放っている。それらはここに来る前からだったそうだが、『念話』を使えるようになったのはここに来てからだそうだ。


『人の子は便利な物を作るな』

「ごく限られた人しか作れないと思いますよ」


 グリフォンが『念話』を使う事が出来るのは、グリフォンが首に着けている金色の首飾りのおかげだそうだ。

 それはシズト・オトナシが意思疎通ができるようにと作った魔道具らしい。

 だが、基本的には使うつもりもなければ使う予定もないので普段は着けているだけだそうだ。


「元々私たちの言葉は知っていたんですよね?」

『ああ。人語を理解した方が生き残りやすかったからな』


 どうやってグリフォンが人語を学んだのか。それについては興味があるが、応えてくれなかった。関係性をもう少し構築していく必要がありそうだ。




 同じシグニール大陸にある世界樹トネリコの根元にはナインテールフォックスと呼ばれる珍しい魔物がいた。当然のようにSランクに位置付けられる魔物がいる事を考慮すると、世界樹の根元に住み着くためにはそれ相応の力が必要だと思われる。

 外見的な特徴は金色の毛に九本の尻尾がある事だ。能力の特徴で言えば幻影魔法をはじめとした多くの魔法を使う事が出来る事だろう。

 ナインテールフォックスも人語を理解し、念話も当然のように使えるそうだが未だに会話をした事はない。幻影魔法を見破ることは容易い事だが、転移魔法で逃げられるからだ。

 褐色肌のドライアドたちが言うには「九ちゃんは人見知りだから~」との事だった。

 ただ、ここでもドライアドとは協力して外敵の侵入を防いでいるとの事だったので、世界樹の根元に住み着く魔物とドライアドは一種の共生関係にあると言えると思われる。

 後世に役立つかは不明だが、次回は異大陸の魔物についてまとめ、報告しようと思う。

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