後日譚51.事なかれ主義者は慌てて入った
アドヴァン大陸にあるサンレーヌ国との争いは無事に解決した。
エルフたちはみんな国に帰って行ったし、ライデンとムサシ、セバスチャンも持ち場に戻っていった。
キャプテン・バーナンドさんが乗った魔動船は予定よりも遅れてしまったがサンレーヌの港街を出港し、ガレオールを目指しているそうだ。
「でも、占領した土地を返してあげるんだね。てっきりこのまま統治し続けるのかと思ったよ」
その報告をガレオールにあるランチェッタさんの執務室で一緒に聞いていて、ふと思った事を口にすると、彼女は苦笑を浮かべた。
「侵略行為が目的ではなかったからよ。なにより、ガレオールの戦力で手に入れた場所じゃないからその内揉め事になるのが目に浮かぶわ」
「それに、飛び地は管理が大変ですからね。転移陣があるからそう感じないかもしれませんが、異なる大陸の国を植民地にする、なんて維持が大変ですから」
「そういうものなんだね」
魔法があるからそこら辺は何とでもなると思ったけど、そんな簡単な事ではないようだ。
異なる大陸に向かうために横断する大海原は魔物たちの縄張りで、無事に行って帰って来れるかどうかわからないらしいし、転移陣を使わないで向こうの領地を監視しながら管理するのは大変な事なんだそうだ。
「ガレオールとしては魔動船が無事に出港できたし、なにより向こうの魚人の国と関係を持てたのは大きいわね。まあ、それもシズトが作ったホムンクルスのおかげなんだけど」
「僕は作っただけで使ったわけじゃないけどね」
結局、魔動船を守るために渡していたインスタントホムンクルスは使われたそうだ。
話し合いが終わって一段落したところでその子に会いに行ってみたけど、見た目が人魚だった。
海を自由に泳げるイメージでもしていたんだろうか?
この世界の魚人族の中にも彼女の見た目に似た人はいるらしいけど、基本的には人族と呼ばれるのは僕たち人間に近い形をしていないと差別や迫害の対象になる事が多いらしい。
ただ、一部の例外として人魚などは大丈夫なんだとか。これも過去の勇者の考えが影響を与えてそうだけど……真相は闇の中だ。
名前がまだ付けられてないとの事で彼女に『マリン』という名前を付けたけど安直だっただろうか? 本人が喜んでいたのでまあいいか。
「それにしても、Sランク以上の魔石で作ったインスタントホムンクルス……じゃなくて、魔法生物か。彼らはすごく強いんだね」
大きな城門を真っ二つにしたり、突っ張りで大破させたって聞いた時は驚いたし、海の水を操って大渦を作り、水中から攻撃をしてきた敵の魚人たちを一網打尽にしたと聞いた時は「船に使ったら大変な事になってそうだな」と思った。
実際、相手もそう思ったようでマリンが力を使っただけで沿岸から離れて行ったそうだ。
「魔法生物は元となった魔石と、刻まれた魔法陣の複雑さや、魔法陣を刻む際に籠められた魔力によって力が決定するそうよ。世間一般の魔道具師と比べると複雑な魔法陣を簡単に付与できる加護があり、膨大な量の魔力があったからあそこまで強力な魔法生物ができたんでしょうね、きっと」
「なるほどなぁ。じゃあノエルが作ろうとしてもあそこまで強い子は生まれないんだ? ……千与が大きくなったら注意しておいた方が良いかなぁ」
「念のため気を付けて作るように言った方が良いかもしれないけど、そこまで心配する必要はないと思うわ。勇者の子孫でも神様から直接加護を授かった勇者ほどの力はそうそう授からないそうだし」
…………ファマ様はともかく、プロス様とエント様は加護を授けるのは二人目だから強力な加護を授けそうだけど、どうなんだろう?
直接会っていない、という所がポイントなのであれば心配する必要はなさそうだけど、この世界でも神様の姿を見る人はごく稀にいるらしいし……。
悩んでいる様子の僕を見てクスッと笑ったランチェッタさんは「貴方の好きにしなさい」と言って話を締めくくった。
ランチェッタさんとディアーヌさんの二人と別れた僕は、ガレオールを後にした。
王城を歩いていると当たり前の肩の上に乗っているレモンちゃんが頭にしがみ付いているので注目を浴びていたけど、ファマリーに戻るといつもの事なので農作業に勤しんでいる近衛兵たちは気にも留めない。
全く気にされないのはそれはそれでどうなんだろう……と思うけれど、まあ、害はないからいいか。
「ジューンさんは今日、屋敷にいるんだったよね?」
「はい。この時間ですと、エミリー様のサポートをしながらお食事の準備をされている頃合いでしょう」
「そっか。じゃあトラブル解決に協力してくれたエルフたちのご褒美は食事の後に考えようかな」
普通、他国への侵略戦争では武功をあげた者たちは領土やら金銀財宝を上位者から賜るらしいけど、今回エルフたちが手に入れたのはほとんど何もない。
サンレーヌから多額の賠償金や金銀財宝をもぎ取ったのはガレオールの女王であるランチェッタさんだからだ。
もちろんその内の何割かはエルフたちの国にそれぞれ等しく分配されるそうだけど、占領した土地の数はたったの一、二週間で勝ち取ったとは思えない程膨大で、その後の統治もトラブルなくこなしていたと聞いている。
自国民がエルフたちと同様の成果を上げたらもっと褒賞を与えるわ、とランチェッタさんも言っていたし、ジューンさんに協力してもらってご褒美を考える事にしたのだ。
アドヴァン大陸以外の貨幣だったら大量にあるだろうし、財宝は今までの貯金が大量にあるから何かしら満足できる褒賞は与えられるだろう。………………たぶん。
「……ま、今考えてもしょうがないし、子どもたちのお世話でもしようかな」
そのためには屋敷に入るためにレモンちゃんを下ろすところからなんだけど……。
「がっつり張り付いてます」
「だよね」
話の流れを理解しているのか、『子どもたちのお世話』と言った瞬間に髪の毛が僕の体に纏わりついたからね。
その様子を見ていた周りのドライアドたちも僕の体に纏わりつこうとし始めたので、ジュリウスと一緒に慌てて屋敷に入った。
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