幕間の物語51.勇者たちは成り行きを見守った

 神聖エンジェリア帝国で大切に囲われながら過ごしていた勇者たちは、都市国家ユグドラシルとドラゴニア王国の停戦協定の特使として、再びユグドラシルに向かっていた。

 今回は実用性よりも、見栄えを優先した装備で、キラキラ輝く彼らを襲った盗賊が後を絶たなかったが、その悉くを捕らえ、街で金に換えた。

 だが、思ったよりも売値が低かった。

 陽太が不服そうに自分の取り分の報酬を数えている。


「まじねぇわ。あれだけ捕まえてこれだけかよ」

「仕方ないですよ、雑魚ばかりでしたから。それよりも、取り分がおかしくないですか?」

「えー、ちゃんと三等分してるじゃん。変な言いがかりやめてよ。姫花傷ついたんですけどー」

「あなたたち何もしてないじゃないですか」

「はあ? 明が修行したいから手を出すなって言ったんだろうが」

「姫花はちゃんと働いたでしょ? 臭かったから浄化したじゃん」

「それはあなたが勝手にやった事でしょう。別に頼んでません。そもそも僕、そういう臭いのは風魔法で吹き飛ばしてるので困りませんし」


 お互いを悪く言い合いながら、用意された馬車に乗り込む。

 白を基調として金で装飾された煌びやかな馬車は、三人が乗った事を御者が確認すると進み始めた。

 今回は特使としての派遣だった事もあり、いつもよりも豪勢だ。

 彼らの馬車だけでなく、たくさんの人たちが彼らの馬車についてきていた。


「やっぱ前来た時より時間がかかってんじゃねぇか。マジで俺一人で走った方が早いじゃん」

「まあ、そうですね。ただ大勢で動く以上は仕方ないです。むしろ陽太が今度は女を連れて行くって言って聞かないからこんなに大所帯になったんじゃないですか」

「毎日ヤってたのに、ユグドラシルなんかのために1週間も我慢しなきゃなんねぇんだからいいだろ、これくらい。どうせかかった費用は全部エルフ持ちなんだし」

「マジキモイ」


 爪の手入れをしながら姫花がぼそりと言葉を漏らした。

 彼女は顔のいい男を侍らせるだけ侍らせておいて、そういう事はまだしていない。

 姫花の発言で馬車の中の空気がより微妙なものになり、各々好きな事をし始めた。




 都市国家ユグドラシルに彼らが着くと、以前来た時よりもさらに人の往来が激しくなっていた。


「そこら辺の人の中にも、僕たちと同じように周辺諸国から招かれた特使がいるようです。間違っても喧嘩を売らないようにしてください」

「おぃ、明ぁ~。どうして俺見て言うんだよ」

「あなたが一番手を出すのが早いからです」

「ほんとそれな!」


 姫花と陽太の相手をしつつ、周囲を窺う明。

 木造建築の建物が珍しいのか、じろじろと見ている者もいれば、珍しい薬草を買い求めて遠路はるばる来たであろう商人もいた。

 シズトはまだ来ていないようだ。

 普段と変わりのない雰囲気の街を見て、ほっと一息ついた。

 問題がない事を確認すると、指定された宿屋に向かう。

 宿屋では、それぞれに個室が用意されていたが、まだ話す事があったので明の部屋に集まった。

 明が空間魔法を唱える。すると、しまっておいた魔道具がその場に転移してきた。

 それを起動して遮音結界を張ると、外からは中の言葉が聞こえなくなってしまう。


「どうやって静人を勧誘しましょうか」

「静人の事だし、言えばついて来るんじゃないの?」

「ついてくるわけねぇだろ。それで済んでたらこんな面倒事になってねぇし、今でもたくさんの資金を、貰えてただろうが」

「まあ、どう話をしていくかは後で考えましょう。とりあえずそこら辺にいる兵士に協力してもらって、いつ来るかとか、話すタイミングがあるかとか練っていきましょう」

「はいはーい」

「面倒くせぇなぁ」


 やる気のない二人が部屋から出て行くのを見送り、まだ日が高かったが室内で練習できる魔法を使い続けた。

 その日、明は魔力不足によって倒れたが、シズトと会ってから毎日の事だったので陽太と姫花は呆れた様子でため息をついた。




 数日間シズトがやってくるのをまった勇者たちだったが、ついにその時はやってきた。

 ドラン兵に護送される形で進む馬車には、ドラゴニア王国の王家の紋章がついていた。

 その馬車は、街の中で止まる事なくどんどん進んでいく。

 どうやらその中にシズトが乗っているらしい。

 魔力探知でその事を知った勇者たちは、それを追おうとしたが、仮面をつけたエルフに止められた。


「あなた方はここで待機を」

「はぁ? なんでお前の――」

「はい、ストップ! すみません、うちのバカがご迷惑を」


 特使としての自覚があんのか、この馬鹿は。と、思いつつ慌てて仮面をつけたエルフと喧嘩腰の陽太の間に入る明。ぺこぺこと頭を下げていると、エルフは踵を返して離れていった。


「僕たちの目的の最優先事項は、問題を起こさず、結果を見届ける事。あっちこっちで問題起こさないように気を付けてください。まあ、無理でしょうけど」

「聞こえてんぞ」

「聞こえるように言ったんです」

「もうやめなよ。二人が馬鹿な事してる間に馬車通り過ぎちゃって、禁足地付近まで行っちゃったよ。どうすんの?」

「最初に接触できなかったのは残念ですが、想定内です。予定通り動きましょう」

「まずはシズトが出てくるのを待ち伏せだっけ」

「後は、シズトが泊まる場所で待ち伏せですね。その他にも手紙を渡すように頼みました」

(ただ、どれも上手くいかない気がするんですよね。そうなったら、ドランまで行くしかないか)


 接触できない時の事を今考えても仕方ない、と思考を切り替える明。

 彼は他の周辺諸国の特使と同じように、世界樹を見上げ、成り行きを見守るのだった。

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