第1章 冒険者になって生きていこう
1.事なかれ主義者は冒険者になる
結局、三柱の加護をそれぞれ貰って下界に送られた。
加護を断ろうとすると、小さい神様たちが周りを囲み、涙目で見上げてきたのだ。
……断り切れなかった。
一番偉い神様の話では、複数の神からの加護を持つ者は何人もいたそうだ。
また、神様にとって良い事をした者や、見どころのある者、後は気まぐれで加護を与える事もあるらしい。
転移先の世界の者の中でも、人間で加護を持っているのは何人もいるらしい。
ただ、だいたいは戦闘に関わる加護らしく、生産系の加護をたくさん持っているのは僕くらいかもしれない、との事だ。
「身分証は?」
ちょっと現実逃避をしていたら、次は僕の番だった。
転移先は街道のど真ん中で、周りには誰もいなかったが、近くに街が見えたのでとりあえずそこに入れないか挑戦中だ。
街道のど真ん中だったのは、僕の希望だ。せめて王様とか偉い人と関わりたくない、平和に生きたい! と望んだらそこに送られたっぽい。
服装も一緒に順番待ちしていた人たちと似たような服だった。
鞄の中には餞別としてお金が入っていた。加護を得た時にこの世界の知識みたいなものも流れ込んできたけど、それを参考にすると3カ月くらいは生活できそうだ。
ちょっと節約して、もう少しいい服を買いたい。服がチクチクする。
「持ってないのか? 流れ者か、最近多いな。おい!」
また、現実逃避をしていたら話が進んでいた。
門番さんが門の内側にいた人を呼び寄せると、僕をギルドに連れていけ、とだけ伝えて次の人に話を聴きに行っていた。
順番待ちの人はまだまだいっぱいいるから構ってられないのかなぁ、とか暢気に思いつつ、ギルドに連れてかれた。
冒険者ギルドだった。
これから有り得そうなテンプレを警戒したり、魔物とか相手しなきゃいけないのか、とげんなりしたりしていたら受付の人が説明を始めていた。美人なお姉さんではなくて、真面目そうなお兄さんだった。
「冒険者ギルドで登録したカードは再発行に料金がかかりますので注意してください。また、ランクが低い場合は街に入る際に金銭が必要になる事もあるのでご注意ください。ランクはSランク以外は昇格試験を受ける事で上がっていきます。その他に功績によって上がる事もあります。最初はGランクから始まります。登録料は鉄貨1枚です」
登録しなきゃいけないのかなぁ、なんて思いつつ連れてきてくれた門番さんの方を見る。
筋骨隆々のおっさんは、なぜか受付の隣に併設されている酒場にいた冒険者らしき人と話をしていた。
げんなりしつつ、真面目な受付のお兄さんにたずねる。
「あのー……身分証って、冒険者ギルドに登録しないともらえないんですか?」
「一番安く手に入るのがここなだけです。貧民対策でもありますし、人手はあって困る仕事ではないので。他のギルドでもカードを発行しているので、それが身分証代わりになります。商人ギルドは、冒険者ギルドと同様、街の行き来にある程度の自由を保障されます。まあ、登録した後も年会費などが必要になりますが。職人ギルドは、まずどこかの見習いとして入る必要があります。そういう技術があれば別ですが、難しいでしょう。また、技術の流出を領主が嫌う傾向が高いので街の移動に制限がかかりますね。住民になるのは難しく、ある程度街に留まって仕事をしたという実績を作る必要がありますね」
ちょっと聞いただけでたくさん答えてくれるし、真面目な人だなー。
あっちの酒を飲もうとしてる門番と違って。
僕の視線に気づく事なく、門番さんは楽しそうに笑って酒を飲んでいる。……職務中じゃないの?
「オススメはやっぱりここなんですか?」
「ええ、基本来る者は拒まないので」
「争いとか嫌なんですけど……」
「街の中の仕事も有り余ってますし、この国、ドラゴニアはダンジョンがいくつもあるのでポーターになる子どもも多いですね。スカベンジャーとして活動している人もいます。まあ、ダンジョンの中で魔物に遭遇したら襲ってくるので危険はありますが」
「ちなみになんですけど、もし……もしも商人ギルドに登録するならいくらいるんですか?」
「登録料でまず銀貨1枚必要ですね」
冒険者登録の100倍だ。
「年会費はものによりますが、街の中で売買するなら露天商でしょうか。それなら年会費は金貨1枚ですね。行商人の場合も同じです。店を持つのなら大金貨1枚からですね。たくさん払えばそれだけギルド内の発言力が増すので明確にいくら、というのはありませんが」
「………登録、お願いします」
細かいのがなかったから銀貨で払った。
銅貨が9枚と鉄貨9枚が返ってきて、紙と羽ペンを差し出される。
「代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
紙をちらっと見たけど普通に読めた。多分書く事も意識すればできるだろう。
名前……まあ、シズトでいいか。
職業……ポーター? にしよう。
書き終わると針を渡された。キランと先端が輝いている。
「え?」
「血判をお願いします」
「……え?」
………………頑張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます