2.事なかれ主義者は猫耳少女の尻尾に夢中
血判は思ったより痛くなかったけど、自分で自分の体に傷をつけるのは結構ドキドキした。
だいぶ時間がかかってしまったけれど、その間、真面目なお兄さんは無反応で待ってくれた。
ランクと名前と、職業が書かれた首飾り――ドッグタグというらしい。それを受け取ってそれを身につける。
これで今日から僕も冒険者だ。
「全然嬉しくないけど」
身分証として持つだけでいいかな、とか思ってたらある程度の期間何もしないと、Gランクは抹消になってしまうらしい。低ランクの悲しい宿命だ。
ランクが上がってもDランクまでは降格するらしいし、Cランクまで上げた方が楽なのかなぁ。
まあ、今そんな事を考えても仕方ないし、とりあえずオススメされた宿屋に行こう。
こういう異世界転移では文化レベルが下がるんだ、ライトノベルを読んでた僕は知ってる。
そう思って少しいい宿を紹介してもらった。
個室だが、お風呂はないらしい。というか、お風呂がある宿はめっちゃ高い。
紹介された宿は、『猫の目の宿』というらしい。
看板が分かりやすく、大きな猫の目のようなものの中にベッドマークが入っていた。
周りの建物が二階建てだが、この宿は三階建てで、それも目印になった。
「いらっしゃいませー」
中に入ると、明るい女の子の声。
一階部分は丸い机が並び、飲食スペースとして開放しているらしい。
奥から三角巾をかぶった女の子が出てきた。
とてもかわいらしいタレ目の瞳がまっすぐこちらを見ている。
三角巾をとると、黒い短い髪の中に違和感が……。
「お客さん、獣人見るの初めての人ー?それとも黒い髪?でもお客さんも同じじゃーん」
「いや……まぁ……」
ケモミミ、いいね!ファンタジーっぽくていいね、猫耳かわいいね!いやー、やっぱり猫だからいいのかな。犬とか狸とか狐とかも見てみたい。あ、尻尾見えた。うねうね動いててかわいいなぁ、もう。触ったらセクハラになるってラノベで知ってるけど触ってみたい。ちょっとだけ良いかな、先っちょだけ!
「泊りの人ー? 一泊、二食で銀貨一枚だよー。何泊するのー?」
「あ、とりあえず七日でお願いします」
銀貨七枚ちょうど渡して鍵をもらい、猫耳少女の後をついて歩く。
階段を歩く際に尻尾が目の前を行ったり来たりするからつい目で追ってしまうのは仕方ないと思います。小さなお尻よりも動く尻尾が気になる。
案内されたのは三階の角部屋だった。
「ご飯は私かー、お父さんかお母さんに言ってねー。あんまり夜遅くだとやってないからー。鍵は失くさないでねー。失くしたらお金貰っちゃうんだから―」
鍵を猫耳少女から受け取ると、猫耳少女は尻尾を振り振りしながら降りていった。
とりあえず、部屋の中に入る。
木の机に椅子、ベッド。白いシーツはとってもきれいで新品のようだ。
ご飯が良かったらここ拠点にしよっかなー。猫耳少女可愛いし。
ご飯はとっても美味しかった。
オムライスにサラダにスープだった。
ラノベの世界だと、料理チートだ! とかなんとかすると思うんだけど、お呼びじゃないみたい。ていうか、そもそも料理とかほとんどした事なかったわ。
生産系の加護は人気ないとか言われてたけど、料理はあったのかなぁ。それとも作って広めた後なのかなぁ。
「オムライスは口に合ったか」
ちょっと現実逃避していたらムキムキの猫耳のおっさんが話しかけてきた。毛色は茶色で猫耳少女――ランとは似ても似つかない。ランは僕の胸辺りまでの背丈だったけど、おっさんは僕の頭一つ分以上でかい。客が悪さしてもいいように、夜間はムキムキのおっさん――ライルが担当しているらしい。
女の子の頭に猫耳が付いているのはとってもかわいいけど、おっさんの頭に猫耳あってもかわいくない。誰得なんだろう。腐女子の方々?
タンクトップで筋肉見せつけてくるおっさんだけど大丈夫?
尻尾と耳は普通? の猫だからそこだけ見たらワンチャンあり??
「やっぱり血が勇者様たちの料理でも求めるんか?」
ライルは首を傾げて考えている様子だった。これがランだったらかわいいだろうに。
勇者、って転移者の事かな。オムライスを広めた、とかそんな感じかな。
勇者もいるなら魔王もいるんかなぁ。
「まあ、いいか。気に入ってくれたんならよかった。これからも泊ってくれよな」
ライルは奥に引っ込んでいった。
さて、僕も部屋でちょっとこれからの事でも考えるかね。
三階まで歩いて上る。エレベーターとか欲しくなるね。
部屋に戻ると机の上に今のお金を広げる。金貨と銅貨、鉄貨が九枚ずつ銀貨が二枚。
あと三ヵ月とちょっとはここに泊まれるけど、三カ月以内で一週間に銀貨七枚稼がないとやばいよなぁ。
もう少しランク落としたら別のとこにも泊まれるだろうけど、ご飯は美味しいし、ベッドもきれいだしなぁ。あと猫の尻尾は魅力的だし。
「嫌だけど、ちょっと明日から冒険者やってみるか」
とりあえず、今日はもう寝よう。
……その前にお湯をもらって体をふいた。お湯は銅貨一枚だった。高いのか分からん!
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