第12話 ミスリル出前館
ぼくとディアリーネは初夜を終えて、朝を迎えた。
目が覚めると、ディアリーネがぼくの隣でスヤスヤと眠っていた。
ぼくは彼女の頬にキスをして、布団から抜け出した。
「さすがにお腹が空いたな……」
ピロロン! という音とがしてぼくの目の前にコンソールが表示される。
『ミスリル出前館を利用しますか? はい / いいえ』
「えっと……はい?」
ピロロン! という音がして、目の前に沢山のメニューが表示される。
>> ミスリルモノノフバーガー 1000dsp
>> ミスリル地低海風カルパッチョ 1200dsp
>> ミスリルミラノピッツァ 1500dsp
>> ミスリルかき揚げ丼 1500dsp
>> ミスリルミネストローネ 1200dsp
>> ミスリルBLTサンド 1000dsp
見たことのないメニューばかりだったけど、それぞれの料理に映像と解説が表示されている。ぼくは、ミスリルBLTサンドとミスリルコーラを注文した。
5分ほどすると『商品が到着しました』というメッセージと共に、ピンポーン! という音が聞こえて来た。
目の前に黒い空間が現れて、
「注文ありがとうございまーす! 魔神ネコ配送便デース!」
そこから奇妙な服を来た女性が現れた。
その女性は商品が入った紙袋を手渡すと、ぼくの後ろにチラッと目をやる。
「やっ!? 朝チュンの最中でしたか!? し、失礼しましたぁぁ!」
そう言って、真っ赤になった顔を隠しながら、女性は黒い空間に消えていった。
「朝チュンって、なんだろう?」
紙袋からミスリルBLTサンドとミスリルコーラを取り出す。出来立てなのか、ミスリルBTLサンドは暖かかった。
ディアリーネを起こして一緒に朝食を取りながら、ぼくはミスリル出前館のことを聞いてみた。
「このアルバ魔空間は、魔神アルバ様とお付き合いのある神々とも繋がっているのですわ。ミスリルジャイアントのレベルが上がれば、様々な神々の提供するサービスを利用することができましてよ」
「なるほどね。そうしたサービスを利用するときに必要になるのがdspっていうのなんだね」
ミスリル出前館で注文した後、手持ちのdspが減っているのが見えた。おそらく、これがお金のような役割を果たしているのだろう。
「その通りですわ! 神々のサービスや商品と交換するために必要なのが、このディアリーネ充足ポイント、略してdspですわ!」
ん? 急に意味が分からなくなってきたぞ。けど、深く突っ込むのは止めて、必要なことだけ聞いておくことにしよう。
「えっ……えぇと。dspはどうやったら入手することができるの?」
「もちろん! わたくしが充足感を得ることで増えていくのですわ!」
「へ、へぇ、そうなんだぁ」
苦笑いするぼくの目の前に、ディアリーネは手を使ってコンソールウィンドウを移動させる。
>> 現在のDSP: 29,997,000
「え、えぇっと、二千、九百万……かなり一杯あるような……」
「それでは、
ディアリーネが、ぼくの方を向いて桜色の唇を突き出してきた。
「えっ!?」
「むぅぅぅぅ!」
えっと……キスしろってことかな?
チュッ!
軽く唇を重ねると、ディアリーネは満足そうに微笑んだ。
ピロロンッ!
>> ディアリーネ充足ポイント 1050を獲得しました。
>> 現在のDSP: 29,998,050
「えっ!? 一回のキスで、一千ポイントも増えるの!?」
「これはあくまで、わたくしが得た充足感によるものですから、時と場合によって得られるポイントは違ってきますわ」
ディアリーネによると、単に彼女が何かしら気持ち良くなった場合に限らず、魔神が評価した行動によってもポイントが増えるらしい。
ディアリーネによれば、現在の多額のポイントは、ダゴンを倒し、黒の碑を破壊して封印を解いたことが評価されて得られたものらしい。
まぁ、ダゴンはぼくたちが倒したわけじゃないけど。
「そそそ、それなら、こここ、これはどうかな……」
ぼくはディアリーネにやや年齢制限高めの甘いキスをした。
「んっ……」
ディアリーネの顔が蕩けていく。
>> ディアリーネ充足ポイント 10500を獲得しました。
男女の睦事は、ぼくには全く縁が無いものだと思っていた。
ぼくも一応は男なので、女性の身体に興味がなかったわけではない。
ジョイスさんの冒険者パーティーのメンバーは、みんな美人だったので、最初の頃は見惚れてしまうことがあった。
その度に、ジョイスさんやシークさんに殴られ、女性メンバーからは嫌悪の目を向けられてきた。それは冒険者になる以前から、同じようなことが続いていた。
これまで、ぼくが女性を見ると殴られるか嫌悪されることしかなかったので、そのうち女性から視線を外すことが習慣となった。
そんな、ぼくがディアリーネと出会うことができた。
「
ディアリーネが、ぼくに抱き着いてくる。
彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
美しい銀色の髪が、ぼくの指をすり抜けていく。
誰からも求められてこなかったぼくが、誰にも愛されたことのないぼくが、
美しいディアリーネに愛されて、溺れずにいられるわけがない。
「ディア……」
ぼくたちはキスをしたまま、高級お布団にもぐりこんだ。
それから……
翌日の朝まで、ぼくたちは高級お布団の中で過ごした。
~ 大天使 ~
『警告! 大天使降臨! 警告! 大天使降臨!』
バッとぼくが布団から飛び起きると、ミスリルジャイアントの前に、羽を生やした巨大な人型が浮いていた。
その全長はミスリルジャイアントより少なくとも十倍以上はありそうだ。
一見すると天使に見えなくもないが、様々なサイズの歯車が、その体のあちこちで回転している。良く見ると、その全身は無数の歯車によって構成されていた。
「ななななんだ!? あれは!?」
「あれは敵ですわ! 魔女トリージアの下僕の一人! 大天使!」
ディアリーネが叫ぶ。
「然り。我は女神トリージアの第三位階の御使い、大天使ツォルゼルキンである」
男とも女とも取れない声で、大天使ツォルゼルキンがぼくたちに語りかけて来た。
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