第10話 レベルアップ!

「やりましたわぁぁぁ!」

 

 ぼくの背後から、ディアリーネが力一杯で抱き締めてくる。


「いや、まぁ、ぼくたちは何もしてないけどね」


 全天周表示アストロヴィジョンには、海面に広がるダゴンの緑色の血と肉片の一部が映し出されていた。


 灰色の船は沈黙している。


 なんとなく、ぼくたちの様子を伺っているようにも見える。


鍵様ダーリン! 黒の碑を! 急いで封印を破壊して、魂力を吸収するのですわ!!」


「そ、そうだった! ジャイアント! あの黒の碑を破壊して!」


 ジャッ!


 自撮りウィンドウには、ミスリルジャイアントが魔神信仰ポーズを決めた後、黒の碑に突進する様子が映し出された。


 ドォオオン!


 ミスリルジャイアントは黒の碑に体当たりを決めると、そのまま両腕を広げて、黒の碑を締め付ける。ミシミシっと黒の碑に亀裂が走った。


 ピロロロッ!と音がして全天周表示アストロヴィジョンにメッセージが表示される。


『第三の封印を検知しました! 封印の解除を開始します』


 ミスリルジャイアントがうっすらと輝き始めると、黒の碑の亀裂から強い光が漏れ出し始める。


 キィィィィィィィン!


 光は段々と強くなり、同時に黒の碑の亀裂も全体へと広がっていく。


 ドゴォオオオン!


『第三の封印を解除しました』


 黒の碑が粉々に砕けると、その中から巨大な光球が出現した。ミスリルジャイアントが触れると、光球はミスリルジャイアントの中に吸収されるかのように消えていった。

 

『ミスリルジャイアントのレベルがあがりました!』


 メッセージと共に、ぼくの目の前にコンソールが表示される。


>> ミスリルジャイアント Lv.2

>> 耐久力 103000/103000

>> 魔法力 10000/10000

>> 新規武装:ミスリル光線I、ミスリルソードI

>> 新規コマンド:ミスリルパンチ、ミスリルチョップ、ミスリルキック、ミスリルデコピン、ミスリル鼻フック、ミスリルボディスラム、ミスリルカッター……


 画面に次々と流れるメッセージを見て、ぼくは圧倒されていた。


「こ、これがレベルアップしたミスリルジャイアントの新しい力……」


「そうですわ! こうして封印を解くほど、ジャイアントは力を付け、さまざまな能力を発揮できるようになりますのよ!」


>> ディアリーネ充足度補正:1.0 → 1.05

>> タンデムアルバのシートが高級革張りになりました。

>> ミスリルコントローラー: Type1 → Type1.1

>> 魔空間拡張: 1.0 → 1.12

>> ※高級お布団セット一組を追加しました。


 なんだかよく分からない機能なども追加されているようだけど、今はそれどころではない。


「あの灰色の船は、ぼくたちをどうするつもりなんだろう」


「おそらく、あの船の方でも、わたくしたちのことをどうするのか考えているのだと思いますわ。鍵様ダーリン、わたくしが思うに、今は何より封印の解除を優先すべきだと思いますの。黒の碑を破壊したことは、魔女トリージアたちに知られているはずですわ」


「そ、そうだね。とりあえずは感謝の意志だけ示して、ここを去るとしようか」


 と言ったものの、どうしたものかと悩んでいると、全天周表示アストロヴィジョンに、情報マーカーが表示される。


『▼ 魔鉱石』


 マーカーはミスリルジャイアントの足元にある、黒の碑の破片を示していた。


「これって全部が魔鉱石だったんだ!」


「それでしたら鍵様ダーリン、この魔鉱石をあの船にお譲りして、それを御礼とさせて頂くのはどうでしょうか?」


「そうだね! それでいこう! ミスリルジャイアント! あの船に手を振って!」


 ジャッ!


 ミスリルジャイアントが、灰色の船に大きく両腕を振り始めた。


 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン! 


 しばらく手を振っていると、奇妙な物体の群れが引き上げて行った。


鍵様ダーリン、残った1体がこちらに近づいてきますわ!」


「どうやら、意思疎通はできてるみたいだね。敵意がないことが伝わっていればいいんだけど」


「ダゴンをあんな簡単に倒してしまう船ですわ。いくらミスリルジャイアントのレベルが上がったとはいえ、今の段階で太刀打ちできるとは思えませんの。ここは丁寧に挨拶だけして、立ち去りましょう」


「だね。ジャイアント! あの船にぼくたちの感謝を伝えて!」


 ジャッ!


 ミスリルジャイアントが、腰を深く90度曲げるお辞儀を何度も繰り返す。


「ジャイアント! あの船に、この魔鉱石をプレゼントするって伝えて!」


 ジャッ!


 ミスリルジャイアントが、両手を魔鉱石の方へ向けて、どうぞどうぞという動作を繰り返す。


「これで伝わったかな?」


「わ、わかりませんわ」


 灰色の船は、海の上でじっとしている。1体だけ残っている奇妙な飛行物体も、空中で静止したままだ。


「……とりあえずここを立ち去ろうか?」


「そ……そうですわね」


 ぼくはミスリルジャイアントに命令して、灰色の船とは正反対の方向に走らせた。


 その間、灰色の船も、奇妙な飛行物体も、特に何も反応を示すことはなかった。


「あの船は何だったんだろうね?」


「わかりませんわ。ただあの海獣からわたくしたちを助けてくれたというのは確かですわ」


「あんな強い船が、ぼくたちの味方だったら心強いんだけどね」


 ぼくたちはミスリルジャイアントを走らせ続けた。山を二つ越えたところで、そのまま深い森の中へと入り、ミスリルジャイアントを停止する。


 その頃には陽は落ちていて、夜空にはき数多の星々が瞬いていた。


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