第9話 二匹のダゴンと灰色の船

 あらたなダゴンの登場によって、ミスリルジャイアントは前後を挟まれ状態になってしまった。


 ドゴォオオオオオン!

 

 ミスリルジャイアントに伸し掛かっているダゴンを振り払い、何とか立ち上がると、もう一方のダゴンが背後から突っ込んでくる。


 ドシャーーーン!


 そしてミスリルジャイアントが岩礁に叩きつけられ、伸し掛かって来たダゴンをまた振り払うといったことを、もう何度も繰り返していた。


 ゴンッ!


 ゴンッ!


 ゴンッ!

 

 伸し掛かられる度に、ダゴンがミスリルジャイアントの頭を強打する。


『ダメージコントロール【不要】 海獣ダゴンの攻撃によるダメージはありません。ダメージコントロール【不要】……』


 全天周表示アストロヴィジョンに表示されたメッセージを見て、ぼくは安堵した。


 だが頭を殴られる度に、その振動の一部がタンデムアルバを通じて伝わってくる。


 自撮りウィンドウに表示されているミスリルジャイアントの頭も、ダゴンの打撃を受ける度に左右に傾いでいた。いつまでもこの状態が続けば、いずれはダメージを受けてしまうかもしれない。


 さらに、この膠着状態を続ける必要もあるにはあった。


 今は二匹とも、ミスリルジャイアントを攻撃することに集中している。だが、もし片方が黒の碑のことを思い出して突進でも始められたら、ぼくらには止めようがない。


 ドドーーン!


 後から現れたダゴンがミスリルジャイアントに伸し掛かってきた。


「しまった!」


 ダゴンがその巨大な身体で、ミスリルジャイアントを覆い尽くす。ダゴンのぶよぶよした下半身に、ほぼ全身が包まれてしまった。身体を必死に左右に振るが、蛆のような下半身に勢いが吸収され、これまでのように振り払うことができない。


 それでも必死に振り解きを続けているうちに、ジワジワと移動してなんとか上半身まで抜け出すことができた。だが腕はまだダゴンの下半身に挟まれたままで、身じろぎの他に何もできない。


「んっ!? もう一匹はどこへ行った?」


 ぼくの疑問に答えるように、自撮りウィンドウが、黒い碑に突進するもう一体のダゴンを映し出す。


鍵様ダーリン! 黒の碑が!」


 ディアリーネの叫ぶ声が聞こえた瞬間、


 ドゴーン!


 勢いを付けたダゴンの頭が黒の碑に激突する。


 それで黒の碑がは倒れることはなかったが、アレを何度も繰り返されたら、そのうち破壊されてしまうだろう。


 マズイ! このままではマズイ!


鍵様ダーリン! なんとかしないと、このままでは黒の碑が壊されてしまいますわ!」


 ディアリーネの悲痛な声が、ぼくの耳元で響く。


 ど、どうすればいい? このままじゃ、黒の碑が壊されてしまう。


 あと一撃で壊れてしまうかもしれない!


 ブッー-----!


 突然、奇妙な音が聞こえた。


 同時に沖の方角から、炎の槍が、黒い碑の前にいるダゴンに向って飛んで行くのが見えた。


「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」


 炎の槍に身体を貫かれたダゴンが巨大な身体をのけぞらせる。


 海中に逃れようとして、黒の碑から離れたダゴンに、さらなる炎の槍が飛んで行く。


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ダゴンは炎の槍から逃れようと、あちこちに身体を動かした。だが炎の槍は、その動きを執拗に追って、ダゴンの身体を貫いた。


 「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 黒の碑の近くにいるダゴンの前腕が吹き飛んだとき、もう一匹のダゴンがようやく事態の深刻さに気が付いたらしく、ダゴンに向って咆哮を上げる。


「ディア! あの炎の槍は何!? どこから来たの?」


「わ、わかりませんわ……しょ、少々お待ちくださいまし……あっ!? これですわ!」


 全天周表示アストロヴィジョンの前面に、巨大な灰色の船が映し出される。


 炎の槍はその船から発射されているようだった。


「あれは……味方なのかな……」


「分かりませんわ! でも鍵様ダーリン、今がチャンスであることは間違いありませんわ!」


「そうだね! ミスリルジャイアント! 振り解きでダゴンの拘束から脱出だ!」


 ピロロンッ!


>> 使用可能なアタックコマンド

>> タックル [L1]+[右スティック] 

>> 振り解き [右スティック回転]


 ぼくは、全力で右スティックをグルグル回す。


 炎の槍で攻撃されているダゴンに気を取られていたのか、ミスリルジャイアントが振り解きを始めると、今度は、腰まで一気に抜け出すことができた。


 だが、そうはさせじと、ダゴンは再びミスリルジャイアントの上に乗りかかってこようとする。


 そのとき――


 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン! 

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!


 ダゴンの側面に、蜂が隊列を組んで群がるかのように、奇妙な形の物体が現れた。


 そして次の瞬間、


 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!


 個々の奇妙な物体から、激しい音が発せられたかと思うと、ダゴンの身体が次々と削られていく。


 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!


 海にひっくり返って、その醜い腹をさらしたダゴンに、奇妙な物体が次々と攻撃を加えていく。


 よく見えないけれど、何か固いものをダゴンに撃ち込んでいるようだった。


 ミスリルジャイアントがダゴンの拘束から解放されたので、ぼくが立ち上がらせると、奇妙な物体はダゴンへの攻撃を止めた。


 もうダゴンは動かなくなっていた。


 ドォン!


 ドォン!


 ドォン!


 続いて巨大な音が連続で発せられた。


 自撮りウィンドウを見ると、灰色の船から煙が立ち昇っている。おそらくあそこから何か攻撃が行われたのだろう。


 黒い碑の前にいたダゴンは、跡形もなく消えていた。 

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