それは、ある新婚夫婦の崩壊と再構築の物語

 共通の友人を通じて知り合った和成と真弥。
 真弥に一目惚れした和成は、何とか彼女の心を射止めようと必死の思いでアプローチを重ねる。
 一方真弥は別れたばかりの元カレである尚紀の事が忘れられず、初めは乗り気ではなかったが、和成の強い押しに心は次第に絆されていき、晴れて二人は結婚の約束をするまでに至った。

 しかし、結婚が決まった頃、真弥の前に元カレの尚紀が再び現れる。

 未だ尚紀への想いを引きずる真弥は、愛しい元カレからの甘い誘惑に抗えず、心の中で和成に言い訳をしつつ再び尚紀との男女の関係に溺れてしまう。

 それは結婚後も当たり前のように続き、いつしか夫婦生活において二人の間には新婚とは思えない明確な温度差が生まれていた。

 真弥を振り向かせようと必死に愛を囁き真弥を大事に扱い続けた和成。
 それを当たり前のように受け止めむしろ鬱陶しいとさえ思い始めた真弥。

 そして迎えた結婚記念日。

 ──この日を境に、心が交換されたかのように、
 ──二人の「愛のベクトル」は逆転する。

 妻の浮気を暴露し、離婚を切り出すも夫婦関係の継続を願う周囲の人々の説得に遭い、誰も自分の気持ちを理解してくれない孤独な状況に絶望し、諦めと自暴自棄の中で離婚へと踏み切ることが出来ずやり直しを受け入れてしまう「サレ夫」和成。

 夫を欺き浮気を続け剰え間男の子を宿すという夫に対する最大級の裏切りをしてもなお、夫との離別を拒み、果ては「今は一番夫を愛している」などと全く信ずるに値しない言葉を吐きつつ泣いて夫に縋りつく「シタ妻」真弥。

 そんな二人が紆余曲折を経て、ある決断をする。
 離婚までの1か月間、夫婦生活をやり直すこと。

 ──やり直しの1か月。

 それは、二人がお互いを、或いは自分自身を見つめ直す期間。
 そして、幻でしかなかった関係の再構築に二人がもがき苦しむ期間。

 時は静かに、しかし確実に崩壊へのカウントダウンを刻み始める。
 1か月後、この悲しくも歪な一組の新婚夫婦に訪れる末路とは……

 重く苦しいテーマをユーモア溢れる軽妙な筆致でエンタメへと昇華することに定評がある自称妹スキー作家な作者が文字通り魂(と健康)を削って送るシリアス純度イレブンナインのハードモードなストーリー。
 毎話登場人物の心理が丁寧かつ繊細に描写され、それが作中に漂う重苦しさとリアルな感覚と相俟って、読み進める毎にこちらの心を確実に抉ってくる。この陰鬱として尚且つ未だ救いが見えない展開にどっぷり浸かりたい人には堪らないであろう。

 今最も先の展開が気になる作品である。