そして、別れ
今の真弥に対して、何も言えない。
そんな自分のことが、わからなくなる。
どうした俺。
真弥をひどい目に遭わせるはずだろう。
俺が追えば逃げて、俺が逃げれば追いかけてくる真弥を。
──壊してやるはずだったろう。
「……本当に、申し訳、ありません、でしたぁぁぁぁ……わたしは、殺されても、文句の言えない、女です……」
だが、そう言って土下座する真弥は。
俺を追いかけることをやめる、という意思を明らかにしていた。
つまりそれは、俺と別れることを覚悟したともいえる。
約束の一か月まで、あと一週間と少しだ。その時が来たら、真弥は俺と別れて暮らすことになるのだろう。もう俺が壊すことは──できない。
ダンッ!
どうしようもない何かに耐えられなくて、大きな音を立てて俺は床を踏んだ。
別れたら、もう真弥を縛るものはなくなる。
結婚生活というのは、お互いを縛りながら生きていくことだ。普通の夫婦なら愛情で縛るのだろう。だが俺と真弥は、愛情ではない別の汚いもので縛り合っていただけなのだ。
俺はいつの間にか、真弥を縛っていることに安堵していたのかもしれない。
その縛りがある以上、真弥が自分の意思で俺の前から去ることはないだろう、と。
だが、真弥は今、自分自身で。
そんな縛りなどなかったかのように、俺の目の前から姿を消すことを決意したのだ。
モヤモヤが、止まらない。
なんでだよ!!
ちくしょう、なんで、なんでだ!!
──結局、俺はただ、捨てられるだけなのか!!
「……うっ、う、うう……」
俺は、その場で膝をつき、情けなく泣いてしまった。
どこまで女々しいんだ、俺は。
──いいじゃないか、望んでいたんだろ? 真弥と別れることを。
違う。俺は──
──自分から別れを切り出そうが、真弥のほうから去っていこうが、大した違いはないじゃないか。
だから違う、俺は──
──どうせお前のプライドなど、真弥に浮気をされた時点で、粉々になっていたんだからな。
違う!!
「ああああああああ……ああああああぁぁぁぁぁぁ……」
この世には絶望しか存在しないかのような俺の慟哭を聞き。
おそらく俺の気持ちなど何もわかっていないだろう真弥は、呼応して激しく泣きだした。
最後まで、すれ違い。こんな二人が夫婦になるなんてこと、土台無理だったんだ。
―・―・―・―・―・―・―
「……お世話に、なりました」
「……ああ」
そうして、俺と真弥は、ついに別れの日を迎えた。
約束の一か月後だ。
「慰謝料は、定期的に……」
「振り込んでくれるなら、特に期日は設けない」
「……ご迷惑でなければ、直接、お渡ししたいのですが」
「……好きにしろ。払う意思があるならそれでいい」
別れの言葉も、こんなもの。
今さら罵倒する気にもなれない、未練たらしくすがるつもりもない。
不思議なもので。
別れると決まってから毎日、真弥を抱いた。
俺からの時もあり、真弥からの時もあり。ひどいときは、一日中情事にふけっていたこともある。
この時は、俺は激しくしなかった。そして、激しい行為を真弥も望んでなかったように思う。
俺たちにはもう手に入らないはずの、普通の夫婦というものを、このときになって初めてお互いに求めたのだろうか。
もちろん、別れる前の日にも、真弥を抱いた。
だが、その時──真弥の乳房に、しこりのようなものがあると感じたのは、俺の気のせいだろうか──
────────────────────
すいません。実はいろいろうだうだ書いてて五千字越えになったのですが、どうにもうまく書けなくて大幅カットしました。
とりあえずこれでこの章は一段落。エピローグでそれぞれどうなるかをもう少しじっくり書いていこうと思います。
もう少し続きますので、どうかお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます