探せ
いてもたってもいられない今の心境では、尚紀が住んでいる正確な場所がわからずとも出発せざるを得ない。
俺は自分の車に乗り込み、ナビ係として仕方なしに真弥を助手席に乗せ、出発した。
「こっちでいいのか!?」
「長後駅のあたりだとは聞いたような気がしますから……」
「……本当に知らないのか?」
信号待ちのもどかしい時間。
こんな状況でもいまだに真弥のことを信用できない俺は、嫌味も含めて静かにそう念を押して聞いてみた。
俺の意図が伝わったのかは知らないが、そこで真弥はうつむきながら答える。
「……本当なんです。信じてください。尚紀の部屋で会ったことはありません」
「なぜだ?」
「……きっと、尚紀は、別の女性と住んでいるからだと、思います」
「……はあ? それなのに……」
「……」
それなのに、真弥や美月にまで手を出したのか。
どれだけ性欲魔人なんだ、尚紀ってやつは。一人じゃ満足できないのか。
普通は一人だけで、愛すると決めた女性だけで十分だろ。
まあ百歩譲って、倦怠期なるものがやってきたのであればともかく。
快楽と愛は別物で、愛というものは快楽を得るための言い訳にしか過ぎない、なんて考えてるやつが多いってことなのか。
尚紀も真弥も、そして美月も。
くそったれ。
……いや、美月の場合、桂木があれほど怒ってるというわけだし、真弥の言った通り尚紀に弱みを握られ何か意にそぐわないことをされた可能性が大きいだろうから、詳しいことがわかるまでは一緒にしないでおくか。
だが、いったんそう思ってしまうと、隣に真弥を乗せているだけでも虫唾が走るほどだ。
不快感が再度よみがえってくる。
──俺はなぜ、こんな女をここ数日間、必死で抱いてたんだろうか?
真弥が改心したかどうかはわからない。わかりようもない。
いや、たとえ改心していたとしても、それが信用できるかどうか。
そのことをもっと真剣に考えていたころの俺はどこへいった。こんな無駄な時間を重ねるむなしさを散々味わって絶望にさいなまれてた俺はどこへ消えた。
などと。
自分自身への憤りと焦燥感、そしてわずかばかりの嫉妬をごちゃまぜにした心のまま、俺は無言で運転する。
さすがに、桂木を犯罪者にするわけにはいかない。
たとえ尚紀が殺されて当然のクズだとしても、桂木みたいないいやつがクズを殺して犯罪者になるなんて事態は防がなければならない。
──どこだ、どこだ、どこだ!
手掛かりは一つ。桂木が乗っている車だ。
「こっちか!?」
「あ……確か、大学のキャンパスが見える、と聞いたことがあるので……おそらく……」
しどろもどろになって焦る俺のナビを務める真弥だが、正直役に立たないも同然だ。
今この時、真弥が尚紀の家に行ったことがないという証明などいらないのにしっかりしろよこんちくしょう。
そうして、焦りながらさまよう事数十分。
暗いからわかりづらかったが、ようやく──黒のCR-Z、桂木の車を見つけた。ナンバーも間違いない。
路駐いたしかたなしで可能な限り早く車から降りると、近くの真新しいアパートらしき離れからなにやら暴力的な音が聞こえてきた。
まさか。
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引っ張ってごめんなさい。
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