止めろ
俺は、かなり慌てた顔をしていたのだろう。
「……なにか、あったんですか!?」
家に戻った俺を見るなり、真弥が慌てながら恐れながら、そういってきたからだ。
だが今、自分をとりつくろう必要性は感じない。
「美月が、妊娠していたらしい」
妊娠したまま自死しようとしたのか、それとも処置してからそうしたのかはわからないが。
俺は今きいたことをそのまま真弥に告げた。
「あ、ああ……そ、そんな……」
途端に、真弥の顔が青白く変化する。
この反応から、真弥は美月の相手を知っている、そう確信した。
「美月の、相手は誰だ? 教えろ」
口調も荒々しく尋ねると、真弥は一瞬だけ躊躇して、しかしはっきりと。
「……尚紀だと、思います」
名前を口にした。
「どういうことだ!?」
「美月は……わたしとの前に、尚紀と付き合っていたんです」
「はぁ!? 初耳だぞ!?」
「……言ってなくて、ごめんなさい」
頭が混乱している。
つまり尚紀は最初美月と付き合ってて、そのあとに真弥と……ってことか?
ただの竿姉妹だったのか、こいつら。
……しかし、なんだ。
美月の奴、そんなことを隠して、えらそうなこと言っていたのか? しかもあくまで元カレだろ?
セフレかなんかだった可能性はあるにしても、もしそうならなんで今頃に自死しようとしていたのか理解に苦しむ部分はある。
「いや待てよ、尚紀が美月の元カレなのは分かったが、なんでその元カノが尚紀との子供を妊娠してるんだ? あくまで元なんだろ?」
「……わたしにも、わかりません。でも、おそらく美月は、尚紀と話をつけようとして、会いに行きました。そのときに、おそらく……」
「……なんだと」
「わたしたちのためを思ってだと、思います。だけど、美月は尚紀に何か弱みを握られていたらしくて、尚紀に言われるがまま、関係を持ってしまったと告げてきました。それ以来、連絡は取ってなかったんですが……」
「……ひょっとして、以前、この家で美月と怒鳴りあいしていた時の、ことか」
「……はい。気づいていたんですね」
そりゃ家の中で怒鳴ってたらわかるだろう。俺は何事かと思って顔は出さずに自分の部屋に逃げたがな。今思えばそれが失敗だった。
なんだよそれ。
だが、怒りがマックスを通り越して宇宙へと突き抜けそうだ。
──そうだ、桂木!
俺は詳しい話は後回しにして、まずこの事実を桂木に知らせなければならない。そう思った。
おそらく、桂木の奴、美月のことを憎からず思っていたに違いないから。
ブーッ、ブーッ。
なんて思っていたら、またもや桂木から電話がかかってきた。
ナイスタイミングだとすぐさま出ると。
「もしもし桂木か!? ちょうどよかった、実は……」
『……和成か。世話になったな。おまえらの幸せを、俺は塀の向こうから祈ることにするよ』
スマホの向こうの桂木から、覚悟を決めた男の声がする。
「はあ!? どういうことだ!? おい桂木!!」
『……今野をあんな目に遭わせた男を……今から殴り殺しに行ってくるわ』
「なんだと!? おい早まるな、だいいちおまえ相手が誰だか……」
『……わかったんだよ。今野のご両親が、教えてくれた。和成にとっても悪い話じゃないだろう? 間男がこの世から去るんだからな』
「バカ、落ち着け!! 絶対に殺すな、殺しちゃだめだ!! だいいち殺しちまったら、俺が慰謝料請求できないだろうが!!」
『……それはそうだな。だが、俺はもう自分を抑えられない。すまない、ダメな親友で』
「おい待て! だから落ち着いて……」
ブツッ。
そこで一方的に通話は途切れた。
これはヤバイ。
「真弥!!」
「は、はい」
「おまえ、尚紀がどこに住んでるか、知ってるよな!? 教えろ!!」
「え……どのあたりに住んでるか、くらいしか知りません……いま尚紀が住んでるところに行ったことは、ないので」
「それでもいい! 教えろ! 大変なことになってからでは遅いんだ!!」
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