揺れる思い(美月視点)

 和成君が吐血した日、真弥と会って。いろいろたしなめて。


 それからあたしは、尚紀のもとへと顔を出した。


 なんで、真弥に手を出したのか。

 あの二人は、きっとうまくいくはずだったのに。

 そんな怒りを激しく抱いたからだ。


 真弥を紹介した責任を感じると同時に、別れておいて真弥に再度ちょっかいを出した尚紀にひとこと言わずにいられなくて、いてもたってもいられなくて。


 尚紀に会ってから、激しい言い合いとなったことは、言うまでもない。

 だけど、その時尚紀が口にした。


『おまえが真弥を紹介しなければ、こんなことにはならなかったんだ』


 という一言だけは、やたらと頭に残った。


 だからといって、不幸にしたかったわけじゃない。

 真弥も、和成君も、そして尚紀も。


 多分その言葉があたしに突き刺さったのは、自分でもうすうすそう感じていたところがあったから、なのだろう。


 あたりまえだけど、どうすれば、責任をとれるのか。

 あたしなりにいろいろ考えたつもり。


 真弥と和成君は、きっとやり直せるはず。


 あたしの親友、真弥も根っこは悪い人間じゃない。

 一時のあやまち、心を入れ替えればきっともう浮気なんてまねはしないだろう。


 そして、あれだけ怒っていても、あれだけ真弥を好きだった和成君だから。

 きっと全部が全部嫌いになんてなれないに決まってる。


 あたしが尚紀を軽蔑していても、心から嫌いになれないのとおんなじに。


 だから、尚紀の指摘に動揺しつつも、もう二度とちょっかいを出すな、さらに高額の慰謝料を請求されて地獄を見たくなければ、と尚紀に告げたら。


『じゃあお前が真弥の代わりになれ』


 そう迫られ。

 あたしはなぜか、その通りにしてしまった。


 どうしてそんな要求に応じてしまったのか、自分でも理解できない。

 ただ、尚紀に指摘され突然大きくなった自分の責任に動揺しすぎて正常な判断ができなかったのか。それとも、あたしが真弥の代わりになれば、自分の責任は果たせると思ったのか。


 ひょっとして、尚紀を──まだ、好きな自分がどこかに隠れていたのか。


 もちろん、事後は激しく後悔して、もう二度とこんなことはしない、とはっきり尚紀に告げた。

 どうかしていた。これからは、和成君と真弥を元通りにさせることだけに専念しよう。


 そう考えなおしたのに。

 まさかこの時に写真を撮られ、それをネタに脅されるとは思わなかった。


 あれほどまでに、和成君や、真弥に──えらそうなことを言っておきながら。

 あたしは、なんだ。


 さすがにもう耐えられなくなって、真弥にうっすらと真実を告げた。

 当然のように、激しい言い合いになった。そうして親友というきずなは壊れた。


 やがて、検査薬陽性という、どうしようもなく愚かな事実がおそってくることとなる。


 なんだろう。

 一番の悪人は──あたしじゃ、ないのか。




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