不安な幸せ(真弥視点)
嬉しい。
和成が、抱いてくれた。
それだけなのに、美月はいまだ回復していないというのに、私はなんて自分本位な人間なのだろう。
そう思うけれど、でも嬉しいものは嬉しいんだ。
ここ二、三日は。
まるで普通の夫婦のように、和成と暮らしている。
なにも余計なことで口論しようもない、平穏な日々。
単に、美月のことを忘れたくて、負の思考に触れたくなくて。
現実から逃げるために、お互い何も言わないだけかもしれないけど。
普通の夫婦というものが。
普通の夫婦として過ごす時間がここまで心暖かくなるものだとは思わなかった。
こんな毎日を、いままでのパートナーとは、過ごした記憶はない。
もちろん、夫婦として過ごした相手は和成だけだから、そのあたりは比べようがないにしても。
美月の痛みに触れまいとお互いに気遣うさまが、夫婦としてのお互いへの思いやりに感じるほどに、私の居場所はここなんだと思えるまでになった。
見栄を張って着飾る必要もまるでない。
今の私の中の尚紀への気持ちは、完全に和成に上書きされてしまった。
美月が尚紀のことを、前から知っていた古い友人を見捨てられないと知っていたからこそ、尚紀に制裁を加えることには躊躇していたけれど。
美月がああなってしまった以上、尚紀に気遣う必要もないのだから。
尚紀への制裁を和成が望むのなら、いくらでも協力しようと思う。
私はなんて愚かだったのだろう。
私が愚かでなければ、和成となんの憂いもなくこのような日々を過ごせていたと思うと、後悔が湧き上がってくる。
だけど。
美月に何かしらの容態変化が現れたら、この生活も壊れてしまうのだろう。
そのとき、私は。
親友の命の危機であるにもかかわらず、このまま美月が目覚めないまま、生命をつないでいてほしいと。
一瞬だけ、思ってしまった。
すぐに、頭の中から醜い考えを打ち消して。
私は、今日も和成に、夫に寄り添う。
和成は、日中は穏やかになった。
その代わり、夜は、今までとは比べ物にならないくらい激しい。
それこそ、尚紀と散々乱れた今までの行為を上書きするほどに。
和成にこうまで激しく抱かれることは、すべてを忘れられるほどに、私の喜びだ。
最初から、こういうふうに抱いてくれれば、私は尚紀に浮気しなかったかもしれない、なんて。
今になってやっと感じられた和成の二面性を、こうまで魅力的に思えることは、幸せで──不安だ。
だけど、和成が私を求めてくれるならば、それにこたえる気持ちは固まっている。
私に、拒むことなど、できないのだ。
ねえ、和成。
このまま従順な妻として、死ぬまで尽くしますから──
──私と、離婚しないで、もらえないでしょうか。
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