夫婦として

 俺たちがしたことは、愛情を確認し合う行為ではなく、快楽によって焦燥感ををごまかすための行為。

 ただ単に俺が男で、真弥が女であるということを利用した夜だった。


 それは、真弥も同じだったのだろうか。

 俺が触れるたびに、今までにないような反応を恥ずかしげもなく見せ。

 今までよりも、はるかに積極的だった。


 体力を使い果たした真弥も、反動ですんなり眠りにつけたのだろう。


 ここに、愛情があったなら、お互い最高の夜だったのかもしれないが。

 俺のほうはといえば、残念ながらけだるさに勝る充足感を得られないまま眠ってしまったことだけは覚えている。

 だからこそ、目がさめたときに自分のしたことを後悔することはあっても、隣でいまだ眠る真弥に対して夫としての愛情は、自分が怖くなるほどに感じない。 脳内の不安や後悔を性欲に変えて、真弥の中に吐き出しただけなのだから、それも当然か。


 こうでもしなければ二人とも眠れぬ夜を過ごすことになったであろうから、致し方ないことだ。

 と、俺はそう割り切って自分をごまかした。


「……ん、ん……」


 隣で俺がもぞもぞと動いたせいだろうか、少し遅れて真弥も目を覚ます。

 すぐに目が合った。俺は反射的に思わず目をそらすが。


「……昨日は、ありがとう、ございました」


 真弥は、遠慮がちにそう言ってきた。調子が狂う。


「おかげで、少しだけ、楽に……」


 そう言葉を発すると同時に俺の腕に絡みついてくる真弥の身体は、確かに男を狂わすような何かはあるのかもしれない。だが、冷静になって考えれば、こうやって事が済んだ次の日の朝に真弥がこんなことを口走るのは初めてだ。

 今までは事務的に済ませていたからな。


 ──尚紀には、いつもこうだったんだろうか。


 などと、そこで考えてしまった俺は、予告もなしにバッと真弥から腕を振りほどく。真弥はすぐにおびえるような表情を見せた。


「……あなた……?」


「あ、ああ……すまない」


 今の俺には、そのことで真弥を責める資格はない、とすぐに気づき、反射的に謝罪の言葉が出てきた。


 どうしようもない焦燥感をごまかすために、愛情などとは程遠い気持ちで真弥の身体を利用した俺には。


 ──いったい、何をやってるんだろうな。


 口には出さず、そう自虐的になることしかできない。


 結局、何かが解決したわけではなく。

 少しだけ冷静になれば、少しだけよくないものが心の中によみがえる今の状況では、そうならないようにするための方法が一つしか思い浮かばなかっただけのことで。


 日常などどうでもよくなった俺と真弥は、そのまま一日中一緒に過ごし、今までにないくらいのペースで、お互いをむさぼり合った。


 皮肉なものだな。はたからみれば、今が一番夫婦らしい距離感に見えるだろう。


 だが俺は、それがただの逃げに過ぎないことだけはわかっている。


 肉体的な距離はこれ以上なく近いのに。

 いくら真弥を抱いても、心の距離は、まったく近づいている気がしないのだから。


 これじゃまるで──




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いろいろ始まりました。更新が遅れてごめんなさい。

『コイビト・スワップ』のコミカライズ版も、ぜひよろしくお願いします。(PR)


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