気の迷い

 俺が悪い。

 いや、俺は悪くない。


 どっちが真実なのか、自分でも気持ちに折り合いがつけられないまま、俺たちは美月の病室前にすらも行かずに、そのまま解散した。

 このままここにいても仕方がない、そう判断したうえで。だが焦燥感は募るばかり。


 一度でも、『俺のせいかもしれない』と思ってしまった時点で、どうしようもない。


 当然ながら、真弥も一緒に帰宅した。

 その真弥と言えば、助手席でただただ震えながら壊れたように『わたしのせいだ、わたしが悪いんだ』と繰り返すばかりで。


 それもやたらと気になってたせいで、運転していた記憶が飛んでいる。

 よくもまあ、無事に家までたどり着いたもんだ。


 俺が、自分に非がある、と思ってさえなければ、話は早かったのに。


「あ、あああ、わたしの、わたしのせいだ、わたしがバカだから、美月が、わたしのせいで、美月が、わたしが自分のことを棚に上げて、美月に、美月が……あ、ああああああ!!」


 帰宅して、余計にひどい錯乱状態になる真弥を、責めることも止めることもできない。


 違う、真弥だけが悪いわけじゃない。

 俺のせいでもあるのかもしれない。


 そんなふうに真弥に伝えなかった俺は、汚い人間なのだろうか。


 もちろん、大前提として、真弥が浮気しなければこうなることはなかった。

 順番をつけるとすれば、一番悪いのは真弥なのだろう。


 ──だが、追い打ちをかけたのは、俺かもしれない。いや、俺に違いない。


 そう思ってしまうと、冷静に考えることなどできなかった。

 焦燥感だけが、そして罪悪感だけが脳内を占める。


 一方、真弥の錯乱は止まるどころか、だんだんひどくなっていった。

 美月の様子を確認できなかったせいなのだろう、時間がたつほどに負の感情が大きくなっていくさまを見せる。


「あ、ああ、ああああああ、あ、ああああ、美月、美月、お願い、ちゃんと、美月に、謝らないと、わたしが、謝らないと……」


「……真弥。少し落ち着け。おまえが錯乱したところで、美月が助かるというわけじゃない」


 自分の感情を少し押し殺して、真弥をそう諭す。見ていられない。

 こんなのをずっと見ていたら、俺の罪悪感まで大きくなってしまう。


「なら、わたしは、どうすればいいんですか、どうすれば美月は……」


「……祈るしかないだろう、美月の無事を」


 自分に向けて言い聞かせるように、俺がそう言うと。

 罪悪感が極限に達したらしい真弥が、錯乱したまま俺に抱き着いてきた。


「お願いです、あなた。わたしを抱いてください、何も考えられなくしてください、その一瞬だけは何もかも忘れられるように、わたしを、抱いてください……」


 何を馬鹿なことを、と、突っぱねるのが普通だろう。少なくとも、美月があんな状態でなければ。


 だが、自分でもこの罪悪感を、それに伴う訳の分からない激情を持て余していた俺は。


 ──一瞬だけでもいい、何もかも忘れられるなら、それでいい。


 そういう結論に達してしまった。


 浮気が発覚してから、真弥に対して欲情などしなかった俺だったが。

 不思議なことに、今は、勃たないどころか、真弥をめちゃくちゃにしてやりたいと、強く思っていたのだ。


 そうして、俺に抱き着いてきた真弥を抱き返し。

 愛情などとは程遠い感情に従うまま、寝室で俺は真弥を激しく乱れさせた。




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しばらく更新できなくてごめんなさい。


結局こうなりました。でも愛情がないというところがポイントです。


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