命の重さ

 美月が自殺を図った、というメッセージは、なぜか桂木からやってきた。


 さすがの桂木も、こんな悪趣味な冗談メッセージを投げかけてくるはずがない。

 まさかあの美月が、と思いつつも、俺は慌てて病院へと向かった。不本意ながら、当然ながら真弥も一緒だ。


 切符を切られてもおかしくない速度で車を飛ばし、美月が運び込まれた病院に着いたのは、午後十一時を過ぎた頃。


 駐車場に車を停めて降りると、隅っこのほうで居場所がなさそうにしている桂木がいることに気づく。

 あわてて俺と真弥は駆け寄っていった。


「……ふたりとも、早かったな」


 憔悴している様子を無理に隠そうとして、静かな口調で桂木は言う。


「美月の様子は!?」


 だが俺は、そんなに冷静でいられるわけがない。

 急かすような問い詰めに、桂木は装った冷静さを必死で維持しようと苦しみながら、答えた。


「……電話線か何かに引っかかって落ちたらしく、一命はとりとめたようだ。が、まだ予断を許さない状況らしい。今夜が、山かもな」


 それを聞いた真弥は、その場で四つん這いになって泣き崩れる。


「あ、あああああ!! なんで、なんで、なんでぇ……」


 いくら知り合いだからと言えど、身内でもない俺たちが、生死をさまよってる美月のそばにいられるわけもない。

 桂木がここにいるのもそんな理由だろう。


 確かに、この前会った時、美月の様子はおかしかった。

 だがまさか、こんな行動を起こすとは思わなかった。


 ──俺たちの、せいかもしれない。


 そんな俺の考えは、桂木が続けた言葉でほぼ確定した。


「……美月がな。らしくもなく、俺にメールを送ってきたんだよ。メッセージじゃない、メールだ。ただひとこと──『みんなに、ひっかきまわしてごめんねって伝えてほしい』──ってな。なんで俺に送ってくるんだと思ったが、和成たちには言いづらかったんだろう」


 呆然としながらそれを聞く俺に、刹那、とてつもない罪悪感がこみ上げてくる。


「あ、あ、あ、ああああぁぁぁぁ!! ああああああ!! わたしが、わたしの、わたしのせいで、わたしがわたしがああああぁぁぁぁ!! ああああぁぁぁぁ……」


 真弥も、同じだったらしい。

 夜の駐車場に、ただただ慟哭が響いた。


「わたしが浮気しなければ、あんな馬鹿なことをしなければぁぁ!! 美月はいつもわたしを正そうとしてくれてたのにぃぃ!! ばかだ、わたしは大バカだ、おおばかなのはわたしだぁぁぁぁ!! 美月、美月、みづきぃぃぃぃ!! なんで、なんでぇぇぇぇ!!」


 錯乱した真弥を、止める気にもならない。

 俺にも、似たような感情が存在するからだ。


 俺が、美月にあんなことを言わなければ、ひょっとして。


 いや。

 俺が、真弥を許せてたら、ひょっとして──


 冷静な状況なら、俺が悪いと自分を責めたりしないだろう。


 だが。

 今野美月という、曲がりなりにも縁も情もある友人の命が失われるかもしれないこの瞬間に、普通でいられるわけもなかった。


 美月をそこまで追い詰めたのは、誰なのか。

 思うことはそれだけだ。


 俺は、『真弥がすべて悪い』などと、ここで都合のいい責任転嫁をできるほど、自分に甘くなかっただけなんだ。




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お盆進行のせいで余裕がなく、間が空いてすみませんでした。

遅れを取り戻すべく、連日更新できるよう頑張って書きます。

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