美月と尚紀と真弥と俺
いや、だが。
ここで俺がでしゃばるよりも、真弥から直接美月に返させた方がいいようにも思う。
真弥の貯金がないのはわかってる。いちおう共有財産の管理は俺もしてるし。
中絶費用とか、いろいろかかってたはずだからな。おまけに今の真弥は無職だ。
専業主婦を望んでいた俺だったが、真弥はその提案を受け入れずに、そのまま仕事を続けていた。その行動の裏に尚紀との浮気が隠れていたことは今ならわかるが、すべてが明らかになった今となっては、真弥は働き続ける意味をなくしてしまった。
おそらくは、義両親から渡されたお金なのだろう。
建前は違っても、慰謝料という裏の意味を持つ金として。
だが、口座名義が真弥の、しかも旧姓である。俺がうかつにその金に手を出すわけにはいかない。
仕方なく、ジャブを打って様子を見ることにした。
「……俺に渡すよりも先に、金を返す相手がいるんじゃないのか?」
「!!」
だが、ジャブでは済まなかった。まるでフィニッシュブローを決められたように一瞬で真弥の顔色が悪くなる。
俺が知っているとは思わなかったのだろう。真弥が、尚紀に貢ぐために美月から借金していた、ということを。
「……やっぱり、か」
俺がそうつぶやいたので、真弥がすべてを悟った、ように見えた。そして目を見開いたと思ったら、すぐに俺から視線をそらしてうつむいてしまう。
真弥は、美月に借金をしているということを知られたくなかったわけじゃない。美月になぜ借金したか、ということを知られたくなかったんだな。
「あ、あああ、あああああ……」
そのまま四つん這いになってわなわな震える真弥が、滑稽すぎて乾いた笑いが出そうだ。
その真弥の前に、俺はぽんと『橋本 真弥』名義の通帳を投げ捨てた。
「……この金は受け取れない。おまえの金だ、罪を償うために使うのであれば、俺に渡さずに、使うべきところへ使うべきだろう」
「……あ、な、たは……知っているのですか。お金が必要だっていうのは嘘なんですか。私を……試し……」
「少なくとも、今はこのような金を、俺は必要としていない」
「……」
「俺は、尚紀じゃないんだ」
自分で言ってて、むなしくなってきた。
まあ、真弥が俺のために何も言わずお金を差し出してきたことに思うところがないわけではないのだが、自分で自分の言った言葉に不快感が沸き上がり、不機嫌なことこの上ない。
さて、すべきことができたな。
美月に、詳しく尋ねてみよう。一体いくら真弥に金を貸したのか。そして、なぜそれを『返さなくていい』と言ったのか。
美月と真弥の間だけでなく、美月と尚紀の間にも何かしらのただならぬ関係がある。隠れている。
それを聞きださねばなるまい。
さっき会ったばかりだというのに、二度手間もいいところだな。冷静に考えれば、俺から美月に連絡を入れるなんて、久しぶりだ。
もう、桂木とは一緒にいないだろうか。
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多方面からツッコミを受けましたので、少し回り道して話を進めます。
しばらくはこの話を他より優先させて更新していく予定です。
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