責任(桂木視点)
今野は責任を感じていたんだな、ずっと。
それだけはなんとなくわかる。
こいつは、確かに物事をはっきり言うし、いろいろきつい面はあるけど、責任感だけは強い女だ。
だからと言って。
「自分ひとりだけに責任があるなんて思って、アレコレしないほうがいいさ」
えてしてこういう問題は、外野があれこれ言って本人を追い詰めるようなことはしちゃいけないんだろう。
あくまで、浮気された本人がどういう結論を出すのか、見守ってやらなければならないんだ。
心の傷など、そう簡単に癒せるわけがないのだから。
「……それでも」
今野が、そこまで言って、また黙り込む。
その先を推測して、俺は諭してみた。
「自分にしかできないことがある、といいたいのか? ああ、それは間違いない。今野にしかできないことはあるさ。ただそれをするのは頼られてからでいいと思うけどな」
「……」
「自分の願い通りに、思い通りに他人を動かそうなんて、傲慢にもほどがあると思わないか? こういっちゃなんだが、もうなるようにしかならないっていう感じだ、あの二人は。手を出せばこじれるだけ、口も手も出さずに見守るのが正解だろう」
その時に、注文したコーヒーがやってきた。俺はいったん今野から目を離し、即コーヒーをすする。ただ苦いだけのマンデリンが、いつもより苦く感じるのはなぜだろうか。
「……あたしが間違ってるって、言いたいのね、桂木は」
一方今野は、目の前にあるキリマンジャロを凝視したまま、飲むそぶりも見せずにそう呟く。
改めて、こいつとはコーヒーの好みすらも正反対だな、なんて思いつつも。
「間違いというよりも、俺は──正論で、追い詰められてる人間を殴るという行為を控えてくれ、とお願いしてるだけだ」
コーヒーカップを持ち上げ、飲むふりをしてそう答えた。
「たとえば、頭ではわかっていてもその通りにできないときに他人から正論を言われると、どうしても反発しちまうものなんだよ、和成みたいな立場の奴は。人間は感情で動いているんだから」
「……」
今野も、言葉を発しないだけで、いろいろ頭の中では考えているんだろう。
余計なお世話、というものは、タイミングさえうまく測ればこれ以上ないアドバイスになるものだとも思える。
だが、感情を無理やり抑え込まなければならないようなアドバイスは、するべきではない。人間、本気で弱ってるときは、ぐうの音も出ない正論よりもヘタな同情のほうがよほどましなんだ。
「……見守る権利が、あたしに、あるのかしら……」
「……」
知るかよ。
そう言うことはあえてせず、俺は苦いコーヒーを最後まで飲むことに集中した。
ま、余計なことはあったにせよ。
和成の気を紛らすために、尚紀という間男に制裁をするって行動は、おそらくこれ以上なく有用だとは思うので。
少なくとも俺は、和成がひとりで抱え込むのがつらくなったときに、いつでも手をさしのべられる距離にいることにしよう。
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更新が遅くてご迷惑をおかけしております。頑張る。
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