わたしの未来、わたしの本音(真弥視点)
『残りの期間、普通の夫婦として、暮らそう』
そう和成から言われたとき、私は泣いた。
もちろん、和成の前で、ではない。
もし和成の前で泣いたら、おそらく憎悪をよみがえらせてしまうだろう、ということがわかっていたから。
和成は、きっと、まだ私を愛してくれているはず。
都合のいい解釈だと承知しているけど、愛してる相手だからこそ、裏切られたら許せない気持ちが大きくなる、んじゃないか。
そんなふうに、自分に都合のいい考えが、脳内を占める。
だからこそ、私に関するすべてを和成が忘れようとしたとき、ただただ狼狽した。怖くなった。悲しくなった。
残り三週間弱。
もしもこの間に、和成の気持ちが、『怒り』よりも『好き』のほうへ傾いてくれたら。
約束の期間を過ぎても、和成が考えを翻してくれるかもしれない。
そのためには。
残りの期間、普通の夫婦でいることが重要だと、自分でもすぐに分かった。
普通に愛し愛される、夫婦。
だけど、それはいったいどうすればいいのだろう。
和成と結婚しても、なんだかんだ理由をつけ尚紀と会っていた私が、そんな夫婦の姿をすぐに想像できるわけもなかった。
和成からの信頼が皆無な私が自分で悩んだ結果、さらに同じ事を繰り返したり、今より変な方向へ向かってしまうのは避けたいから。
『……わたしは、和成のために、なにをすれば、いいですか……』
和成に、そう訊いてみた。
だが、返ってきた答えは、やはりというか。
『……正直、わからない』
和成にも、想像できなかったようだった。
自分のことが、これ以上なく、恥ずかしくなった。罪深いと思った。
お互いに愛し愛される普通の夫婦になれなかった理由は、私だけにあるのだから。
こんな罪深い自分が、許される可能性があるとするなら。
私のことなどどうでもいい。せめて和成だけには、これ以上不快な思いをさせないように、できれば笑顔で過ごせるように、私がただひたすら和成に尽くすだけしか。
少しでも和成へ、愛情を返すことしか、思い浮かばない。
胸が激しく傷んだ。
これは、私の中に残っている罪悪感のせいなのだろうか。
私は、罪悪感をぬぐいたくて、こんなふうに考えているのだろうか。
罪悪感があるからこそ、ここまで殊勝な思考ができるのだろうか。
自分で自分が、わからない。
そこで、私はふと、先ほどの自分の発言を思い返す。
『もちろん罪悪感はあります。できることなら償いたい。だけど、それだけなら、こんなに苦しい思いをしてまで、あなたのそばにいません』
不思議だ。
衝動的に発言するときは、こんなふうにすらすらと断言できるのに。
少しだけ深く考えようとすると、なぜ迷いが出るのだろう。
そして。
こんな自分が信頼を得られて、和成を幸せにできるはずがないと、なぜ思わないのだろう。
ただ単に、和成にも、美月にも。
私がどうしようもないクズだと、思われたくないだけなのかな。
結局、私は和成のためじゃなくて、自分のためだけに行動してるに過ぎないのかな。
そこに、どのくらいの愛が、あるのかな。
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お待たせして本当にすみません。
なんか書きたいことが夢散してしまい、書きなおしました。
次からは最終章です。
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