クズの思考回路(尚紀視点)
別れてから、その女の良さに気づく。
けっこうあるあるじゃないかと思う。
付き合っている時は、もっとかわいくて従順な女がいるはずだ、とか考えているのにな。
じゃあ、もっといい女を探しに行こう。
思うと同時に浮気したところで、こんなはずじゃなかったと。
後悔だけは大きかった。
だけど、そんな軽い気持ちでした浮気がバレ、そのせいで別れてから少し経って。
元カノの真弥が、婚約をしたということを耳にしたとき。
俺の中で『もったいない』という思いがさらに大きくなり、制御できなくなってしまう。
男と女なんて、しょせんくっついた別れたを繰り返し、お互いのベストパートナーを探し出すもの。
そんな中で。
俺が後悔しているというのに、真弥が俺じゃないベストパートナーを見つけ出したことがただただ癪にさわった。
──いや、待てよ。
こう言っちゃなんだが、真弥はおそらく俺のことをあんなに好いていてくれた女だ。そんな女が、何年もたたないうちに、俺より好きになれる相手を探し出せるものか?
そして俺は、こう結論付けた。
きっと真弥は、妥協したに違いない。
女っていうものは男より寂しがりだ。きっと真弥は、寂しさをごまかしてくれる相手ならだれでもよかったんだと思う。
脇で真弥に入れ知恵した、あの忌々しいお友達さえいなければ。
真弥は俺の浮気を許し、今でもそばにいてくれたはずなんだ。
ああ。
もし心がまだ俺に残っているなら、真弥を誘えば、きっと乗ってくるだろう。
いや、きっとまだ心は残っている。
もし残ってなかったとしても。
真弥は、甘い言葉には弱かったから。
誘い方次第では、おそらく乗ってくるんじゃないか。
そんな推測が確信に思えて仕方ない俺が、真弥に連絡することを躊躇するわけがなかった。
案の定、真弥はすぐに堕ちた。
こいつとは、セックスの相性だけは最高だった。付き合いたての頃は、一日中やりまくってたこともある。
いやというほど身体にしみ込んだ快楽を、真弥も忘れられなかったに違いない。
だが、やはりというかなんというか。
手に入れると不思議と、こんなものか、とも思ってしまう、絶頂後の快楽から解き放たれた賢者な自分もいる。
だからこそ、真弥を再度口説き落としてからも、今いる彼女と別れるなんて選択肢は俺の頭にはなかった。
結果、それは正解だったと思う。
「……妊娠、したみたい」
別れたい、そう真弥から告げられ。
都合のいいセフレを失うというのはもったいないという気持ちから、何とか説得して快楽で懐柔してきたが、それも無理な状況になってきたことを、その一言で悟った。
いちおう浮気扱いになるので、真弥にせがまれ、よりを戻したあとは避妊してきた。
が、付き合っていたころは、そんなことしなくても一度も真弥は妊娠しなかったから、油断してその時のようにしたいと提案したのは、今思えば間違いだったか。
あの時は、あれほどまでに真弥も乱れていたくせにな。たった一度だけ──いや、あの夜には三回ほどやったから、一度っていうのもおかしいのか。でも真弥も、俺を直接感じられて、すごく幸せそうにしてたじゃないか。
なのに、そのあとだ。真弥が俺と別れたいと言い出したのは。
何が真弥を豹変させたのかわからない。少なくとも、今の夫を、真弥は愛していないだろう?
愛がもしあったとするなら、俺に抱かれた時点で罪悪感に押しつぶされるはずだからな。
「……俺の子供と決まったわけじゃないだろう」
「いいえ。わたしは……和成に抱かれてない。少なくとも、ここ三か月は」
責任回避のために聞いてみたが、マジかよ。
こいつ、ここまで俺とのセックスにハマってたのか? だいいち、俺だけの責任じゃないだろ。避妊しないですることに同意した時点で、真弥も同罪だ。
まあ、いいさ。俺に、責任を取るつもりは毛頭ない。
きっと世の中には、真弥よりもいい女が、たくさんいるはずだからな。縛られるのは勘弁だ。
だから、もう別れてやるよ。それでいいだろ?
真弥の腹に存在する新しい命は、旦那の子供として、出産でもなんでも好きにするがいいさ。
万が一、俺の子供だとしても、血液型でバレることはないだろうからな。
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