制裁は誰のため
字だけはきれいな真弥が書いたとは思えないような震えた名前が、離婚届に記入され。
俺はまず第一段階が終わったことにほっとして足を崩した。
「じゃあ、次の条件だが」
「……はい」
「お前の浮気相手──尚紀には容赦なく制裁をする。できる限りのな。戸籍上は少なくとも他人の妻に手を出すということがどのくらい愚かな行為なのかわからせる必要もあるし、なにより俺の気が済まない」
「……」
「だから真弥は、それに無条件で協力すること。できるよな?」
真弥の顔に困惑の色が浮かんだ。
それが何を意味するのか、俺にはわからない。
分からないから、あてずっぽうで言ってみることにする。
「……なんだ。心の底から好きな男が制裁されるのが、そんなにいやか?」
「そ、そうじゃありません」
「じゃあなんだ」
「……今回、一番悪いのは、浮気して和成を裏切ったわたしです。そんなわたしが、尚紀を責めるのに協力する資格があるのかな、って思って……」
「詭弁だな」
俺はばっさり切り捨てる。
「もしも真弥が本気で俺を裏切ったことを後悔して反省しているのであれば、償いたいと思っているのであれば、裏切りの共犯者である尚紀にも罪を償わせようとするのが筋じゃないのか?」
「そ、それは……」
「なのに気乗りしないというならば、真弥、お前は俺を裏切ったことを後悔してるんじゃない、俺を裏切っていたことがバレたことを後悔しているんだよ」
きれいごとを言ってても、結局そうなる。
尚紀との浮気がバレなければ、俺をATM扱いして平和に暮らせる。一生バレなければ一生隠しとおす。そこに反省というものが生まれる余地などない。
人を平然と裏切るような女は、都合の悪いことなど忘れてしまえる生き物だから。
「そんなことありません、ありません……わたしは本気で、あの結婚記念日の夜に死にたくなるほど後悔して……」
「自分でそう思いたいだけじゃないか。だが俺から見たらそうとしか思えない。じゃあなんで後悔したらすぐに尚紀と切れなかった、なんで尚紀とのハメ撮りを残してた、なんで尚紀とのメッセージのやり取りを残していた」
「……」
「……よかったな、これでまた自分に向き合うヒントが見つかったぞ」
「……」
「もう一度聞く、尚紀を制裁するのに協力するか」
そういいながら、平静を保つふりをしながら。
なぜか傷ついている俺を、自分自身で嘲笑った。
──なんでだよ。なんで、ノリノリで制裁に協力すると言ってくれなかったんだよ。
俺もまた、何かの呪縛にとらわれたままなのだろう。人のことは言えない。
「……はい」
自分の中の何かをかみ殺すかのように、真弥が気のない返事を返してきた。このままじゃ、俺はまた爆発してしまいそうだ。
「……じゃあ、ちょっと出てくる。それまで、好きに過ごせ」
言質は取ったし、頭を冷やすために、外へ出てこよう。
まだ一カ月あるんだ、こんなことで爆発していたら体力が持たない。
怒りっていうのは、全身全霊のエネルギーだからな。
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果たしてこんなことまで書く必要があるのか。何の意味があるのか。それに需要はあるのか。
書いてる私がそんな葛藤でいっぱい。
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