結婚記念日(真弥視点)

 ※ 【注意】人によっては胸糞かも


 バカは死ななきゃ治らない、って話です。結婚記念日の真弥視点。



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 今日は、仕事が早く終わった。


 だから、尚紀と会うことにした。

 なんだかんだ言っても、家には刺激がないから。


 和成から受ける愛は、私に自信を与えてくれたが。

 それだけでは私の心は満たされることはなかった。


 何故だろう。


 そのことを考えるといつも、一つの結論にたどり着く。


 ──これは、きっと尚紀に愛を与えたせいでできた、私の心のスキマが埋まってないからだ。


 和成からいくら愛を受けても、私の心のスキマは埋まらない。

 それを埋めてくれるのは、尚紀から与えられる愛だけなのだから。


 そう仮定すると、すべてに説明がつく。


 和成に抱かれていても、さほど燃え上がることがないことも。

 尚紀に抱かれると、これ以上なく私が声を上げてしまうことも。


 和成からの愛は、もう満杯。

 だから、尚紀からの愛で、埋めてもらうの。


 ──大丈夫、尚紀から愛が全部返ってきたら、この関係はおしまいだから。


 そう決めると、和成のことを裏切ってるという後ろめたさはあっても。

 結婚指輪を外して尚紀と会うことに抵抗はなかった。


 そうしていつものように、尚紀と生まれたままの姿で抱き合う。

 いつもと違ったのは、尚紀が。


「今日は、つけないでしたい。いいだろ?」


 そう提案してきたことくらいだ。


 しかし、その提案を、なぜ私は断らなかったのだろうか。

 常識で考えれば、もし妊娠したとしても尚紀が責任をとらない、なんてことわかっているはずなのに。


 きっと、その時、私は。


 ──これで心のスキマが全部埋められる。


 そんな早とちりをしてしまったのだろう。愚かな女の勘違いだ。


 尚紀とたくさん愛し合ってから、時間をずらして別々にホテルから出てきたときは、もうすでに日付が変わっていた。


 そこで初めて、和成からのメッセージがたくさん届いていたことに気づく。


 ──遅くなる、心配しないで、ってちゃんと言っておいたのに、なんでこんなに頻繁にメッセージを送ってくるのよ。鬱陶しいわ。


 尚紀との行為の余韻も醒めぬ頭でそう思いつつ、メッセージの内容を確認してから、自分の心がとてつもない罪悪感に襲われるまで、わずか数秒の出来事だった。



『結婚記念日が終わるまでに、家に帰ってきてほしい。一緒に祝いたいんだ』



 忘れていた。すっかり忘れていた。

 慌てた私は、駅まで行く時間ももったいなく感じられて、タクシーを止めて最速で自宅まで戻る。


 どうしよう。

 ごめんなさい。

 こんな大事な日のことを忘れていたなんて、言い訳できない。

 私はなんてことをしてしまったんだろう。

 どうしよう。

 ごめんなさい。

 許して。


 なんて謝罪しようか全くまとまらないまま家に着いたが、明かりはすべて消えていた。時計を見ると午前一時になろうとしている。


 きっと和成は、寝てしまったのだろう。

 ひとり、寂しく。


 何もかもが暗闇のまま玄関のかぎを開け中に入り、居間の明かりをつける。

 手つかずの料理がテーブルに残っているのを確認して、申し訳なさで思わず床に手をついてしまうと、目に入ったゴミ箱へと何かが捨てられているのに気が付いた。


 プレゼントらしき、飾られた包装の箱。

 中を開けると、手紙が一緒に入っていた。


『結婚してくれてありがとう。愛してる』


 和成から、何度聞いたかわからない言葉だ。

 だが、そのあとにつづられた言葉を見て、私は思わず声を殺して泣いた。


『真弥も、そう思ってくれてたら、それだけでいい』


「ご、ごめ……ごめぇぇぇ……和成、かずなりぃぃ……」


 愛をたくさんもらったままで、和成に返してなかった私は。


 こんなバカな私は、どうやったら償えるのでしょうか。


 なんて罪深いことを、私は──

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