しらじらしい涙
もう話が通じない。
さすがにたとえ一時愛した女でも、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔など見たくもないので。
俺は真弥をほっといて自分の部屋へと退避した。
…………
意味なかったわ。
俺の部屋に真弥のベッドあんじゃん。
ま、いいや。鍵かけとこ。
別にもう今さら真弥を気遣う必要ないし。
俺がなにをしてもさ。
「いやああああああぁぁぁぁぁぁ」
しか言わないんだもんさ。わがままなことこの上ない。
なんでこんな女を好きになったんだろう、俺。
『恋は盲目』
──ははっ。もはやこれ以上ない自虐だな。
俺に悪いところがあったとすれば、おそらくそのあたりだ。わがままも笑って許すような甘さ。
転じて、今の俺はどうだ。
真弥への愛情も、今までの思い出も、どこかへ消し去ることができるという妙な自信もあることはあるが、じゃあ一か月でそれが完全にできるのか、と言われると不安にもなる。
…………
本当に、なんだったんだろうな。おれたちの結婚って。
好きになった女を忘れることが必須だなんて、できの悪いマッチポンプだ。
意味のない時間を重ねるだけなら、最初からやり直せるようにリセットしたいものなんだけど。
──こんな経験は、次に生かすこともできるわけもないよ。
―・―・―・―・―・―・―
死にたい。
もう死んだほうがましなくらい。
和成の中でわたしは、完全に過去の女になってしまったのだ。
それも、思い出して懐かしむことなど絶対にない、忌まわしい過去の女に。
命尽きるまで一緒にいてくれるはずだった伴侶が口に出す言葉は、ただただわたしの存在を否定するだけだった。
本当に、わたしはなんであんなことをしてしまったのだろう。
こんなふうに和成が変わってしまうとわかっていたのなら、絶対に浮気なんてしなかったのに。
幸せの絶頂にいたことで、自分が女王になったとでも勘違いしたのだろうか。
もしも、もう一度やり直せるなら、生まれ変われるなら。
綺麗な身体になれるなら。
今のわたしは、死ぬことすらいとわない。
そして、生まれ変われたらわたしは、今度こそ和成だけを愛する。
そんな、ただの思考破綻。
頭ではわかっている。
和成が変わったんじゃない。わたしの浮気が和成を変えてしまったんだと。
だからこそ、そんな自分が許せない。
わたし自身がわたしを許せないのに、和成がわたしを許すはずなどないのは当然だ。わかりきっている。
それでもわたしは願う。
わたしの命が消えるまで、一緒にいたいと思う相手は、和成だけ。
だから、その時までともにいてほしいの。
──信じて。
「あ、あああ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
寝室にカギをかけられ。
中に入れないわたしは、廊下で四つん這いになりながら。
深い後悔と自責の念と、そして白々しい望みが入り混じった涙をただただ流す。
でも。
わたしの涙なんて、何の解決にもなりはしないんだ。
──どうやったら、つぐなえますか。だれか、教えて、ください。
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