サレ妹の指摘(桂木大作視点)
和成の親友、桂木大作視点です。
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さて。
和成のほうは、どうなることやら。俺には全く分からない。
なんせ、俺の場合、彼女が浮気したらそのまま浮気相手にいっちゃって破局、なんてパターンだったからな。
正直、真弥ちゃんが和成に執着する理由すらもわからないんだ。
少なくとも、浮気をしたことで。
真弥ちゃんが和成の良さに気づいて、前より和成を好きになっている、ということはあり得ないわけじゃないように思う。
ま、だからといって結婚までしといて浮気するのは問答無用で真弥ちゃんが悪いとしてもだ。もう一度お互いに向き合ってもいいんじゃないかって思っちゃうんだよな。
和成が、浮気したことを許せないってことも理解はしている。
でもな、また俺の場合だけど。浮気した彼女に『別れるのはイヤ』とすがられたら、もう一度やり直したい。そんなふうに思った相手もいることはいるんだ。なんせ俺にも悪いところはあっただろうしな。釣った魚にエサはやらない、みたいな。
「……兄貴、すごい顔。なにかいやなことでもあったの?」
おっと。
俺が晩飯が終わったダイニングでひとり考え込んでいたら、妹の
…………
こいつも付き合ってた彼氏に浮気で裏切られ、かなり落ち込んでいたのだが。男性不信は治っていないにしても、最近ようやく普通の様子に戻ってくれた。
「……ああ。実は……」
今ならこいつに訊いてもいいかもしれない。
………………
…………
……
「……兄貴の考えが、甘いんじゃないかなあ」
「へ?」
というわけで、俺は茉莉のフラッシュバックがよみがえらないように、丁寧に丁寧に説明し、意見を求めたのだが。
まさかの俺の考え全否定。
「なんでだ? 別れる別れないどちらにしろ、もう一度お互いに目をそらさず向き合ってから結論出さないと、いろいろ吹っ切れないんじゃないか?」
「……甘いよ。普通ならそういうこともあるかもしれないけどね」
茉莉はわざとらしく普通、と強調してくる。
その意味が俺にはわからなかった。
「じゃあ、今の話の二人は、普通じゃないというのか? 茉莉は」
「二人じゃなくて……その浮気した女性のほうが、普通じゃ考えられないんだよね」
「ん? どういうことだ?」
やっぱり意味が分からない。詳しく説明するよう促すと、茉莉は言葉を選びながらゆっくりゆっくり答え始めた。
「あのね、パートナーに一番愛されてるという実感があるなら、普通は浮気しないものなんだよ。浮気するヒマがあるなら、パートナーにもらった愛情を返そうとするの」
「……」
「もちろん、パートナーに問題があって愛されてる実感がない時とか、はたから見て何かしら納得できる理由があるなら、自分を大事にしてくれる他の相手と浮気することはあるかもしれないけど」
「……」
「でも、今兄貴から聞いた話では、その男の人はわき目もふらずに奥さんを愛していたんだよね? なのに奥さんが浮気した」
「……そうだ」
「その奥さんがみんなを欺いてて、『旦那さんからの愛情が重すぎる。逃げたい』って考えてたなら浮気したのも納得いくんだけど。そうじゃないなら……」
「そんなことはないはずだ。今だって、『一番大事な人はあなたです』って言い張って、どんなに責められても離婚しないんだからな」
「……じゃあ、あれよ。その奥さんは多分、『理解できない人種』だね」
「……」
確かにそうかもしれない。
自分を愛してくれる相手に愛情を返すなんて、当然のことだからこそ。
もし愛している相手からたくさんの愛情を受け取っていたら、少なくともこちらからも愛情を返すのに必死で、浮気するヒマなんてないし、浮気しようという気にもならないだろう。
つまり、愛している実感もありながら、愛されてる実感もありながら、浮気する人間は。
実はどこかに嘘がある人間か。
それとも──普通の人じゃ理解できないタイプの人間か、そのどちらかということ。
茉莉はそう言っているのだ。
「そうだとすれば、理解できない人間ともう一度向き合ったって、根本から違うんだから理解なんてできるわけないし、その他の可能性も考慮するとなると、旦那さんがむしろ余計に打ちひしがれるだけだと思うんだよね」
「……」
「その旦那さんが離婚したいって思っているなら、早く離婚した方が正解だと思うよ」
「だ、だが、このままなにも分かり合えず離婚したら、この件をいつまでも引きずるだけじゃ……」
「それも違うって。納得できても納得できなくても、旦那さんのほうはいつまでも引きずるから。浮気ってのは、それだけ業が深い罪なんだよ」
「……」
反論、できやしねえ。
俺の考えは──間違っていたのだろうか。
和成のためを思っていたはずなのに。むしろ追い込んでただけなのかな。
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