お誘い拒否

 そして特に、間は今までと変わりなく。

 入院する前と変わりなく、という意味だが。


 真弥の作ったメシなど食えるはずもないので、一通り拒否。

 それでも今までよりかは少しだけ優しく断った。


 あくまで俺がそう思うだけなので、真弥がどう感じたかは知らない。


 この状態で新婚三択みたいなマネされても腹立つだけだ。

 おざなりな心で風呂に入って、あとは寝るだけ。


 …………


 寝室のベッドに入って、今後のことを少し考える。


 今週いっぱいは会社を休む予定だが、いちおうその前に挨拶だけはしないとなるまい。


 さて、どうしたものか。

 そんな悩みに比べれば、寝室になぜかベッドが一つ増えていることなど、些細な問題にすぎないわけで。


 コンコンコン。

 明日の行動を決めあぐねていると、ドアをノックする音がした。

 なにも返事はしない。


 ガチャ。


「……失礼、します」


 一拍ほど間をおいて、真弥が入ってきた。遠慮がちに。

 ふん、寝室だけでも一緒にするなんてのはいちおう俺も了解したわけだから、いちいちあいさつなどせずとも堂々と入ってくればいいじゃねえか。

 DVにおびえるかのごとく、俺の顔色をいちいち窺うようになっている真弥が癇に障る。言っとくけど精神的DVしやがったのはそっちだからな。


 まあ、開き直ってこられてもムカつくことに変わりはないが。


「……あなたは、明日、どうされるんですか?」


 自分のベッドに入ってから、夫婦らしい内容と言えなくもない質問を投げかけてくる真弥。

 無視したいのはやまやまだが、ここで無視してもどうにもならないともわかっているので、仕方なしに必要最低限なことだけ答える。


「仕事を再開する前に、いちおう会社にも顔を出さないとならない。挨拶だけはしてくるつもりだ」


「そう、ですか……わたしは明日病院へ行きますが、それ以外、特に用事はありません」


 訊いてもいないことを勝手にしゃべっているのはなぜだろう。相手しなくてもいいよな。中絶後の様子見診察だろうと予測はつくし。

 そんなふうに思ったので、俺は何も返事はしなかった。案の定そこで夫婦の会話は終わる。


 …………


 さて、もういいだろう、寝るか。


 と、部屋の電気を消したら。


「……やっぱり、わたしを、抱いてはくれませんか」


 真弥は、調子こいた発言をぬけぬけとしてきやがった。


「ああ」


 即答。


「……わたしの身体、汚いと思っていますか」


「当然だ」


「……」


 抱こうとしても抱けるわけもない。

 精神的なもんは、思った以上に厄介なんだ。


 少なくとも、俺の中でケリがつくまでは、立つものも立たないだろうから。


「……ごめん、なさい……」


 期待すんなって、言っただろ。

 ハメれば治る、なんて、ふすまのようにはいかないんだよ。少なくとも、俺と真弥は。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る